Pictures at an Exhibition (5/5) / Modest Mussorgsky / Semyon Bychkov / Oslo Philharmonic
私が所属しているオーケストラで8年前にウクライナ人の若いピアニストとラフマニノフのピアノ協奏曲2番を共演しましたが、この度のロシアのウクライナ侵攻により犠牲になったと聞かされました。
未だ若くて将来有望だった彼女だけに残念さと悔しさを拭い切れません。
どうしてこのような事がこの現代におこるのでしょうか。
偶然ですが今年7月の定期演奏会はムスログスキーの「展覧会の絵」を演奏します。この曲の最終にはキエフ(キーウ)の大門があり、金管奏者にとっては高音域が続きかなりキツイ曲ですが特別な想いで演奏するつもりです。
7月の時点ではウクライナ情勢がどのようになっているかは判りませんが、ウクライナにエールを送るつもりで日々練習を重ねて行こうと思います。
小説「Obralmの風」
深夜になると車内も程よい人数で座席にはゆったりと座れる。
乗車客の半数以上は飲酒が判るほど目の周りを赤く染め、迫り来る睡魔と闘っているように見える。
岳は美華と並んで座っていると誰に対してではないが、自然と優越感に満たされているように思える。
今までなら他の乗客同様疲れきった表情を漂わせて無気力に座っていただろう、しかし今日の自分は若い女性を伴ってどこか活きいきと目が輝いているのではないのだろうか。
彼女が言う病魔に取り付かれる性格も、このような経験を豊富にしていたら、もしかすると回避出来ていたかも知れない。
でも自分が世間からかけ離れた性格の持ち主かと言えばそうでもないと思っている。
ただ機会に恵まれなかっただけだろと、自分の歩んだ足跡を心の中で懸命に正当化しようとしている。
(もしかしたら中島が美華をけしかけて一計を案じたのかも知れんなあ・・・)
電車はゴーゴーと音を立てて淀川を渡った。
マンションに帰り着くと美華は珍しそうに部屋を見回した。
「そんなに珍しい?」
「久保さんらしいなあって思ったの」
「地味な性格だから部屋も地味やろ?」
岳は言いながら苦笑した。
「いえ、無駄な物がないような気がして」
「いつ死んでもいいようにしているだけや」
美華は驚きの顔をした。
「アハハ、ごめん。そうやなくて・・・。独り住まいやとついつい質素が生活の柱になるんや」
「死ぬなんてやめてよ、突然そんなことを言われると驚きもするわよ」
岳達はこれから先どうなるのかは判らないが、遅かれ早かれ彼女には本当の事を話さなければならないと思った。
「まあ座って、飲み直そうやないか。ビールでもええ?」
美華はソファーに掛けてもまだ珍しそうに部屋中を見回している。
「はい、私が用意しましょか?」
「やあ、ええよ僕がやるからゲストはそのままくつろいでて」
彼女が立ち上がろうとするのを制して缶ビールを二つテーブルに置いた。
「缶のままでええね、さあ改めて乾杯しよう」
ビールをかざした時突然電話が鳴った。
「誰やろう?今頃・・・」
岳は立ち上がって時計を見ると十二時前であった。
(もしかして中島が我々の様子を聞こうとしているのだろうか、仕方のない奴や)
岳は受話器に向かって語気を強めて話した。
「もしもし、どうしたんや?」
オーム返しに彼の声が聞こえると思ったのに、予想に反して電話の向こうに静寂が続いた。
私が所属しているオーケストラで8年前にウクライナ人の若いピアニストとラフマニノフのピアノ協奏曲2番を共演しましたが、この度のロシアのウクライナ侵攻により犠牲になったと聞かされました。
未だ若くて将来有望だった彼女だけに残念さと悔しさを拭い切れません。
どうしてこのような事がこの現代におこるのでしょうか。
偶然ですが今年7月の定期演奏会はムスログスキーの「展覧会の絵」を演奏します。この曲の最終にはキエフ(キーウ)の大門があり、金管奏者にとっては高音域が続きかなりキツイ曲ですが特別な想いで演奏するつもりです。
7月の時点ではウクライナ情勢がどのようになっているかは判りませんが、ウクライナにエールを送るつもりで日々練習を重ねて行こうと思います。
小説「Obralmの風」
深夜になると車内も程よい人数で座席にはゆったりと座れる。
乗車客の半数以上は飲酒が判るほど目の周りを赤く染め、迫り来る睡魔と闘っているように見える。
岳は美華と並んで座っていると誰に対してではないが、自然と優越感に満たされているように思える。
今までなら他の乗客同様疲れきった表情を漂わせて無気力に座っていただろう、しかし今日の自分は若い女性を伴ってどこか活きいきと目が輝いているのではないのだろうか。
彼女が言う病魔に取り付かれる性格も、このような経験を豊富にしていたら、もしかすると回避出来ていたかも知れない。
でも自分が世間からかけ離れた性格の持ち主かと言えばそうでもないと思っている。
ただ機会に恵まれなかっただけだろと、自分の歩んだ足跡を心の中で懸命に正当化しようとしている。
(もしかしたら中島が美華をけしかけて一計を案じたのかも知れんなあ・・・)
電車はゴーゴーと音を立てて淀川を渡った。
マンションに帰り着くと美華は珍しそうに部屋を見回した。
「そんなに珍しい?」
「久保さんらしいなあって思ったの」
「地味な性格だから部屋も地味やろ?」
岳は言いながら苦笑した。
「いえ、無駄な物がないような気がして」
「いつ死んでもいいようにしているだけや」
美華は驚きの顔をした。
「アハハ、ごめん。そうやなくて・・・。独り住まいやとついつい質素が生活の柱になるんや」
「死ぬなんてやめてよ、突然そんなことを言われると驚きもするわよ」
岳達はこれから先どうなるのかは判らないが、遅かれ早かれ彼女には本当の事を話さなければならないと思った。
「まあ座って、飲み直そうやないか。ビールでもええ?」
美華はソファーに掛けてもまだ珍しそうに部屋中を見回している。
「はい、私が用意しましょか?」
「やあ、ええよ僕がやるからゲストはそのままくつろいでて」
彼女が立ち上がろうとするのを制して缶ビールを二つテーブルに置いた。
「缶のままでええね、さあ改めて乾杯しよう」
ビールをかざした時突然電話が鳴った。
「誰やろう?今頃・・・」
岳は立ち上がって時計を見ると十二時前であった。
(もしかして中島が我々の様子を聞こうとしているのだろうか、仕方のない奴や)
岳は受話器に向かって語気を強めて話した。
「もしもし、どうしたんや?」
オーム返しに彼の声が聞こえると思ったのに、予想に反して電話の向こうに静寂が続いた。