長旅のまえに

好きなだけ、存分に、思ったまま、怒涛のように書こう

男の夢を阻む女たち

2023-12-30 14:55:35 | 日記
大井町で風呂屋をやってる親父がいたんだよ。
苦労を重ねて風呂屋の親父になったんだ。
その苦労はわかるけどね、やだったよ。
番台から商店街の奥さんたちを眺めまわす目がさ。

眺めまわされてんのをこっちが知らないとでも思ってんのかね。
どの店の奥さんたちも亭主に愚痴ってたよ。
けど風呂屋に行かないわけにもなんないからね。

それがさ、あの親父ってば選挙に立候補するってんだよ。
商店街のどの店の奥さんたちも怒ったね。
「風呂屋の親父に裸を知られてんのと区議会議員に裸を知られてんのはなんか違うんだよ。あたしゃ、いやだね。あんたアイツが立候補するのを止めとくれ」

でも風呂屋の親父は俺の夢を諦めろっていうのかと逆切れしたよ。
男は男の夢って言葉にわりと弱いのさ。
亭主たちがあてにならないからさ風呂屋の親父の女房に直談判したんだよ。
商店街の女たちが押し掛けて説得した。

風呂屋の親父はさ、一緒に苦労した女房には感謝してたからね。
女房が商店街から孤立すると泣いて怒るのには負けたんだよ。

議員さんになりたい。
なってやる、見てろよ。必ず這い上がってやる、そう決心して力仕事も耐えたんだろうさ。
風呂屋のボイラー焚きは重労働だからね。
まっ、あんな目付きで眺めてたら女を敵にまわすことになるさ。
自業自得だね。

気の毒だったのは板挟みになったあの親父の女房だよ。
我慢強くてよく働いて。
女房が議員に立候補するなら私たちだって文句はなかったんだけどね。




毎週ちがう

2023-12-30 10:24:10 | 日記
たんぱく質を摂らなきゃと時々、近所のお肉屋さんでローストビーフを買う。
かなりレアっぽい時もある。
部位も毎週違うから大きさも違う。
それがまた楽しみ。

今回はこれ。
私はもう三枚位で充分だ。
マスタードで食べようか西洋わさびにしようかしばし考えるのも好きだ。
クレソンを挟んで食べるのも好き。

取り扱ってる近江産のステーキ肉を焼くよりあっさりしたローストビーフの方が好きだ。
なんせたんぱく質をとるのは体のための義務化してる。

祖母は元気だった。
寿司、鰻、天ぷらと明治女の好みだったけど「伊達にお飾りの下をくぐってきた訳じゃないよ」と言いながらバクバク食べてた。
お飾りの下と食欲の関連性は謎だけど96才で入院するとき「これでこの家も見納めだね。もう戻れないって感じるからね」
嘆くでもなくさっさと待たせてあったタクシーに自分でまとめた荷物を持って乗り込んだと聞いている。

まだ外は暗い

2023-12-30 05:47:08 | 日記
ガスストーブをつけて珈琲と共にまたベッドに潜り込む。
珍しくかたわらにいるのは白黒猫だ。
三匹の中では一番の人間大好き猫だ。
でも黒猫に遠慮する。

白黒猫の頭を撫でたり器の使い方の本を眺めたりして窓の外が明るくなるのを待つ。

おっ、リビングから黒猫が戻ってきた。
やっぱり白黒猫はベッドから降りて私の隣を黒猫に譲る。
喧嘩をしたら絶対に白黒猫の圧勝だろうに。
さあ、今日も1日が始まる。






ゆり子さん

2023-12-29 18:27:47 | 日記
銀座のお店にはさ元華族の奥様だったゆり子さんがいたよ。
おっとりしててねホステス流の接客なんかしなかった。ボトルをいれましょ的なことさ。

だけどいつも売上はいいんだよ。
華族だなんて言わないんだけどさ、闇屋の親父が客になるんだよ。
うちの店に来るほどになってんだからやり手の野心家闇屋だね。
みんな金は持ってる。

その親父たちが何にも言わないのにボトルを入れて勝手に金を使うのさ。
しかもだよ、親父たちはゆり子さんを口説かないんだ。
高貴なものに闇屋の親父たちは惹かれてたんだね。

ゆり子さんは着物だって上等じゃなかったよ。全部、空襲で焼けちゃったからね。
夫は有り金、事業をしましょうと出資させられて結核で死んじまった。
娘が一人いたよ。

そんなゆり子さんにうんと年下の黒服が惚れたんだ。
あの男は黒服のなかでも浮いてたね。
せっせと金をためてワインの勉強なんかしちゃってさ。
客には好かれたけどね。

誰もみんなゆり子さんはあの黒服に騙されてるんだと言ってたよ。
騙してないまでも便利に利用されてると思ってた。
不釣り合いもいいとこだったからね。

しかもさ、ゆり子さんをおいてフランスに行っちまった。
やっぱりねとみんな言ったよ。
なのにゆり子さんは微笑んでるだけ。

数年経ってさ、私らにも真実が見えたけどね。
しばらくしてゆり子さんは店を辞めて築地に立ち飲みの珈琲店を出したのさ。
築地の客はみんな忙しい。
店は集中的に混雑するけどね。
狭い店でも充分さ。
私も買えば良かったよ。

その店の資金はあの黒服が出したんだよ。
待ってて欲しいって。俺は親も兄弟もいない、日本で待ってる人が欲しいんだってね。

おっとり優しいゆり子さんはあの黒服の聖母だったんだろうね。
築地の珈琲店の資金を出したと知ってみんな唖然としたよ。
ドケチだったもの。
ゆり子さんに本気だったんだと信じたよ。

けどさ、ゆり子さんは天に帰っちゃったんだよね。
店で倒れてそれっきり。
私もね、それから後の事は知らないんだよ。
なんかさ、運ってあるような気がしちゃうね。
仕事運があるぶん、家庭運がないっていうかさ。






冬の和菓子

2023-12-29 13:03:22 | 日記
頂き物である。
和菓子の美しさが今はケーキより気持ちにしっくりくる。

どれにしようか迷いながら選ぶ。

「寒椿」にした。
白餡がぎゅうひに包まれている。

名前も美しい。
椿姫のカメリアという言葉も好きだ。

祖母は椿が嫌いだった。
打首を連想するから庭に植えてはいけないと言われて育った。
私には大好きな祖母なのだけど祖母が嫌った「椿」も「藤」も「猫」も私は大好きなのである。
祖母が好きだから後ろめたい気もする。
愛情とは不思議な作用があるみたいだ。