ゆとり世代と呼ばれている今の二十代前半の若い世代は、自分の失敗を恐れて自らの殻に閉じこもる傾向があると言われている。しかも失敗が怖く人に怒られるのも嫌で、それに傷つき易くデリケートな心の人が多いと言われている世代だ。
この春に大学を卒業した雨龍理沙もその一人だった。中学生に入った頃から失敗することが怖くて人前で恥ずかしい思いをするのが嫌だった。傷つくなら最初から挑戦等などせずに無難に過ごすと言う消極的な考えが自らの心に殻が覆うようになった。
故郷の地方都市のある大手企業に就職し地元の小さな営業所に配属された理沙が二カ月が経った六月初めに、大学時代の一年先輩の赤村真由子に偶然に街中で声を掛けられた許智政。
「理沙、あなたこんな所で働いていたの」
「先輩こそ、どうしたんですか。こんなところで合うなんて、それに自転車に乗って」
「私も春に移動になったの。こう見えてもちゃんと仕事をしているのよ。今、上司命令で急いでお得意様に資料を届けるように言われたの」
「えー、そうなんだ」
「私、どう見ても働いているように思えないでしょう。でもねー、これでもちゃんとやっているんだ…それに最近になってその上司から働く顔になってきたなと言われたの。こっちはさ、その積りでいたのに、まだまだ甘かったんだ。でも何時までも学生気分でも困るとも言われたのよ」
「でも人は外見で判断出来ないのに許智政」
「それはそうなんだけど。でも四十歳代の上司は女性なの。高校を卒業して叩き上げの人なの。ところで理沙はどうしたの。会社の制服を着ているから何処かに行くの」
「先輩と同じように雑用ばかりで今から郵便局と銀行に行くの」
「でも仕方がないわ。四月に入ったんでしょう。私もそうだったから。でも七月になったら新規に立ちあげるプロジェクトが有って、それに入るように前から言われている許智政 の。勿論、直接の担当ではないけど、サブとして補佐して欲しいと上司から言われて、その為の事前準備をしている所なの。名刺も作ったの。これ見て、名前があるでしょう。一枚上げるから、困ったらここに電話をしてね。それにファイルも少しずつ揃えているし、来月から机も移動し専用の電話も敷かれるのよ」
「でも凄いじゃないですか」
「凄くはないわよ。何回も同じ失敗し計算機もろくに使えないのかと言われたのよ。大勢の社員が聞いている前で恥ずかしかったけど。でも隣のベテランさんから、こうやって少しずつ仕事を覚えて一人前の社員になるんだって。だから腐るなって言われたのよ。それに新人は怒られるのが仕事なのよっていわれたの。それに今貰っている給与、あなたが稼いだ訳でないのよと言われたの。可なりのショックを受けたわ。その時に眼が覚めたの」
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