よくある異世界転生かと思ったら、異世界みたいになってた未来世界でした。

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よくある異世界転生かと思ったら、異世界みたいになってた未来でした。 第4話

2020-04-16 22:14:00 | 日記
「武器か…。確かに戦う時には、お決まりのパターンだよな
扉にもたれているおじさんが持っている銃を見つめて、俺は少し興奮気味に尋ねた。
「ってことは、おじさんが撃ってたその銃、貸してくれんのか?」
「いや、さっき見ての通りこのレーザーガンではヤツに決定的なダメージは与えられない」
「確かに怯んではいたけど、効いてるようには見えなかったな。てか、レーザーガンって言うのか。まんまだな。そんなん持ってていいのか?未来では銃刀法違反は改正されたのか?」
「うーん、まぁこれの所持が良いかどうかについては後で説明するよ。今の時代がどういう世界なのかってとこから説明する必要があるからね。今はヤツを仕留めることを考えよう」
「わかった」
おじさんの提案に俺は頷いた。確かに、まだ説明の途中だったし、短時間で説明出来そうな世界じゃなさそうだしな。
「で、どうすればヤツを倒せるんだ?」
「奴に確実にダメージを与えるためには、
もっと近付く必要があるね。遠距離では、あの厚い肉にダメージは与えられない。素早く近距離まで迫って攻撃を仕掛けないと駄目だ。ただ、この老体ではそれは少し厳しいんで…」
ポケットに手を入れるおじさん
「君にそれを頼みたいんだ」
おじさんの手には金属で出来たグリップのようなものが握られていた
「コイツを使ってね」
「それは?」
「フッ」
おじさんは子供のような無邪気な笑みを向けた
「男のロマンさ」



「グエエェェェエエエ!!!!」
左腕をぶった斬られたことを嘆いているのか、鳴き叫んでいる黒肉団子。口らしきパーツは見当たらないのに、この鳴き声はどっから出てるんだ…。
まぁとにかく、血こそ出ていないが、レーザーガンとやらと違って、目に見える明らかなダメージを与えられた…。これならいける!
手応えを感じた俺はライトセーバーを両手で握り、剣道でよく見る構えをとった。剣道なんてやったことねえからよくわかんねえけど…とりあえず一刀流の構えと言えば、こんな感じだろ。どこぞの銀河の戦いでも大体こんなだったしな。二刀流ならもっとバリエーションもあっただろうが…。三刀流なら………あの構えしか思いつかねえな…。顎痛くなりそうだから嫌だけど…。
どこぞの麦わら船長の右腕のことを考えていると、逆に右腕しかない黒肉団子は、怒っているのか先程より強めのバウンドでその場を跳ねていた。そして、そのまま怒りをぶつけるが如く、勢いをつけて飛び込んで来た。
その動きを見逃さまいと、軽く息を吐いて、集中し、ライトセーバーを振り上げる。
「残った腕もぶった斬ってやる…!」
しかし、黒肉団子の動きは思っていたより速く、セーバーを振り下ろすよりも先に懐に辿り着かれた。
「危ない!!」
おじさんの声が耳に届く頃にはすでに手遅れだった。サンドバッグにぶつかったような衝撃と重みが胸のあたりから全身に広がり、身体は後方へと吹き飛ばされた。
「カハッ…!ケホッ、ケホッ!」
地面に倒れ、息苦しさからのどに手をやり、咳込んだ。
「大丈夫かい!?」
心配したおじさんが駆け寄ってきた。
「痛ってぇ…ハァ、ハァ。一瞬息が止まったぞ…!」
身体の痛みと息苦しさからくる怒りで、睨みつけると、ヤツは再びバウンドを始め、次の攻撃の準備を始めていた。
「またかよ…!」
「やはり一人では難しいね。援護しよう」
そう言ってレーザーガンを構えるおじさん。しかし、俺はその銃口に手をかぶせた。
「いや、いい」
「え?でも…」
「考えがあるんだ」
「…わかった」
おじさんは俺の顔を見て何かを確認したように一歩引いた。そして、俺は立ち上がり再び剣道の構えをとった。
「さぁ、来い!」
その意思が通じたかのように、再び飛び込んで来る黒肉団子。
「来たよ!」
おじさんが声を掛けてくるも、俺は動かない。狙いは一つ…!
「まさか、カウンター!?」
「あぁ!」
その通り。速さに関しては向こうに分があるとわかったからな。こっちから突っ込んでもまた振り遅れる可能性がある。だから、待ち構えて突き刺す!これなら、ヤツの攻撃に合わせて、そのまま腕を前に突き出すだけでいいから振り遅れる心配はない。それに加えてあの勢いだ。わざわざ振らなくても威力は充分だ。
待ち構える俺に黒肉団子が迫った。
「ここだ!」
俺は腕を真っ直ぐに伸ばし、セーバーを突き出そうとした。
しかしその時、ほぼ同じタイミングでヤツもその長い腕を伸ばしてきた。
「なっ…!?」
体当たりじゃなく、今度は腕で攻撃!?まさか、動きを読まれた!?
そんな俺の焦りはおじさんにも伝わっていたようだった。
「駄目だ、セーバーよりヤツの腕の方が長い!向こうの方が先に届く!」
「クッ…!」だったら…!
両手で掴んでいたセーバーを、左手を離して右手一本でフェンシングのように持ち直した。
「これでどうだ!!」
『腕』vs 『腕+セーバー』リーチの差は歴然…。先に届く!
迫る長い腕を無視して、持ち直した右手を黒肉団子目掛けて突き伸ばした。
腕が届く前に、先に本体に刺してやる!!
こちらのセーバーの方が先に届くと確信したその瞬間、俺の目にあるものが映った。
先程切り落とした、肘までしかなかった左腕が本体に吸収されるように沈み込んだ。そして、押し込まれたかのようにその分だけ反対側の右腕が伸びたのだ。
「な…に…!?」
「リーチが伸びた!?」
俺もおじさんも驚きを隠せない。
なんだよ、そのところてんみたいな仕組みは…!!しかも、こんなギリギリで…いや、まさかわざとか!?コッチが腕を引っ込める隙を与えないために…?肉団子の分際で頭使いやがって…!!
「駄目だ、向こうの方が早い!止まるんだ!」
もう引っ込められないことを知らないおじさんが叫ぶ。
もう止まれねえんだよ!このまま行くしかない!
「クソッ…!間に合えぇぇえ!!」
「グエエェェッ!!」
俺と黒肉団子の間で、光の剣と黒い腕が交差する。
次の瞬間、それは突き刺さっていた。

黒肉団子の本体にライトセーバーが。

そして、黒い腕のほうは俺の目の前で止まっていた。
一瞬の静寂がその場を包み、最初に聞こえたのはおじさんの声だった。
「先に…届いた?でも、なんで…あっ…」
おじさんは、俺の右手に何も握られていないみことに気づいた。
「投げたのか!?ギリギリのところで…!でも、それじゃあ威力が…」
そうだ。ほとんど腕が伸びきっていた状態で投げたから、威力はかなり落ちている。ただ刺さったというだけで、多分ダメージはほとんどない。それでも、『攻撃を受ければ怯む』ということは知っていたからな、動きが止まるくらいのことがあるんじゃないかと思ったんだが…期待通りだ!
そして、黒肉団子自身もダメージが大したことないことに気づいたのか、少しずつ動き出し、止まっていた腕を伸ばし始めた。
「まだ動いてる!やはり致命傷にはなってないよ!」
わかってるよ、だから…
「今度のは痛ぇぞ…!!」
脇を締めて、左足を踏み込む。踏み込んだ左足を軸に腰を回転させ、全体重を乗せた右拳を、突き刺さっているライトセーバー目掛けて放った。
「ところてんには、ところてんを!!」
グリップに直撃した右拳がライトセーバーを勢いのままに押し込んだ。
「おらぁぁああ!!」
釘のように打ち込まれたライトセーバーが黒い肉を突き破り、貫通した背中から光の刃が飛び出した。そしてそのまま空中で静止したように鈍い音を立てながら落下した。
足下に転がるその姿を見た俺は、力みきっていた全身の力がフッと抜けるのを感じ、突き出していた腕を下ろした。
団子は団子らしく串に刺さってろ」


よくある異世界転生かと思ったら、異世界みたいになってた未来でした。 第3話

2020-04-11 11:16:00 | 日記
まったく…街でバケモンが暴れてるだなんてベタな展開が起きたかと思えば、そのバケモンが『黒い塊に一つ目』なんていうこれまたベタなデザインのバケモンと来たもんだ。
こんなベタなことばかり起きたんじゃあ、こっちもベタな行動取るっきゃねえだろ。

「おい!そこのバケモン!!」
カフェを飛び出た俺は指を差して言い放った。俺に気付いたバケモンはこちらを向くと同時にボールの如く地面を跳ねながら迫って来た。うわぁ…移動の仕方、キモッ…。

「危ない!逃げるんだ!」
背後からおじさんの声が響く。
「冗談だろ。この黒肉団子めが、殴り飛ばしてやる…!」
今こそボクシング漫画の知識をフル活用するときだぜ、見てろよ…。
黒肉団子が手の届く位置まで迫る。
「ここだ!!」
俺は漫画の教え通り、左の脇を締め、踏み込んだ左足を軸に腰を回転させ、体全体の力を右の拳に伝えて放った。
「食らえ、右ストレート!!」
黒肉団子のど真ん中目掛けて振り抜いた右拳は直撃。同時にミットに当たったような音をその場に響かせた。
「くっ…!」
しかし、響かせた良い音とは裏腹に、肝心の手応えがなかった。見た目が肉の塊なのだから、人間の頬を殴り飛ばすようなイメージをしていたのだが…。実際には人間の肉より幾ばくか固く、重いサンドバッグのようにぴくりとも動かずダメージを与えた手応えがなかった。
触れている拳の先の感触は、火を入れすぎた肉のような固さで、恐らく口に入れたとしたら噛みきれずに一旦、ペーパーに吐き出す固さ…おえっ、自分で例えてて気持ち悪くなってきた…なんだ、口に入れたらって…馬鹿か俺は。
勝手に想像して、勝手に気分が悪くなってる俺に対し、目の前の黒肉団子は腕を振りかざして殴りつけるモーションに入っていた。
触れている拳の先から伝わる肉の感触からして、コイツのパンチを喰らうのはヤバい…。それはわかっている。だが、簡単に殴り飛ばせると思っていたから、その後の防御のことまで考えていなかった。駄目だ、避けきれない…!

迫りくる黒肉団子のパンチに対し、覚悟を決めて少しでもダメージを減らそうと左腕でガードを構えたそのとき、一筋の光が顔の横を通り過ぎた。
そして、目の前まで迫っていた黒い腕が、小さな花火のような閃光と共に弾き飛ばされた。
「な、なんだ!?」
光の筋が飛んできた背後を振り返ると、銃らしきものを構えたおっさんが少し離れたところに立っていた。
あれで撃ったのか…!?

「そいつに打撃は効かないよ!一旦、引くんだ!」
「マジかよ…!俺のボクシング魂が…」
俺は肩をがっくりと落としながら、おっさんの元へ駆け出した。そんな俺を黒肉団子が背後から追いかけて来たのか、おっさんが背後に向かって、さっきの光を何発か撃ち出した。俺は全力で走りつつ、振り返ってその様子を見ていた。黒肉団子は光の銃撃を嫌がってはいるものの、怯ませる程度で決定的なダメージを与えているとは言えない、といった感じだ。

「よし、こっちだ!」
銃撃を続けるおじさんは、さっきのカフェの扉を開け、俺を誘導した。飛び込むように中へ入った俺を確認するや否やおじさんも中へ入り、扉を押さえるようにもたれて座り込んだ。
「アイツは視界に入るものを近い所から襲うんだ。だから、一度視界から外れればピンポイントで狙われることはないよ」
「ハァ…ハァ…なるほど、このカフェが襲われるまでの時間稼ぎにはなるってことか…」
息を整えながら、頭上の窓から頭を半分出して外の様子を伺う。黒肉団子が腕を振り回し、近場の建物を壊しながら進行している。
「うん、アレがここに辿り着く迄はね。にしても、なかなか無茶するね…」
「こういうときのお決まりの行動といえば、『とりあえず無謀にも飛び出す』だろ?」
「ハハッ、主人公耐性ってやつだね。アレを初めて見て物怖じしないどころか正面から突っ込むなんて頼もしい限りだよ」
「動きのキモさには引いたけどな」
「ハハッ、同感だ。それじゃあ…」
「ん?」
「お決まりの行動“その2”といこうか」
策ありと言わんばかりに含みのある笑みを向けるおじさんに、俺も笑みを返した。
「聞こう」



ー 数十秒後、俺は再びカフェの外へと出て、建物を壊している黒肉団子の前へと姿を現した。気付いた黒肉団子は再び、バウンドしながら距離を詰め、腕を振りかざした。
ここまではさっきと同じ状況だ。ただ一つだけ違うのは、さっきは丸腰だった俺に比べ、今の俺の手にはテニスラケットのグリップのような棒状の金属が握られていることだ。
俺は両手でグリップを握り込み、構えた。
そして、おじさんの言葉を思い出して復唱した。
「お決まりの行動“その2”武器を手に敵へ立ち向かう!」
目の前で振り下ろされる黒い腕に対し、俺はグリップを勢いよく振り上げた。

一閃。

光の太刀が黒肉団子の腕を切り飛ばし、背後で土砂袋を置いたような重い音が聞こえた。視界の端で地面に転がる腕を確認した俺は黒肉団子に向き直る。
「まさか、この目で本物を拝める日が来るとは…」
自分の手に握られた金属のグリップから伸びる一筋の光を眺めた俺は、修学旅行で木刀を買った時の胸の高鳴りを思い出し、思わず笑みをこぼした。
そう、これは男なら一度は実際に振ってみたいと思う代物…
「ライトセーバーってやつだな…!」


よくある異世界転生かと思ったら、異世界みたいになってた未来でした。 第2話

2020-04-06 23:42:00 | ライトノベル
『VR』つまり、バーチャル・リアリティは、コンピュータによって作り出された世界である人工環境、サイバースペースを現実として知覚させる技術。時空を超える環境技術であり、人類の認知を拡張するもの。

一瞬、それの可能性も考えた。俺は今、VRによる仮想現実の中にあるんじゃないか、ってな。
でも、俺の記憶が正しければ、VRゴーグルやヘッドマウントディスプレイの類を装着した覚えもなければ、着けられた覚えもない。
バラエティ番組で観たような、寝てる間にVRゴーグルを着けられる、というドッキリの可能性もないことはないが、今まさに人が車に轢かれようとしている最中にそんなことをするイカれた番組があるとは思えない。万が一、あったとしたらゴーグルを着けに来たADもまとめて死んでる。てか、助けろ。

まぁ、そうなるとVRではないわけだし、考えられる可能性は…

「なるほど、タイムスリップかぁ」
そう言って、おじさんはテーブルに置かれたコーヒーにミルクを開けて注いだ。

全く見覚えのない世界に飛ばされ、行くあてもあない、人づてもない、といった状況でどうすることも出来なかったので、決して初対面の人間とすぐ打ち解けられるような性格ではなかったが、そんなことを言ってられる状態じゃないので、偶然出会った目の前のおじさんに相談することにし、近くのカフェに連れて行ってもらった。

ちなみに、VR世界ではないという確証を得るために一応、試しておこうと埃を取るフリをしておじさんの被っていた帽子に触った。手には確かに触った感覚があった。
もし、仮想現実なら自分も仮想なのだから、触った感覚があって当然と思われるかもしれないが、そうではない。具体的に言えば、帽子を触ったのではなく、取ったのだ。
すると、おじさんのお手本のような見事なハゲ頭があらわになった。だからなんだよ、とお思いになるかもしれないが、これは重要なことだ。なぜなら、ここが仮想世界ではないという決定的な理由になるからだ。
考えても見てほしい。仮想である世界で誰が好き好んでハゲ頭をチョイスするのかを。現実にハゲている人に、仮想世界のキャラを自由に選択出来ますよ、と言ってわざわざハゲのキャラを選ぶなど有り得ない。有るとすれば、よっぽどリアリティにこだわる変態的芸術派のド変態(変態という言葉が2回出るほどの変態)しかいない。
よって、このおじさんは仮想世界のキャラクターではなく、現実世界の人間であり、ハゲたくてハゲているわけではなく、ハゲという現実を受け止めて、嫌々(?)ハゲているのだ。
以上の理由により、仮想世界に見えるこの世界は現実であり、状況的に未来であるという結論に至るのだ。…てか、未来でも植毛の技術はそんなに進歩していないんだな…。ウチの家系、ハゲ多いからヤバイな…。
なんて、どうでもいい考察をミルクを注いだコーヒーと共に頭の中でグルグル回しながら、現在の状況をおじさんに話したのだ。

「信じてくれるのか?俺の言うこと」
「まあね」
おじさんはミルクを注いだコーヒーをスプーンで混ぜながら答えた。その冷静な受け答えをする様に対して、俺は頭に浮かんだことをそのまま口にした。
「おじさん、マンガとか結構、読む人か?」
「ハハッ、それはフィクション的な状況に慣れてるのか?ってことかい?」
「うん、だって全然驚いてないし。それとも、未来ではもうタイムスリップがあんのか?」
「いや、流石にタイムスリップはまだないな。まぁ、驚いていないように見えるのはそれに近いけどね。まだないにせよ、いずれは出来るんじゃないかと感じていたからなんだ。ご覧の通り、君のいた時代とは随分と変わったろう?ここに至るまでの数々の技術革新を目にしてきたものとしては、もう何が起きても不思議じゃないのさ。それがたとえ、タイムスリップであろうともね。」
「確かに…」

俺はカフェの外に広がる景色に目をやった。
ファンタジーRPGとしか思えない街の風景が広がりつつも、随所に最新のテクノロジーが見え隠れしている。
さっきから、格好はRPG風の通行人なのにスマホをいじる感覚で空中に開いたゲームのステータス画面のようなものを見ているし、このカフェも店員らしき人が見当たらない無人カフェで、外の人たちのような画面をおじさんも空中に開いて注文を行い、ロボットが運んできたのだ。
まったく信じられないが、この風景は「こういう別世界がある」のではなく、ああいった類の技術によって構築された、あくまで「作られた世界」らしい。

「俺がいた時代の名残は綺麗サッパリ消え去ってるな…」
思わず、独り言を呟く俺を、おじさんはコーヒーをすすりながら、興味ありげに見ていた。
「ん?どした?」
「いや、さっきあんまり驚いていないって僕に言ったけど、君のほうこそ置かれた状況の割に意外と落ち着いてるよね。まさか、タイムスリップ慣れしてるのかい?笑」
「んなわけねえだろ笑。伊達にマンガやアニメやらラノベをかじってないだけだ」
「ハハッ。じゃあ、西暦を聞いたのもお決まりの流れだったってわけだね」
「まぁな。だから、タイムスリップしたときの対処法は教育済みだ。まずはこうして未来側の人間に過去から来たことを信じてもらうところから始めるのもな」
「じゃあ、僕はまんまと信じさせられたわけだ」
「仕方ねえよ。こういうのは、だいたい一人は信じてくれるのがお決まりだからな」
「ハハッ、確かに。西暦のことだったり、急に僕の帽子を剥ぎ取る奇行だったりを、いざ目の前にすると信じてしまうもんなんだね」
「奇行…」
仮説を検証するためとは言え、人様のハゲを晒しものにしちまったことに俺は、苦笑いしながら目の前のカップを持ち上げ、顔を隠すように口をつけた。
「それに…」
「それに?」
おじさんの続きの言葉を待つように俺はカップを掴んでいる手を思わず止めた。
「伊達にマンガやアニメやらラノベをかじってないんでね」
「ハハッ、そりゃ驚かねえわけだ」
納得した俺は再び手元のコーヒーを口に寄せ、一気に飲み干した。
そのとき…

『キャアアアア!!』

その場に大きな悲鳴が響いた。
悲鳴が聞こえたカフェの外に目をやると、窓の外に広がっていた異様な光景に思わず目を見開いた。

「な、なんだあのバケモン…?」

目に映った瞬間、それを『バケモン』と表現するしかなかった。そこにいたのは、宙に浮いた黒い肉の塊から腕が二本だけ生え、肉の真ん中に大きな一つ目がギョロリと光る怪物だったからだ。
その怪物は腕を振り回して建物を壊しながら進行し、恐れる街の人たちが逃げ惑っていた。その光景を見た俺はというと…

「行くぞ、おじさん!!」
テーブルの上に立ち上がり、窓の淵に足をかける。
「え、状況理解出来たの?」
おじさんは俺の背中に向かって問いかけた。
「あぁ」
俺は振り返って親指を立てる。
「クエスト発生…ってやつだろ?」


よくある異世界転生かと思ったら、異世界みたいになってた未来世界でした。 第1話

2020-04-03 05:09:00 | 日記
ー20XX年

「それでは皆様、お待たせいたしました!」

高級ホテルのパーティー会場、暗がりの中で唯一、スポットライトを当てられた司会の女性の声が響く。

「これまで、数々の歴史に残るであろう偉業を次々と成し遂げ、全世界に影響を及ぼす科学革命で世界を一変させた『現代の創造神』!ノーベル賞科学者、世十(せと)創一(そういち)さんの登場です!!どうぞ!!」

女性が左側にあるステージに向かって手を挙げると、それを合図にしたように会場中から拍手が起こり、スポットライトが当てられたステージの両脇から勢いよくガスが噴射する。煙の中に人影が浮かび上がり、ゆっくりとその姿を光の下へと晒し、スタンドマイクの前に立つ。

「ご紹介に預かりました世十です。本日はこのような場を設けて頂き、大変ありがたく思います。もし、このような機会がまたあれば、是非とも噴射するガスの威力は弱めて頂きたいですね。髪が乱れてしまうので笑」

髪を直す世十の仕草に、会場から笑いがこぼれる。

「今の紹介の中でもあったように、私は世界の技術を大きく進めたとされています。しかし、実際のところはそうではなく、あるべき姿になっただけなのです。元から世界はこうなるべきで、つまり私は、なるべき姿の道標に沿っただけのことに過ぎません。そして、その道標となった世界というのが、私が遥か過去に見た未来でした。あのとき目にした輝かしき未来に向かって、私は今日まで走り続けてきたのです。」



ー数十年前

全くなんてベタな展開なんだ、と思った。
学校で嫌なことがあった帰り皆に、ぼーっと歩いていたら、今まさに車に轢かれようとしているなんて…ってな。
自分でも不思議だった。今まさに、こんな危機的状況に落ちているのに、他人事のように冷静に己の運命を受け入れようとする自分自身が…。

次の瞬間、目の前が真っ暗になった。こういうのって、ほんとに映画やドラマのように車が目の前まで来たと思ったらシーンが飛んだように真っ暗になるんだな…と、そこも冷静だった。
そしてまたシーンが飛び、目覚める。

「う…うぅん…」
なんだ…?どこだ…よく見えねえ…寝ぼけてるみたいに視界がぼやける…。
目をこすり、焦点が定まるのを待った俺の目に飛び込んできたのは、石で積み上がった建物が並ぶ街だった。
例えるなら、異世界ファンタジーのダンジョンのような…。
「うん…『ような』っていうか、それだな」
完全にファンタジーそのものだった。そして、察した。
「あぁー、はいはい」
なるほどね。完全にわかった。こちとら、伊達にアニメやマンガやらラノベをかじってないんでね。こんなことで慌てふためくと思ったら大間違いだ。こういうファンタジー展開には慣れてる。
車に轢かれたと思ったら、目の前に広がるファンタジー異世界…つまり、死後の異世界転生ってやつだ。まったく…
「ベタな展開だぜ」

全てを察した俺は、自分の仮説を裏付けるため、通りがかったおじさんに声をかけた。
「あー、おじさん、ちょっと聞きたいことあるんだけど…」
「ん?どうしたんだい?」
表情の柔らかさから伝わる親切そうなおじさんが足を止めてくれた。
よし、日本語は通じるようだ。
「えーと…」
答えの想像もつくベタな質問だけど…まぁ、お決まりってことで一応、聞いとくか…。
「地球って星、知ってる?」
質問を聞いた途端、怪訝な顔を浮かべるおじさん。まぁ、そりゃそうだ。聞いたこともない惑星の言葉を急に投げかけられたんだからな。
「ち、地球…?」
とりあえず、地球は知らない、っと…。
「知ってるけど…」
「え!?」
想定していた答えと違って思わず大声を出してしまった。
なるほど…。ということは、俺よりも先に異世界転生してる奴がいるパターンか…。で、そいつが『地球という所から来た異世界人』として既に知られてて、こっちでブイブイ言わせまくってるパターンってわけね。
「オーケー」
考えをまとめた俺は、再びおじさんに質問を投げかける。
「じゃあさ、その地球から来た人間を知ってたりしない?出来れば、会いたいんだけど」
俺の質問に、困惑した表情をさらに強めるおじさん。
「いや…地球から来たっていうか…うーん…」
おじさんは斜め上を見て少し考えたあと、諭すように言い放った。
「ここが、地球だよ?」

「……………へ?」

表情が固まったまま、俺は周りを見渡した。
目に入る景色はどう見ても現代ではない。

「あー…えっと…西暦は…」

「2070年だけど」

「…………あー、そっちかぁ…。」

よくある異世界転生かと思ったら、異世界みたいになってた未来世界でした。