本誌連載『マガジンの虎』で、今回は作家・コラムニストの亀和田武氏が競馬誌を取り上げる。
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馬も強かったが、騎手の腕も光った。ダービーをドゥラメンテで制したのは、イタリア人騎手ミルコ・デムーロだ。JRAの騎手試験に合格して、3月にデビューしたばかりだ。
アンカツこと安藤勝己・元騎手とミルコの<袋とじ対談>を企画したのは「競馬最強の法則」(KKベストセラーズ)6月号だ。すごいね。
袋とじだよ。ヌードじゃなくて、騎手の対談なのに袋とじ。この2人に惹かれる競馬ファンがいかに多いかわかる。
「アンカツさん、ボクと初めて会ったのは小倉でしたよね。覚えてます?」「おお、覚えとるわ。でも当時の俺は笠松所属やったで、印象はそんなに強くなかったんやない?」。「騎乗スタイルが独特で」とミルコ。「レース中も『アンカツはあそこにいるな!』という感じで、当時からマークしてました」
アンカツは岐阜の笠松競馬のトップ騎手だった。地方から初めてJRAに移籍した騎手だ。武豊ひとり勝ちの単調さを破った天才だ。陽気なミルコが本音を漏らす。「ボクは今36歳なんですけど、JRA試験に合格した直後に『移籍こそできたけど、あと何年乗れるのかな?』って、先のことがどうにも不安になってしまって」。「なんやそれ?」と安藤さん。「俺が移籍したのなんて、40過ぎてからやで」
ミルコも友人に同じことをいわれた。「あの人は42歳で免許取って、52まで乗った。10年で20個もGI勝ったんやぞ!」と。それで吹っ切れた。
ミルコは日本語で勝利インタビューに応じる。1カ月で驚くほど上達した。明るくて健気。安藤は「成功する奴はみんな運を持っとる。で、運のある奴はみんなポジティヴ」と言葉を贈る。同感。
※週刊朝日 2015年6月19日号