アンコールワットの第一回廊のレリーフは絵巻のように順を追って見ていくことにより一つの物語が完結するようになっている。物語こそ違うがその手法は反復する絵巻を終始貫いており、単調な展開を敢えて精細をかくとして高く評価されない向きもあるようだが、長編絵巻をじっくりと見ていくと、時の王が何を伝えたかったのかが、何かしら感じ取れることだろう。
第一回廊は東西200メートル、南北180メートルで、多くの彫刻が施されていて、南面東側でまず眼に飛びこんでくるのが、「天国と地獄」。上下に3分割された壁面には、上から極楽界、裁定を待つ者の世界、地獄と描かれている。エンマ大王に減刑を懇願する人々の姿や、舌抜き、火責め、針責め、ムチ打ちなどの責め苦を受ける人々の姿が赤裸々に描かれている。その反面、これはアンコール・ワットが墳墓寺院だったことを裏付けるものにもなっている。
第一回廊の東面南側の見所は、50mにもわたって描かれている、ヒンドウー教の天地創世神話で知られる「乳海撹押」の説話だ。。ヴィシュヌ神の化身である大亀(クールマ)の背に乗せた大マンダラ山を、両側から神々と阿修羅(神に対する悪神)が大蛇(ヴァースチ)の胴体を綱として引き合うカンボジアの創世神話だ。
第一回廊の西面南側にはインド古代の叙事詩「マハーバーラタ」が描かれている。壁面の向かって左側からカウラヴァ軍が進軍し、右側からがパーンダヴァ軍が迎え撃つ構図となっている。また、上方には体にたくさんの矢を受けて横たわるカウラヴァ軍の指揮なども見ることができる。
南西隅に目を移すと、精度の高いレリーフがあり、20本の腕と10の頭を持つ魔王ラーヴァナが、シヴァ神の座する山を動かそうとしているシーンを瞑想をするシヴァ神がそれを阻止しようとしている。
南面中央部にはハヌマーンの肩に乗って弓を射るラーマ王子が描かれている。20本の腕と10の頭を持ち立ちふさがる魔王ラーヴァナなど。また、戦いに赴くスールヤヴァルマン七世や、行軍を先導するシャム(タイ)の外国人部隊などが見所だ。