よくある異世界転生かと思ったら、異世界みたいになってた未来世界でした。

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よくある異世界転生かと思ったら、異世界みたいになってた未来でした。 第2話

2020-04-06 23:42:00 | ライトノベル
『VR』つまり、バーチャル・リアリティは、コンピュータによって作り出された世界である人工環境、サイバースペースを現実として知覚させる技術。時空を超える環境技術であり、人類の認知を拡張するもの。

一瞬、それの可能性も考えた。俺は今、VRによる仮想現実の中にあるんじゃないか、ってな。
でも、俺の記憶が正しければ、VRゴーグルやヘッドマウントディスプレイの類を装着した覚えもなければ、着けられた覚えもない。
バラエティ番組で観たような、寝てる間にVRゴーグルを着けられる、というドッキリの可能性もないことはないが、今まさに人が車に轢かれようとしている最中にそんなことをするイカれた番組があるとは思えない。万が一、あったとしたらゴーグルを着けに来たADもまとめて死んでる。てか、助けろ。

まぁ、そうなるとVRではないわけだし、考えられる可能性は…

「なるほど、タイムスリップかぁ」
そう言って、おじさんはテーブルに置かれたコーヒーにミルクを開けて注いだ。

全く見覚えのない世界に飛ばされ、行くあてもあない、人づてもない、といった状況でどうすることも出来なかったので、決して初対面の人間とすぐ打ち解けられるような性格ではなかったが、そんなことを言ってられる状態じゃないので、偶然出会った目の前のおじさんに相談することにし、近くのカフェに連れて行ってもらった。

ちなみに、VR世界ではないという確証を得るために一応、試しておこうと埃を取るフリをしておじさんの被っていた帽子に触った。手には確かに触った感覚があった。
もし、仮想現実なら自分も仮想なのだから、触った感覚があって当然と思われるかもしれないが、そうではない。具体的に言えば、帽子を触ったのではなく、取ったのだ。
すると、おじさんのお手本のような見事なハゲ頭があらわになった。だからなんだよ、とお思いになるかもしれないが、これは重要なことだ。なぜなら、ここが仮想世界ではないという決定的な理由になるからだ。
考えても見てほしい。仮想である世界で誰が好き好んでハゲ頭をチョイスするのかを。現実にハゲている人に、仮想世界のキャラを自由に選択出来ますよ、と言ってわざわざハゲのキャラを選ぶなど有り得ない。有るとすれば、よっぽどリアリティにこだわる変態的芸術派のド変態(変態という言葉が2回出るほどの変態)しかいない。
よって、このおじさんは仮想世界のキャラクターではなく、現実世界の人間であり、ハゲたくてハゲているわけではなく、ハゲという現実を受け止めて、嫌々(?)ハゲているのだ。
以上の理由により、仮想世界に見えるこの世界は現実であり、状況的に未来であるという結論に至るのだ。…てか、未来でも植毛の技術はそんなに進歩していないんだな…。ウチの家系、ハゲ多いからヤバイな…。
なんて、どうでもいい考察をミルクを注いだコーヒーと共に頭の中でグルグル回しながら、現在の状況をおじさんに話したのだ。

「信じてくれるのか?俺の言うこと」
「まあね」
おじさんはミルクを注いだコーヒーをスプーンで混ぜながら答えた。その冷静な受け答えをする様に対して、俺は頭に浮かんだことをそのまま口にした。
「おじさん、マンガとか結構、読む人か?」
「ハハッ、それはフィクション的な状況に慣れてるのか?ってことかい?」
「うん、だって全然驚いてないし。それとも、未来ではもうタイムスリップがあんのか?」
「いや、流石にタイムスリップはまだないな。まぁ、驚いていないように見えるのはそれに近いけどね。まだないにせよ、いずれは出来るんじゃないかと感じていたからなんだ。ご覧の通り、君のいた時代とは随分と変わったろう?ここに至るまでの数々の技術革新を目にしてきたものとしては、もう何が起きても不思議じゃないのさ。それがたとえ、タイムスリップであろうともね。」
「確かに…」

俺はカフェの外に広がる景色に目をやった。
ファンタジーRPGとしか思えない街の風景が広がりつつも、随所に最新のテクノロジーが見え隠れしている。
さっきから、格好はRPG風の通行人なのにスマホをいじる感覚で空中に開いたゲームのステータス画面のようなものを見ているし、このカフェも店員らしき人が見当たらない無人カフェで、外の人たちのような画面をおじさんも空中に開いて注文を行い、ロボットが運んできたのだ。
まったく信じられないが、この風景は「こういう別世界がある」のではなく、ああいった類の技術によって構築された、あくまで「作られた世界」らしい。

「俺がいた時代の名残は綺麗サッパリ消え去ってるな…」
思わず、独り言を呟く俺を、おじさんはコーヒーをすすりながら、興味ありげに見ていた。
「ん?どした?」
「いや、さっきあんまり驚いていないって僕に言ったけど、君のほうこそ置かれた状況の割に意外と落ち着いてるよね。まさか、タイムスリップ慣れしてるのかい?笑」
「んなわけねえだろ笑。伊達にマンガやアニメやらラノベをかじってないだけだ」
「ハハッ。じゃあ、西暦を聞いたのもお決まりの流れだったってわけだね」
「まぁな。だから、タイムスリップしたときの対処法は教育済みだ。まずはこうして未来側の人間に過去から来たことを信じてもらうところから始めるのもな」
「じゃあ、僕はまんまと信じさせられたわけだ」
「仕方ねえよ。こういうのは、だいたい一人は信じてくれるのがお決まりだからな」
「ハハッ、確かに。西暦のことだったり、急に僕の帽子を剥ぎ取る奇行だったりを、いざ目の前にすると信じてしまうもんなんだね」
「奇行…」
仮説を検証するためとは言え、人様のハゲを晒しものにしちまったことに俺は、苦笑いしながら目の前のカップを持ち上げ、顔を隠すように口をつけた。
「それに…」
「それに?」
おじさんの続きの言葉を待つように俺はカップを掴んでいる手を思わず止めた。
「伊達にマンガやアニメやらラノベをかじってないんでね」
「ハハッ、そりゃ驚かねえわけだ」
納得した俺は再び手元のコーヒーを口に寄せ、一気に飲み干した。
そのとき…

『キャアアアア!!』

その場に大きな悲鳴が響いた。
悲鳴が聞こえたカフェの外に目をやると、窓の外に広がっていた異様な光景に思わず目を見開いた。

「な、なんだあのバケモン…?」

目に映った瞬間、それを『バケモン』と表現するしかなかった。そこにいたのは、宙に浮いた黒い肉の塊から腕が二本だけ生え、肉の真ん中に大きな一つ目がギョロリと光る怪物だったからだ。
その怪物は腕を振り回して建物を壊しながら進行し、恐れる街の人たちが逃げ惑っていた。その光景を見た俺はというと…

「行くぞ、おじさん!!」
テーブルの上に立ち上がり、窓の淵に足をかける。
「え、状況理解出来たの?」
おじさんは俺の背中に向かって問いかけた。
「あぁ」
俺は振り返って親指を立てる。
「クエスト発生…ってやつだろ?」