カメラを持って出掛けよう

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モーツアルトの音楽

2021年01月03日 | ザルツブルク(オーストリア)
近年、特に昨年はテレビの番組が面白くなく感じた上に朝から晩までコロナ恐怖を煽るような報道ばかりなので全く見る気がしなくなっていました。
現在はYouTubeがテレビで鑑賞出来ることを知ってからはもっぱら音楽を中心とした動画で楽しんでいます。
ネットとテレビ番組に関してはうんちく話は後日においておきます。




偶然見付けたモーツアルトの作品でヴェスペレ「証聖者の盛儀晩課」ハ長調 K339の第5曲ラウダーテ・ドミヌムの美しさに心を奪われました。
今までは「アヴェ・ヴェルム・コルプス」ニ長調、K.618が最も美しい(直訳歌詞は残酷ですが)と思っていましたが、それを上回る曲だと感じています。



昔ザルツブルクで木管楽器とピアノ五重奏のレッスンを受けた時師匠がモーツアルトの音楽は常に天から降って来るほど美しく素晴らしいけどベートーヴェンの曲は
時々天に届く感じがするとおっしゃっておられたのを思い出します。
現にモーツァルトピアノ五重奏は何度演奏しても飽きないけどベートーヴェンの類似した曲は美しい箇所はありますが何度も演奏しようとアンサンブルメンバーからは出ません。

YouTubeではこんな素晴らしい作品との出会いがあるので芸人がコメントする報道番組やバラエティーの多いテレビ番組からはつい遠ざかって行くような気がします。





小説「Obralmの風」



「突然何を言い出すんや!」
「すんません色々考えた末に決めたんです」
「君、動機や、そこまで至った理由を聞かんと。そうかうんウン良しと言う訳にいかんからな」
眼鏡の上端から上目で岳を睨みながらグラスを持った。
「とりあえずは乾杯や!ウン?何に乾杯や?」
グラスの高音質な余韻に耳を傾けている遠藤に岳は語りかけた。
「実は先日の健康診断の再検査で末期癌が発見されたんです」
「ち、ちょっと待て!末期癌やと!?何でそんな大事なこと話してくれんかったんや」
遠藤はひと口飲んだワインを危うく噴出しそうになりながら手で岳を制した。
「いや、そやから今話しているんですけど」
「そりゃえらいこっちゃ、それで入院はいつからや?末期や言うても治療次第では克服出来るかも知れんさかい、早く段取りせなあかんがな」
興奮気味の遠藤に少し声のボリュームを落としてくれるように岳は両手を使って頼んだ。
「いや部長、どっち道駄目なら病院の虜なんかにはならずに動ける間は残った時間を自由に使いたいと考えてるんです」
「治療もせんうちから何で諦めるんや。そんな悲観的になったらあかん、やるだけのことはやってみたらどないや」
「おっしゃって頂くことは本当にありがたいですけど、入院をしたが最後二度と世間に戻って来られない気がするんですわ」
メニューを持って来たボーイを見るなり遠藤は話を中断した。
「何か好きなもの食えよ。今日はオレの奢りやから遠慮はするな」
と言いながらも彼は自分の好きなフィレ肉ステーキを注文した。
「部長、肉なんか食って大丈夫なんですか?また痛風が悪化しませんか」
「シーッ、君声が大きいよ。このことはシークレットなんやから」
岳は深刻な話を忘れて腹が痛むほど笑った。
一年中彼のように朗らかで笑いを絶やさなければ深刻な病など罹らないかも知れない。
「そんなに面白いか?何やったらこの間受けた注腸検査の話したろか」
「ああ、半休すると言っておられながら二日休まれた検査ですか?」
「君、それは余分や。わきまえなさい」
「はい」
遠藤は自分の検査体験談を面白おかしく話してくれ、話は趣味の野球談に移ろうとしていた。岳は涙が出るほど笑ってギブアップした。
「もう、部長勘弁して下さい」
「ええ?まだ次があるのに、こう見えても僕は社会人野球チームのエースなんやから」
彼は岳が深刻になり過ぎないよう精一杯のピエロ役を演じてくれているのがたまらなく嬉しかった。
「話を戻すけど、大変な病を抱えて何が出来る?もし病状が悪化した時は手遅れになるぞ」
「判ってます、でもこのまま人生終らせたくない気持ちの方が強くて」
「終らせたくないと言っても、何をするつもりなんや」
「正直言ってそれは未だ決まっていないんです」
「そんな漠然としたこと言わんと、きちんと治療受けて養生すればきっといい方向に運が向くよ」
「私の身になってご心配頂きありがとうございます。とりあえずは今月末で退職させて頂き、これからのことをゆっくり考えてみます」
「そうか、こればっかりは無碍に引き止められへんからなあ。まあしっかり考えて生きることを最優先に考えようや」
わが身のように心配してくれる遠藤部長に岳は頭が下がる想いがした。
「ところで久保君、どうして今まで結婚しなかったんや。内の事務所にも若い女性は居たのに興味はなかったんか」
「どうしてといわれても。言っておきますが岳は異性に興味のない癖じゃないですよ。歳を重ねるに従って何だか邪魔くさくなって、独りの方が気楽で過ごし易いのが本音です」
「でも職場から帰って気持ちが安らぐ環境はいいものやぞ。と言っても内は怖いけど」
「この限りない自由をパートナーに奪われるのかと思えばどうしても消極的になってしまいまして」
「君、それは違うよ。奪われるんじゃなくて共有するんだよ、それが夫婦のいいところさ」
「共有?部長、もしそれぞれが違う価値観だったら共有どころか諍いにならないですか?」
「それは屁理屈やで、常に二人三脚でやればいいんだよ」
「じゃあ部長宅はそのようなオシドリ夫婦で円満にやっておられるのですね」
「いや、まあそんなとこかな」
「えらい濁った答えですね」
「そ、それはやなあ、まあたまにはリクレーション諍いをするかな?」
彼は眼鏡の端を摘むと悪戯っぽい目をして平静を装った。
「まあ残された時間を誰とどのように過ごすかはじっくり考えてみます」
「君はどうしてそんな冷静に自分の事を語れるんや、普通なら泣き喚いても不思議はないのに」
「いえこれでも悩み考えたんですよ。でもどうあがいても仕方のないことですから。まあ世界一周旅行でもしてみますか」
「君は偉いよ、注腸検査ごときで大騒ぎしている僕が恥ずかしい」
遠藤は勘定書きを手早く掴むと片手で岳を制した。
「今日はいい、僕に支払わせてくれ」
岳は遠藤と別れると電車で帰路についた。
西宮北口駅のコンコースは先日の昼間と変わらぬ人の流れだった。
岳は少し酔いを冷まそうと先日のように立って居ようと考えた。
天候が悪くなるのか外から流れ込んでくる風が生暖かい感じがする。
人々の流れは家路を急ぐかのように早い。
下りのホームからエスカレーターで上がって来る人並みの中に岳は自分の目を疑う人物を発見した。
大山のペンションに泊まりに来て夜中に帰ったあの女性である。
(あの時の女性・・・)
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