アコギを今は弾いてます。
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久しぶりです
爺です
お元気ですか
マランツ
私は現在釧路ですがトマムに転勤します。
知恵袋は参加されていますか?とっちゃん坊や
は葵変わらず元気ですね。
https://www.no-ichigo.jp/book/n1211391/1
一章
沖田総司は道を散歩するのが好きだった。
沖田 総司は八王子の在の生まれである。
元々農家な のだが剣の道が好きでたまたま近くにあった近 藤勇の道場に行き来するうちに、四天王の一人 に数えられ、気がついたら王城の地で人斬りを 重ねる羽目になった。
ろうがいという死病にか かり、息をするのも困難だったが、ふしぎに剣 を持って敵と相対する時だけは咳が止まり、呼 吸に乱れを感じることがなかった。
沖田総司 は色の白い美しいおのこだった。
道を歩くと女 が総司を見て頬を赤く染めたことが一度となく あった。
ある日共に歩いていた土方歳三がから かった。
「総司、君は女を知らぬのだろう」
総司は答えた。
「はい、必要を感じませぬ」
土方歳三は自分が仕える局長の近藤やかつて盟 友だった芹沢鴨が女をめぐって問題を起こして いたことを思い起こして言った。
「なるほど、子をもう けぬなら、女は必要もないものなのかも知れぬ な」
土方歳三は腰に差していた差し料を抜くと 不意に道端の草を払った。
丈の低い青色の花 が剣に従って散った。
「おやめください」
総 司は土方をいさめた。
「どうしてだ」
「花に も命というものがありますゆえ」
「君や俺が毎 日のように散らせている浪士たちの命は散らし てもいいのか」
「それは公儀のための人斬り、 道端に咲いている花に罪はありません」
「そ うか」
土方は黙った。
総司の言うことに一理あ ると思ったからである。
「ならば聞くが、総司 、君はこの花の名前を知っているのか」
「は い」
総司は答えた。
土方は驚いた。
まさか総 司が知っていようとは思えなかったからである 。
「おおいぬのふぐりと申します」
総司が続 けて言った。
確かにその通りだった。
土方の生 家は薬種を扱う商家も兼ねた農家であった。
「総司、君は本草学に長けているのか」
土方は 総司に言った。
「いいえ、けれども別の世に生 まれたならば今度はそうした学問をしてみとう に思います」
土方は黙った。
二人の行く末を 待ち受ける暗い運命が薄暮の道にかさなって見 えた。
二章
沖田総司は道を散歩するのが好きだった。
とは 言っても新選組の見廻りがあるので遠くまでは 行けない近くの社寺の路地をぶらぶらしながら 、団子屋に入り煎茶を飲むのが好きであった。
ある日、馴染みの団子屋に寄ると見知らぬ女が 髪をざんぎりにして帯を不器用に締めて注文を 聞きにやって来た。
「初めて見る顔だな」
総 司は用心して言った。
長州の間者が女を使って 新選組の隊士に取り入り、討ち入りの日時を聞 き出そうとすることが何度か行われていた。
そういう場合は女と隊士共に頸を斬られてそこ ら辺に晒し者にされておかれる。
総司は局長の近藤勇の道場に学んだ者であった からまさか死骸を捨て置かれることはあるまい が、秘密をもらせば斬首は必定であった。
店の 亭主が現れて言った。
「この女は今朝がた道に 倒れていたのを拾うて来たのです」
「はい、 私は怪しい者ではありません、平成の御代から 時を越えてこの世にまろびでたのでございます 」
丸顔のよく見ればかわいらしくみえないこと もない面をした女であった。
「名を何と申す 」
「さしはらと申します」
「面妖な名前じゃ な」
女は言った。
「豊前の苗字でございます 」
総司は驚いた。
「武家の出か」
「いいえ、 平成の御代では平民でも苗字を得ることができ るのでございます」
「そうか、俺は沖田と申す 。俺も農民の出だ」
こうして総司はその女と親 しむようになった。
虹色の帯を締め豚に似た鼻 をしていたので総司はその女を虹色のブー子と 呼びなすようになった。
三章
二人が親しんでいるということは隊士の口を通 じて近藤勇の耳にも入った。
「歳さんよ」
「 何ですか、近藤さん」
土方歳三は二人きりでい るときは近藤を局長とは呼ばず近藤さんと呼ぶ ことにしていた。
「総司に女ができたらしいな 」
「あれは女ではなく妹のようなものですよ」
「そうか、いずれにしろよかったな」
「はい」 二人とも総司の命が長くないことを知っていて そう言うのである。
ある日、総司の命がいよい よ尽きようという時が来た。
土方が病床の総司に尋ねた。
「ブー子を呼ぼう か」
総司は苦しそうに息をしながら言った。
「やめてください」
「どうして、会いたくない のか」
総司はとぎれとぎれに言った。
「私は 新選組を脱退して八王子に帰り百姓をしに戻っ たとブー子に伝えてください」
土方はうなずい た。
「わかった」
?
四章
沖田総司が死んでいなくなった後、土方は一人で座っ ていると不意に涙がこぼれて弱った。
「歳さん よ」
そこに局長の近藤勇が土方のいる座敷のふ すまを開けた。
「これは近藤さん、ご用です か」
「用がなけりゃ来ちゃいかんのかい」
近 藤が言った。
「そう言う訳ではありませんが、 新選組を預かる局長が下僚の座敷にやって来る とあっては隊士官が余計な詮索をしないとも限 りません」
近藤が土方とひそひそ話をしている と必ず二三日後に隊士が庭に引き出されて「士 道不覚悟」と申し渡されて首をはねられるのが 常であった。
「総司のことだが、やはり女に は知らせてやった方がいいと思ってな」
「そ れはいけません、総司が堅く我々に禁じていた ことです」
近藤はそれ以上は言わなかった。
五章
土方はそれを見て思いついて言った。
「けれど も総司が八王子に帰ったと言ってゆかりの品を ことづかったと渡すのはかまわないのではない かと思います」
近藤が尋ねた。
「何か預かっ ているのか」
「いいえ、総司が亡くなった後、 傍らの手箱を開けてみたら、かんざしがあった のです」
「女にやるつもりだったのかな」
「 渡すつもりでいて、ろうがいが思いの他ひどく なってきてで団子屋にも行けなくなったものと 思われます」
土方は言った。
三日後、土方は 新選組局長近藤勇の名をもって女を宿舎にして いる寺の境内に呼び出した。
近藤は本堂の腰か けにかけて女を見おろしている。
土方はその 脇で侍従のごとく控えている。
「その方が虹色の ブー子か」
「はい、沖田様がそのように呼び習わしておら れました」
「我らが同志沖田総司は生家に戻り 百姓をすると言って脱隊した」
女は言った。
「いいえ、存じております。沖田様はもうこの 世におりません」
土方が口を挟んだ。
「女、 無礼であろう」
「申し訳ありません、しかし私 は沖田様がもうこの世におらないことはわかっ ているのでございます」
「なぜだ」
近藤が尋 ねた。
「女の勘でございます」
女が言った。
「そうか、わしにはそれ以上は言えない。沖田 との約束があるからだ」
近藤が言った。
「左 様でございますか」
女はそう言うと頭を地面に つけるようにお辞儀した。
近藤は言った。
「 沖田からことづかったものがある、土方君、渡 してくれ」
土方は本堂から身軽に踏み台を降り ると和紙に包んだかんざしを渡した。
六章
女は土方から渡された和紙を開くとかんざしが 現れたのを見てしげしげと見つめていた。
そし て言った。
「これを私にくださるのですか」
近藤が答えた。
「それは沖田の手箱の中にあったものだ」
女はそれを聞くと身を震わせてウッとうめいた。
そして大粒の涙をこぼした。
「よかったら髪に挿してみてくれないか」
土方が言った。
自分がその目に焼きつけておいて冥土で沖田に会ったときにその様子を教えてやろうと思ったのである。
「はい」
女がざんぎりに した髪にかんざしを挿すとそれはあつらえたよ うに似合った。
近藤がすかさず言った。
「豚 に真珠だな」女が笑みを見せた。
七章
土方が気になっていたことを尋ねるという風で 女に言った。
「虹色のブー子とやら、そちは平 成の御代からまろびでたと沖田に申しておった ということだが」
女が要った。
「はい、その 通りです」
「平成とはこの御代の前か後か、ど ちらだ」
女は言った。
「後でございます」
そ れを聞いていた近藤が尋ねた。
「ではおまえは 公儀がこれからどうなるのか存じておるのだな 」
「はい」
女が言った。
「どうなるのだ」
近 藤がたたみかけた。
「それは申し上げられませ ん」
近藤と土方は黙った。
女は申し訳なさそ うに体を震わせた。
「よいのだ」
近藤が女を 慰めるように言った。
八章
土方が女に尋ねた
「ブー子とやら、その他にこ の際何か我らに申しておきたいことはないか」
「一つございます」
女が言うと近藤が応じた。
「言ってみろ」
女は近藤の目をまっすぐに観て 言った。
「近藤勇様の虎鉄は偽物でございます 」
その場が一瞬凍った。
土方は困ったことに なったと思った。
隊士の血で寺の境内の土に血を吸 わせることはかまわない。
しかし、女の血まで 吸わせることははばかられたのである。
その 時、その場をつんざくような笑い声が起こった 。
「わっはっは」
近藤は笑いながら女を見お ろすと言った。
「そうか」
そして、本堂の奥 に引き上げて言った。
土方もそれに従った。 女一人が境内に残された。
九章
ある日、土方が座敷にこもり、俳句をひねって いると監察の山崎蒸が土方の藻とを訪れた。
「 土方さん」
「おお、山崎君か」
土方は山崎を 買っていた。
町の鍼医の息子でありひどく裕福 ではあったが志を持って新選組に入り、近藤勇 のために身を粉にして働いてくれていた。
赤 穂藩の討ち入りに一度は連袂(れんぺい)して そ の後に抜けた男の末裔だという噂もあったが、 土方はそうした出自は問題にしていなかった。
そもそも農民の子である土方には武士というも のがそうした体面と血脈にとらわれることがひ どく不自由なものに思えて仕方なかったのであ る。
山崎は言った。
「困ったことになりまし た」
「何がだね」
「虹色のブー子と申すおな ごのことです」
「ああ、彼女か」
「隊士が切ると騒いでおります」
「なぜかね」
「局長の虎鉄が偽物だと言い放ったそうですね 」
土方は驚いた。
あの場には自分と近藤以外他 には誰もいないと思っていたからである。
「 誰から聞いた」
「実は本堂の下に隊士が昼寝を して聞いていました」
「何だと」
土方は声を 発した。
普段なら境内の下をのぞきこんで誰か 潜んでいないか確かめておくのであったが呼び 出したのが女であったために油断していたので ある。
「彼女は沖田君の思い人だよ」
「そう らしいですな」
土方はそう言いながらこれは 駄目だと思った。
事は近藤個人の問題ではな く、新選組局長としての近藤の体面に関わるこ とであったからである。
「止められないのか 」
「もはや無理です」
「わかった」
土方はそう言うより他に仕方なか った。
山崎は座敷を下がった。
教えてくれたの がせめてもの彼の配慮だったのだろうと土方は 思った。
土方は控えていた侍童に言った。
「 ちょっと出てくる」
土方が俳諧をひねるため外 出するのはそれまでにもなかったことではなか った。
そうして土方が向かったのは女がいると いう団子屋であった。
土方は訪なうたことは なか...
投稿できません
サムが活躍しているのを見て心をなごませています
しかし
元カテ先生がいなくなったので
探していました
「逃げろ。隊士たちがお前を斬ると騒いでいる」
土方は言った。
女はかぶりを振った。
「私は逃げません」
土 方は言った。
「では、逃げる代わりに、私を平成の御代に連れて行 ってくれ、まろび出たのであればそこへ戻るこ とも可能であろう」
女はしばらく考えていた がやがて言った。
「カモンカモンカモンカモン ベイビー誘(いざ な)ってよ」
十章
不意に目の前が暗くなったかと思うと土方歳三 は女と手を繋ぎながら時を駆ける旅に出ていた 。
雷鳴と電光が幾度も鳴り閃いた。
三日三晩 ほども経ったかと思う頃、不意に胞衣(えな)か ら胎児が生まれでる時のようにポコッと空間の 中に土方は女と手を繋ぎながらまろびでた。
「ここはどこだ」
土方が尋ねると女は言った。
「私の部屋だよ」
「確かにここは京の町ではな いようだな」
土方は言った。
「あー、疲れた 。今日はもう寝るべ、土方さんはそこのソファ で寝てよ、明日町をあんないするから」
そう 言うと女は虹色の帯を解き、寝巻きに着替える と寝台の中に潜り込み灯りを消した。
土方も仕 方なく女が指さした寝椅子に寝転び西洋の毛布 (ゲット)をかぶって寝ることにした。
近藤さん には悪いことをしたが、女を殺した上であの時 代に留まっているよりは新しい御代にまろび出 て新しい生き方を模索してみるのもよいような 気がした。
十一章
翌日、女は土方が起きる前に起きて朝餉(あさ げ)を用意してくれていた。
「これは何だ」
土 方は食卓に並ぶ三日月の形をしたかぐわしいカ ステイラ状の食べ物を口にして訪ねた。
「クロ ワッサンだよ」
「黒和餐(くろわさん)か、黒と 言うより焦げ茶色だな」
「今日は土方さんの 生まれたところを見に行こうっか」
「八王子 か」
「うん」
「なぜ私の生まれたところを知 っているのだ」
「仕事で八王子に行ったとき電 車の窓から『ようこそ、土方歳三のふるさと日 野市へ』っていう看板を見たんだ」
「今は火 熨斗(ひのし)というのか」
「そうだよ、その格 好じゃまずいからこれを着て」
土方は女が差 し出した西洋人の身なりをまとった。
「よか った、お兄ちゃんの服がぴったりだ」
「兄者が いるのか」
「うん」
「兄者は何をしておられ る」
「大分で教師だよ」
「おお、藩校の師範 をしておられるのか」
「そんなんじゃないから、それから刀はここに 置いておいてね。持って歩くと警察に捕まるか ら」「警察とは監察のようなものか」
「そう そう」
土方が女に刀を渡すと女は刀を台所の床 下の収納に手際よく入れた。
土方は武士の魂 をぞんざいに扱うなと言おうかと思ったがやめ た。
元々武士ではなく農民の子なのだ。
それ にここでは武士と農民の区別もなさそうである 。
「じゃ、行こうか」
女は土方に草履のよう な履き物をはかせた。
「これは何だ」
「スニ ーカーさ」
「脛烏賊(すねいか)か」
十二章
生まれた町を訪れた土方は女の案内で日野市役 所に行き日野市長と会うことができた。
女は皆 から好かれているらしく、彼女が話すとみんな がニコニコして事がうまく運ぶのが不思議だっ た。
土方が女に連れられてこの世にまろびでた のだがと話すと日野市長は疑うこともなく、幕 府と話をつけると土方は日野市の名誉市民とし て小さな箱形の住まいを与えてくれ、給金もく れることになった。
女は「じゃあ、私はこれ でバイバイね」
そう言って去って行った。
土 方は差し料(日本刀)を返せと言おうと思った が やめた。
どうせこの御代では必要がないのだ。
日野市長は親切に土方にマナーとこの時代の言 葉を教えてくれる教師をつけてくれ、土方は半 年もしないうちに不自由のない暮らしをするこ とができるようになった。
近藤勇のお墓にもお参りした。
自分の墓も函館 にあると聞かされたが、一体誰の骨がそこに埋 まっているのか定かではないので見に行くのは やめた。
そして、日野市にある首都大学の理学 部の聴講生となり、本草学を学ぶことにした。
今は本草学ではなく植物学というらしい。
沖田 総司が別の御代に生まれたなら本草学を学んで みたいと言ったのをふと思い出したからである 。
今は毎日が新しい知識を身につけていくので 大童である。
首都大学での課程を終わり、大学 の卒業資格を得たら、京の地に行き、そこで大 学院に通い細胞学を修めようかと本気で考えて いる。
その後、あの女には一度も会っていない 。
おしまい
第195作
熊笹三枝子との約束
元カテは一人で生きているようでいて、実は二人暮らしであった。
これは
弘法大師と同行二人とかそういう意味ではなく、体内に一匹のサナダムシが潜んでいたのであった。
ふだんは静かにしていて、産卵の時だけ肛門の辺りに降りてきて肛門の周囲に卵を産む。
元カテの体内にもう七年ほど住んで体になじんでいるので、元カテはけして気づかないのであった。
そして、サナダムシがいることで元カテは他の他人と比べて花粉症に悩まされることがなく、快適に暮らせていた。
花粉症とは体内のアレルギー攻撃物質が暇なので、花粉に反応するのだが、サナダムシが体内にいる限りはアレルギー攻撃物質は忙しくたち働いているので花粉症にはならないのであった。
サナダムシは理性を備え、元カテが弾くピアノの音も楽しく聞いていた。
サナダムシはバッハが好きだったが、元カテはショパンしか弾かないので少々残念だった。
そこで、サナダムシは無謀かとは思ったが、脳内に侵入し、元カテにショパンではなく、バッハを弾くように仕向けてみることにした。
元カテが眠っているうちにサナダムシは腹のあたりから静かに上昇を開始し、耳の穴を伝って脳に侵入することに成功した。
そして、元カテの右脳の音楽を司る部位をツンツンつついた。
すると、どうだろう、元カテはバッハが不意に弾きたくなって目を覚ました。
「どうしたんだろう、不意にバッハが弾きたくてたまらなくなったぞ」
元カテは深夜3時半に目を覚まして、出勤する8時まで四時間半ずっとバッハを弾き続けた。
「元カテ、おはよう」
北海道エナジーのC支社に行くと女の社員が挨拶した。
元カテは言った。
「おはよう、三枝子(みえこ)さん」
それは北海道エナジーでも一、二を争うほど美しい社員の熊笹三枝子(くまざさ・みえこ)であった。
「どうしたんですか」
熊笹三枝子は元カテがふだんとは違って疲れたような表情をしていることを見逃さなかった。
「バッハの旋律を夜に聴いたせいです」
元カテは答えた。
すると、三枝子は言った。
「元カテ、サカナクションのファンなんですか」
元カテは答えた。
「フォーク・ヘビメタ・ピアノの順」
https://m.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/q11191516236
三枝子は言った。
「今度、サカナクションのコンサートご一緒しませんか」
元カテは言った。
「考えておくよ」
その日から三日三晩サナダムシは元カテの脳に侵入した。
昼はお腹の辺りに戻るのである。
そして、毎日脳を刺激しないと元カテの脳はショパンを弾く配置に戻ってしまうのであった。
三日目の朝、元カテは倒れた。
深更(しんこう)に起きてバッハを弾いたせいであった。
寝不足と過労が積み重なったのであった。
C支社の支社長は定時になっても出勤して来ない元カテを心配して、熊笹三枝子を元カテのアパートに行って様子を見てくるように頼んだ。
熊笹三枝子は元カテの住む風が吹けば今にも倒れそうなおんぼろアパートを見て一瞬ひるんだが、やがて意を決して入って行き、デジタルピアノの前に倒れている元カテを見つけた。
そして、救急車を呼んだ。
病院では元カテの体内をMRIでくまなく検査した。
すると、体長70センチのサナダムシがお腹にいるのが見つかった。
元カテは苦い虫下しを飲まされた。
今、そのサナダムシはホルマリンに漬(つ)けられて、目黒の寄生虫博物館にいる。
「今度、一緒に僕のサナダムシを見に行こう」
「素敵」
熊笹三枝子は快諾した。
その約束は今年の夏までには果たされそうである。
おしまい
写真は松下奈緒さん
折りたたむ
ピアノ、キーボード | ドラマ・38閲覧
共感した
ベストアンサー
元カテ
元カテさん
2018/6/10 1:27
虫がいつも出て来るな。
2019/4/26 12:36
元カテシリーズ第775回
岡山のミケランジェリpart4
七月も半ばになり、暑い夏の日射しがC歳市の街路のプラタナスを優しく照らす日々が続いた。
元カテは6月30日にいただいた1.5ヶ月分のボーナス120万円を妻に100万円渡したのこり20万円でトリスクラシックを200本買って部屋の隅に積み上げた。
一本750円で、毎日一本飲んでも半年は持つ計算である。
ちなみに一本750円で、お釣りはあてのスルメイカに費やすことにした。
そうして、元カテが酒と
ピアノと仕事で忙しくしているある日、元カテの職場を一人の老婦人が訪(おと)のうた。
「元カテさんにお会いしたいのですが」
C歳支店の女性社員炭焼典子が、応接室に通して熱いお茶を淹れてもてなしていると、やがて、元カテがおっとり刀で現れた。
元カテは言った。
「鞆絵(ともえ)さん」
老婦人は言った。
「その節はお世話になりました」
元カテは言った。
「いいえ、こちらこそご馳走になり、ありがとうございました。もしかして、三池幸三さんに何かあったのですか」
鞆絵は言った。
「主人は先月末(せんげつすえ)に身罷(みまかり)ました」
元カテは大声で叫んだ。
「岡山のミケランジェリが死んだのですか」
鞆絵は言った。
「元カテさんが帰ったあの日、公園で主人は突然倒れました。救急車でおかやま市立病院に運ばれ、すい臓癌のステージフォーと診断されました。それから一ヶ月ほどして、儚(はかな)くなりました」
元カテは言った。
「膵臓はちょうど胃の後ろにある長さ20cmほどの薄っぺらな臓器です。
右側は十二指腸の内側に接して連続しており、左の端は脾臓に連なっています。
膵臓は全体でおたまじゃくしのような形をしていて、右の方がふくらんだ形をしています。
膵臓の働きは主に2つあって、膵液をつくることと、血糖を調節するホルモンをつくることです。
日本では毎年2万人以上の方がすい臓ガンで亡くなります。
すい臓ガンは身体の奥深くにできるので、癌が発生しても見つけるのが非常に難しいのです。
すい臓ガンは胃がんや大腸がんのように早期のうちに見つかるということはほとんどなく、また癌とわかった時にはずいぶん進行していることが多いのです」
鞆絵は言った。
「元カテさんのおっしゃる通りです。すい臓は沈黙の臓器と呼ばれているそうです」
元カテは言った。
「わざわざ知らせるために来てくださったのですか」
鞆絵は言った。
「いいえ、今日は主人の遺言(いごん)を果たすためにやって参りました」
元カテは言った。
「それはどんなものですか」
鞆絵は携えていた風呂敷から一枚の絵を取り出した。
ルノアールであった。
その場にいた元カテと炭焼典子はその美しい絵を吸い込まれるように見つめた。
鞆絵は言った。
「この絵を元カテさんに差し上げるようにと」
元カテは言った。
「これは六千万円でお買い求めになられたとおっしゃっておられましたね」
鞆絵は言った。
「買ったのは昭和55年のことですので、今の値段は存じません。主人は美しい絵の価値がわかる元カテさんにこの絵を持っていてほしいと言い残して身罷(みまか)りました」
元カテは言った。
「わかりました。断ることは先生の遺志を踏みにじることにつながります。私がその絵を大切に預かることにいたしましょう」
鞆絵は言った。
「よかったわ、これで肩の荷が降りました」
鞆絵は元カテにお辞儀をすると北海道エナジーC歳支店を去った。
元カテはルノアールの絵をアパートに持ち帰ると壁にかけた。
その絵からは亡くなった岡山のミケランジェリの面影が浮かんで来るかのようであった。
元カテはカシオのCEIVIANOという電子ピアノに向かうとおもむろに、ベートーベンの月光を弾き始めた。
それはあたかも岡山のミケランジェリの霊を弔(とむら)うためのようであった。
https://m.youtube.com/watch?v=TOkbaIXEZ9E&itct=CBoQpDAYACITCJ3dz6fy0-ECFdjJwQod6b4HzTILYzQtb3ZlcnZpZXdaGFVDYUlOX0R5UWdGelBkOHlDT2xnWmV4dw%3D%3D&client=mv-google&gl=JP&hl=ja
おしまい
2019/4/26 21:40
元カテシリーズ第776回
岡山のミケランジェリ
part5
元カテは岡山に来ていた。
季節は8月15日、所謂終戦記念日であった。
元カテは北海道エナジーで次代のエネルギー供給計画を立案するプロジェクトリーダーを委ねられていたので、岡山のミケランジェリの死を知っても身動きが取れず墓参が遅れたのである。
元カテは自分のピアノの師である岡山のミケランジェリのお墓の前で頭(こうべ)を垂れた。
岡山のミケランジェリはキリスト教徒であり、白い十字架たちの並ぶ美しい丘の一角に岡山のミケランジェリのお墓はあった。
元カテはお墓の舞絵に額(ぬかづく)とシバラク嗚咽(おえつ)した。
「先生、わたくしは先生の教えを守ってこれからもピアノの道を精進して参ります」
すると、背後から足音が聞こえて元カテは額を上げた。
額には地面に額づいていたために、土がついていたが、元カテは気にしなかった。
頭を上げた元カテの目に映ったのはカトレアの花を思わせる20代の美しい女性であった。
女性は元カテに言った。
「こんにちは」
元カテは言った。
「こんにちは」
女性はさらに言った。
「もしかして元カテですか」
元カテは驚いた。
北海道から遠く離れた岡山で自分の名前を知っている者がいるとは思わなかったからである。
しかも、それはとても美しい女性であった。
元カテは言った。
「確かに私は元カテです」
すると、女性は言った。
「私は三池幸三教授の弟子の柏原遥(かしわばら・はるか)です」
岡山のミケランジェリこと、三池幸三は地元の公立音楽大学である岡山音楽院大学で教授を勤めていた。
60で定年退官したので、それ以降は月に二三度の自らの手塩にかけた弟子だけに大学で教えていた。
その肩書きは名誉教授であった。
月に10万円ほどの手当てしか出ていなかったが、三池幸三は出講する日を楽しみにしていたらしい。
元カテは言った。
「このたびは三池幸三教授がご愁傷さまでした」
柏原遥は言った。
「三池教授は常々言っておられました。私の跡を継ぐのは元カテしかいない、と」
元カテは驚愕した。
三池幸三は普段は元カテの演奏を酷評していたからである。
元カテは言った。
「本当ですか」
柏原遥は言った。
「はい、私は嘘と坊主の頭だけはゆったことがありません」
そして、にっこり微笑んだ。
先程は恩師を失った悲しみに浸って泣きじゃくっていた元カテの顔が、春の地面にから突き出た、ふきのとうのようにほころんだ。
元カテは言った。
「先生がそこまで私を評価してくださっていたとは知りませんでした」
柏原遥は言った。
「先生は言っておられました。『もし私に万が一のことがあったなら、ピアノでわからないことがあったら元カテに聞くとよい』と」
元カテは驚いて柏原遥の瞳を見つめた。
もしや、狐に騙されているのではないかと思ったからである。
元カテは頬っぺたを指でつまんでみた。
柏原遥は言った。
「どうなさったのですか」
元カテは正直に言った。
「もしや狐に化(ば)かされているのではないかと思ったのです」
柏原遥は不意に笑いだした。
「あはは」
柏原遥の笑い声は8月の真っ青な空をどこまでも駆け上がっていった。
おしまい
元カテの肖像
元カテは1962年11月23日に生まれた。
父は地元の中学に勤める中学校の教員であった。
元カテには
二歳年上の姉百合(ゆり)がいた。
元カテは父親の期待を担って、幼い頃から秀才であった。
また、水彩画がうまく地元のコンクールでは第一席に輝き、その副賞としてセスナ機に乗せてもらったこともあった。
元カテはその後恩音内(おんねない)中学に進み、ここで父から数学を学んだ。
父は大層優れた教師で、厳格であった。
元カテは父が教室に来る度に身が引き締まる思いがした。
やがて、元カテはN寄高校に進み、ここでピアノを独学で始めた。
姉がピアノを習っていたので家にYAMAHAのアップライトピアノがあった。
地元では元カテの一家は教育一家として知られていた。
やがて、元カテは北海道大学工学部を目指して勉学に励んだが、共通一次で英語の成績が伸びずに、国立のM工業大学に進んだ。
元カテはここでフォークソングクラブに入った。
井上陽水の「青空ひとりきり」が十八番であった。
クラブのかたわら地元のレストランでウェイターのアルバイトをした。
彼の給仕はとても見事なもので、元カテは三年留年して、ウェイターのアルバイトをした。
当時は理系の大学生は引く手あまたで、しかも電気主任技術者資格一級を持っていたこともあって、北海道エナジーに採用された。
元カテは将来の北海道エナジーの幹部候補生として、社会に第一歩を踏み出した。
父は元カテが留年したことには失望したが、息子が大企業に入ったことを喜んだ。
元カテは30歳で仕事の疲れを取るためにキリンビールの500ミリリットルの缶を毎日飲むようになった。
当時付き合っていた女性と遅い結婚をした。
元カテの母親が優柔不断な息子を見かねて勝手に婚姻届を市役所に出したのである。
やがて、一人息子である大二郎が生まれた。
大二郎はピアノにはまったく興味を示さず、ミスターチルドレンの曲をiPodで聞く、素直な少年に成長した。
そして、推薦で地元の名門公立高校A川H高校に入った。
元カテは単身赴任でS幌に近い空港のある町C市に単身赴任し、現在三年めである。
職場ではその電気の知識で、ベテランとして頼りにされている。
たったひとつの趣味はピアノを弾くことであり、単身赴任先の風が吹けば今にも倒れそうなおんぼろアパート「虎風荘」にカシオの電子ピアノを持ち込んで、時々録音してYouTubeに上げてみたりしている。
彼のたったひとつの悩みは頻尿で夜中に八回トイレに起きて、睡眠不足不足をかこっている。
愛車はすばるGTBで色はシルバーである。
アパートのお風呂には一度も入ったことはなく、近くのスーパー銭湯に行く。
誰も人がいなければ湯船で泳いでみたいが、今までにそういう機会は一度も訪れたことはない。
左足の股関節も痛み、歩行が困難である。
Mという年少の同僚と組んで、道路にラインを引いて廻った時は、北海道の日射しにあぶられて往生した。
和歌山県には北海道エナジーの研修で訪れたことがあり、駅前の居酒屋でマグロのさしみを頼んでそのおいしさに驚嘆した。
しかし、水は大雪山系のおいしい湧き水を飲んでいる元カテにはまずく感じられた。
和歌山県では高圧電線の研修を主にして、電信柱にも登った。
最近は月光を練習し、YouTubeにあげたらとても好評であった。
ヤフー知恵袋のユーザーで友人はm_4(元チロリアンミュージック)と架空ピアノ野郎である。
なお、父は三年前に73歳で癌で他界した。
父の背中を風呂で流せなかったことが元カテの唯一の心残りである。
父は組合で苦労したらしく元カテには「教師にだけはなるな」と言っていた。
元カテの家系は理系らしく、息子の大二郎もそうである。
父の兄弟はすべてが教師である。
おしまい
元カテは岡山のミケランジェリの元に通い、時々ピアノの指導を受けていた。
岡山のミケランジェリ自体はひじを壊して、ピアノはもう弾けなかったが、演奏を指導することに関しては、日本でも有数の名声を得ていた。
特にベートーベンの後期ソナタの解釈に関しては、ルドルフ・ゼルキンや宮澤明子と同等の評価を得ていた。
元カテは岡山駅で新幹線を降りると岡山のミケランジェリの家にタクシーで向かった。
岡山のミケランジェリの家は、市内の有数の住宅街にある見事な瓦葺きの屋敷であった。
元カテはこの屋敷を見るたびに誇らしい思いにとらわれるのだった。
その誇りは正統な音楽教育を受けた岡山のミケランジェリからおしえを受けることができるという喜びであった。
元カテは樫の木でできた堅牢な扉に備え付けてあるベルを鳴らした。
岡山のミケランジェリの婦人である鞆絵(ともえ)が出てきた。
元カテは言った。
「こんにちは」
鞆絵が言った。
「ようこそ、いらっしゃいました。主人が待っております」
元カテは早速ピアノ室に招き入れられた。
ピアノ室にはムンクの美しい版画が掛けられ、柔らかな間接照明が鍵盤に照り映えて、とても弾きやすかった。
ピアノは岡山のミケランジェリが特に推奨するベヒシュタインであった。
そのまろやかなトーンは、バロック真珠の豊かさを思わせた。
元カテは岡山のミケランジェリにいちれいすると早速温めていた、ベートーベンのピアノソナタ第31番を通して弾いた。
30分ほどして弾き終えると岡山のミケランジェリは言った
「見事だ。もう私に教えることはない」
元カテは言った。
「いいえ、私はまだまだ未熟です」
岡山のミケランジェリは元カテの肩に優しく手を置いた。
岡山のミケランジェリは言った。
「今日はそこまでとしよう」
元カテは深々とお辞儀をした。
そして、帰ろうとした。
すると、岡山のミケランジェリが言った。
「まだ、いいじゃないか、せっかく北海道から来たのだから」
元カテはいぶかしく思った。
普段は練習が終わると何も謂わずに岡山のミケランジェリは家の奥に引っ込み、鞆絵が玄関まで見送ってくれるのが常だったからである。
元カテはピアノ室の横にあるちいさな部屋に誘(いざな)われた。
そこは普段は閉ざされていて、元カテはその部屋が何のためにあるのか、いつも不思議に思っていた。
中に入るとそこにはソファとテーブルが置かれ、とても親密な雰囲気の個室となっていた。
元カテが驚いたことにはそこにはすでに先客がいた。
ベージュのワンピースをシックに身につけた30代半の黒い髪を長く伸ばした女性であった。
元カテは仲間由紀恵を思い出した。
かつて元カテは深夜にテレビ朝日で放送されるtrickを熱心に見ていた。
もっとも、trickの主演は本来は中山えみりにさいしょにオファーが行き、中山えみりが断ったので仲間由紀恵にお鉢が回ったらしい。
貧乏な手品師というキャラ設定に美人女優を自任していた中山えみりが難色を示したものと思われる。
仲間由紀恵は黒い髪が長い女性ということで白羽の矢が立ったのだった。
けれども、ここは仲間由紀恵についてうんちくをかたる場ではない。
話を元に戻すと元カテは美しい黒い髪の女性を見て驚いた。
岡山のミケランジェリの屋敷で鞆絵の他に女性を見たのは初めてだったからである。
岡山のミケランジェリは言った。
「こちらは大村さんだ」
黒髪の女性は言った。
「岡山支部の大村と申します」
元カテの頭は混乱した。
「岡山支部とは何の支部であろうか」
けれどもその説明はなかった。
元カテは言った。
「一級電気技師の元カテです。北海道エナジーに勤めています」
岡山のミケランジェリは言った。
「まあ、座りたまえ」
元カテと大村は隣り合ってソファに座った。
対面する位置のソファに岡山のミケランジェリも座った。
すると岡山のミケランジェリが言った。
「元カテ、パルタイに入らないか」
元カテの顔は青ざめた。
岡山のミケランジェリがパルタイに入っているという噂は知恵袋のキーボードカテゴリーでは以前からささやかれていた。
けれども、岡山のミケランジェリがパルタイについて語ったことはそれまで一度もなかったからである。
そして、岡山のミケランジェリがパルタイと口にしたことによって大村が言った岡山支部の意味もわかった。
それはパルタイの岡山支部のことなのであった。
岡山のミケランジェリは言った。
「パルタイに入るということは、きみの個人的な生活をすべて、愛情といった問題もむろんのこと、これをパルタイの原則に従属させることなのだ」
岡山のミケランジェリは眼鏡を光らせすぎるので、そのむこうにある肉眼の表情が元カテにはよくみえなかった。
岡山のミケランジェリの歯ががちがちと鳴るのは、できのわるいガイコツの咬合をみるようであり、元カテは不自然なほど興奮していたにちがいない。
元カテはおもわず動物的な笑いをもらした。
すると岡山のミケランジェリは元カテの手を握った。
「元カテ、一緒にやろうじゃないか」
岡山支部の大村も元カテの手を握って言った。
「元カテ、私たちはカメラート(Kamerad、同志)です」
元カテは立ち上がると言った。
「私はパルタイにはけして入らない」
そういうと部屋のドアを開けると廊下に出て玄関に向かった。
玄関では鞆絵が元カテの靴を揃えていたが、元カテは靴を履くと鞆絵に言った。
「さよなら」
元カテは駅までの遠い道のりを一気に駆けて行った。
おしまい
元カテシリーズ第784回 パルタイpart3
元カテはみんなから袋叩きにされた翌日も出勤した。
元カテが前日みんなから袋叩きにされたことは支店のみんなが知っていた。
支店長の黛薫が言った。
「元カテ、みんなと協調して
ください」
元カテは言った。
「嫌です」
北海道エナジーでは支店長の権威は絶対であり、その支店長の言葉に逆らうことは許されなかった。
元カテの暗い末路をみんなが予感した。
五十嵐十三が言った。
「支店長、元カテも少しすればわかるはずです」
黛薫は言った。
「そうだな、少し待とう」
元カテは言った。
「私はいつまでも変わりはしない」
やがて、秋になった。
元カテはブラームスのピアノソナタ第三番をとうとう完成させた。
キーボードカテゴリーでそれまで元カテを
批判していた、元チロリアンミュージックや「であ」もその見事な出来映えをほめた。
「であ」は言った。
「元カテの精進に感服した」
元チロリアンミュージックも言った。
「gkさんはすごいな」
そして、北海道エナジーでもへんかがあった。
五十嵐十三がパルタイ内部で失脚した。
以前のように組合活動の先頭に立つことはなくなり、うつ向いて下を見るようになった。
仕事も以前のような精彩を失った。
炭焼典子は元カテに言った。
「五十嵐さんは以前の輝きを失いましたね」
元カテは言った。
「パルタイは権力の確執が激しい。勝っているうちはいいが、破れた場合はそれまでに築き上げてきたすべてを失ってしまう」
元カテはセクハラで失脚した筆坂秀世界や宮本委員長と対立して追われた袴田里見のことを思い出した。
筆坂秀世は言っていた。
「秘書と女性の三人で カラオケボックスに行き、その女性の同意を得てチークダンスを踊ったことやデュエットで腰に手をまわした。」
「女性は楽しんでいるようだったので何故セクハラという訴えになったかよく分からない。」
また、袴田里見は1977年4月、党拡大の路線を巡って宮本顕治の路線を批判したことから党員権制限処分を受けた。そして、1988年、袴田が除名後も党と関係が全くなくなったにも関わらず依然として居住していた共産党所有の家屋の明け渡しをめぐる民事訴訟では最高裁判所が袴田の上告を棄却し、敗訴が確定した。
五十嵐十三の失脚の原因が何によるものだったのか元カテにはわからなかった。
要するに理由は何でもよいのだった。
元カテは風が吹けば今にも倒れそうなおんぼろアパートに戻ると五十嵐十三のために涙を流しながらショパンのプレリュードを弾いた。
おしまい
元カテシリーズ第789回
続パルタイpart3
元カテは五十嵐十三の葬儀に参列することにした。
帯広の五十嵐十三の自宅の近くの寺で葬儀は行われた。
元カテは北海道エナジーC歳支店の一同から預かった香典4万円とは別に自身も3000円の香典を置いた。
受付で故人との関係を聞かれた元カテは言った。「私は五十嵐十三さんとは北海道エナジーC歳支店で一年間同僚でした。また、五十嵐十三さんからパルタイに誘われたこともあります」
受付の女性は元カテが不意に「パルタイ」という言葉を持ち出したことをまるで軽率であるかのように鋭くにらんだ。
元カテは「なるほど、ここではパルタイという言葉は禁句なのだな」と思った。
五十嵐十三の葬儀には70名ほどの人間が参列していたが、家族や親類の他には北海道エナジーの関係者、そして10名ほどのパルタイの人間がいた。
なぜ、かれらがパルタイの人間かとわかるかと言うと、常に一糸乱れぬ結束を示し、鋭い険悪な目付きをしているからであった。
その中に元カテは意外な人物を見つけた。
「お久しぶりですわ、元カテ」
岡山支部の大村佳奈子であった。
元カテは言った。
「岡山からわざわざいらしたのですか」
大村佳奈子は言った。
「私は現在、代々木におります」
元カテは言った。
「ご出世おめでとうございます」
大村佳奈子は言った。
「個人的な出世などパルタイの掲げる目的の前にあっては塵のごときものですわ」
元カテは尋ねた。
「パルタイの掲げる目的とは何ですか」
大村佳奈子は、とても静かに言った。
「永久革命ですわ」
元カテは言った。
「それはいつ、かなうのですか」
大村佳奈子は言った。
「もうまもなくです」
元カテは言った。
「すると、五十嵐十三は目的のかなう直前に亡くなったということになりますね」
大村佳奈子は言った。
「五十嵐十三は塩酸のタンクの上でタンクの天井を踏み抜いた同僚を、助けるために手をさしのべて自分も落ちて亡くなりました」
元カテは言った。
「そうらしいですね、とても立派なことだ」
大村佳奈子は言った。
「私たちはそうは考えません」
元カテは尋ねた。
「どう考えるのですか」
大村佳奈子は言った。
「たとえ、一人の人間の命が失われても、それは永久革命の実現のために必要な犠牲と考えて自分は生き残るのがパルタイの目的にかなったことなのです」
元カテは言った。
「もうすぐ葬儀が始まります」
大村佳奈子は言った。
「そうですね」
葬儀は五十嵐十三の宗旨である浄土真宗で行われた。
坊主の読経の後、大村佳奈子がパルタイを代表して弔辞を読んだ。
「同志五十嵐十三はその生前、その活動を通じてパルタイのために鋭意努力した。パルタイはその功労を永久に忘れないでしょう。あなたは永久革命の実現を見ることなく、逝きましたが、我々が貴女の遺志を継いでその実現を図ります」
続いて北海道エナジーC歳支店の支店長黛薫の弔辞が元カテによって代読された。
「五十嵐十三君、あなたは沈滞していたC歳支店に活気をもたらし、まもなく風のように去って行った。
あなたは一時期、C歳支点の希望の星であり、あこがれの中心でした。
あなたの突然の死を我々は受け止めかねています。
どうか、天国でお幸せに」
ここで黛薫の弔辞は終わっていたが、元カテは不意に自らの思いを付け足すことにした。
我が心 石に匪(あら)ざれば転がす可(べ)からず
私の心は石ではないので、簡単に転...