憲法よりも国会よりも強い、日米「秘密会議」の危ない実態。
嗚呼、これが日本の「現実」だった!
自民党の衆院選大勝を受けて、安倍晋三首相は今後、日米同盟の強化を図りながら、北朝鮮の脅威に立ち向かっていくという。
だが、ちょっと待ってほしい。
その勇ましい強硬路線は、本当に日本のためになるのか?
結局、アメリカの都合のいいように利用されるだけではないのか?
アメリカが日本を支配する構造を解き明かしたベストセラー憲法よりも国会よりも強い、日米「秘密会議」の危ない実態憲法よりも国会よりも強い、日米「秘密会議」の危ない実態 「知ってはいけない 隠された日本支配の構造」の著者・矢部宏治と田原総一朗が、徹底議論。
戦後、日本がずっとアメリカの「いいなり」であったことの理由や北朝鮮ミサイル危機の行方、さらには、日本がアメリカに核兵器を持たされる可能性について、意見を交わした。
まず、田原が着目したのは、在日米軍の特権が認められた、不当ともいえる日米地位協定だった――。
日米間で結ばれた密約
田原:最初の最初から、おうかがいしたいんですが、そもそも矢部さんが日米地位協定に関心をお持ちになった理由は何ですか?
矢部:きっかけは、2010年に鳩山由紀夫政権が「何か、わけのわからない力」によって退陣したことです。
問題は沖縄の米軍基地にあるらしいというので、私は沖縄の基地すべてを撮影する書籍の企画を立て、写真家と二人で沖縄に撮影に行ったのです。
ここがスタートですね。
田原:なるほど。鳩山首相が辞任せざるを得なくなったと。
それは一般的に、普天間の移設先を辺野古ではなく「最低でも県外」と言ったことに起因していて、鳩山はどうも徳之島をその候補として考えていたらしいけど、その徳之島がダメになった。
それで結局、アメリカと交渉して辺野古を認めざるを得なくなり、沖縄を裏切るかたちで鳩山は首相を辞任したわけですが、矢部さんが沖縄を訪れて最初に「これは大変なことだ」と思ったのは、どういう点でした?
矢部:沖縄では、米軍機が民家の上を低空飛行していたことですね。
ものすごい低空飛行をしていますから。
田原:アメリカ国内ではもちろん、沖縄でも米軍の宿舎の上を米軍機は低空飛行しない。
ところが、日本人の民家の上は平気で飛んでいる。
矢部:その区別がわかったのは撮影後、かなり経ってからなんですけれど、要するにアメリカ人の人権は守られているのに、日本人の人権に関しては一切ケアされていません。
それはなぜかというと、日本には航空法特例法 https://d.hatena.ne.jp/keyword/%E6%97%A5%E7%B1%B3%E5%9C%B0%E4%BD%8D%E5%8D%94%E5%AE%9A%E3%81%AE%E5%AE%9F%E6%96%BD%E3%81%AB%E4%BC%B4%E3%81%86%E8%88%AA%E7%A9%BA%E6%B3%95%E3%81%AE%E7%89%B9%E4%BE%8B%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E6%B3%95%E5%BE%8B というものがあり、米軍機は安全基準を守らなくても飛行できることになっている。
ですから、米軍住宅の上は飛ばないけれど、日本人の住宅の上はいくら低く飛んでもいいという、ものすごくグロテスクな状況が起こっているのです。
田原:今回矢部さんが出版した本の8ページには、たとえば「アメリカは日本国内のどんな場所でも基地にしたいと要求することができる」と書いてある。
しかも、「日本は合理的な理由なしにその要求を拒否することはできず、現実に提供が困難な場合以外、アメリカの要求に同意しないケースは想定されていない」ということが、なんと外務省が1983年12月につくった高級官僚向けの極秘マニュアルに記されている、と。
これ、どういうことなんですか?
まあ占領下ならともかく、なんで戦後40年近く経った1983年の段階で、こんなことが通用したの?
矢部:それが今日、本当に説明したかった点なんです。
1952年にできた日米行政協定が改定されて1960年に日米地位協定となったのですが、この地位協定をよく読むと、アメリカは日本国内の基地と区域の使用を許可されると書いてある。
さらに米軍は日本国内の米軍基地や区域に出入りし、その基地と基地や、それらと日本の港や飛行場との間も自由に移動できるという特権についても、記されています。
田原:だけど、これについてはね、1951年に締結された最初の吉田安保はこのとおりだったんですよね。
でも、1960年に改定された岸安保では、事前に日本政府と相談をしてOKを得なきゃダメだっていうふうになったのでは?
矢部:そこで出てくるのが、改定のウラで結ばれていた密約なんです。
日本国内における米軍基地の使用と米軍の法的地位は、行政協定にかわる地位協定によって規律されると。
田原:そうすると、地位協定はできたけれども、実は52年の行政協定がそのまま続く。
矢部:そうです。それで、この密約ですね。
在日米軍の基地権は、地位協定の改定された文言の下で、行政協定の時代と変わることなく続くと。
田原:これは、岸信介は知っているわけ?
矢部:もちろん知っています。
田原:知っていて密約を結んだ。
矢部:その通りです。
田原:岸が仮に裏があることを承知でやらざるを得なかったとしてね、現在までそれが続いているというのは、その後の総理大臣はどうしているんですか?
矢部:だから、みんな知らないんです、そうした密約を。
田原:なんで知らないんだろう?
矢部:引き継ぎがないんです、一言でいうと。
田原:「ない」っていったって……。
矢部:僕もそれはびっくりしたんですけど。
田原:官僚も言わないの?
矢部:官僚も知らないです。
なぜかというと、これは、元外務省国際情報局長の孫崎享さんがおっしゃっているんですけど、外務省でしかるべきポストに就いたとしても、ちゃんとした情報がもらえるのは、その地位にいる3年間ぐらいだけだと。
その前後のことは、よくわからないというふうに証言しています。
田原:なんで調べようとしないの?
矢部:密約について日本の外務省には、政権が変わったら引き継がなくていいという悪しき伝統があるんです。
田原:でも、守ってるんでしょう?
矢部:もちろん米軍側に文書があるから、守らざるを得ない。
だからこっちは否定するけど、いざとなったら力で押し切ってくれてかまわないという「暗黙の了解」があるわけです。
東京のど真ん中で秘密会議
田原:話は飛ぶけど、日米合同委員会っていうのがあるんですね。
これ、僕は矢部さんの本で初めて知ったんだけど。できたのは……。
矢部:1952年ですね。日本のエリート官僚と在日米軍の幹部が月に2度ほど、都内の米軍施設(南麻布にあるニューサンノー米軍センター)と外務省で行っている秘密の会議です。
ここで決まったことは国会に報告する義務も外部に公表する必要もなく、何でも実行できる。
つまり、合同委員会は、日本の国会よりも憲法よりも上位の存在なのです。
田原:合同委員会の日本側のトップが外務省の北米局長で、ほかに法務省大臣官房長や防衛省地方協力局長などがいる。
一方、アメリカ側のトップは在日米軍司令部の副司令官で、メンバーのほとんどが軍人ですね。
1952年にできて、まだ続いているんでしょう?
矢部:65年間続いているんです。
1600回ぐらい。
田原:続いていることを、総理大臣は知らないわけ?
矢部:鳩山由紀夫は、合同委員会の存在そのものを知らなかったとおっしゃっています。
田原:鳩山は民主党だからね。
たとえば、中曾根(康弘)や小泉(純一郎)も知らなかったのかな?
矢部:あることは知っていたかもしれませんが、その実態については、知らなかったかもしれません。
議事録がほとんどオープンになっていませんから。
田原:そういえば以前、石原慎太郎氏が横田基地の返還と日米での共同使用を訴えていたことがあった。
結局うまくいかなかったけど、なんでダメだったんだろう?
矢部:外務省がまったく協力してくれなかったと石原さんは記者会見で言っていましたけど、合同委員会の実態を見ると、外務省が交渉してどうこうなるっていう話ではないんですよね。
要するに、合同委員会で米軍側が決めたら、日本側はそれを聞き入れるしかないという関係なんですよ。
田原:実は、森本(敏)さん(元防衛大臣)に、矢部さんの本に合同委員会のことが書いてあるよと伝えたところ、彼は知っていたんです。
「自分も合同委員会に出たことある」と。
そこで、「なんでこんなもの変えないんだ」と尋ねると、森本さんは「それを変えようという意見がどこからも出てこないんだ」と言っていた。
矢部:合同委員会には本会議の他に、30以上の分科委員会があるんですが、森本さんは自衛隊から外務省北米局日米安保課に出向していた時期があるから、そのころ出ていたのかもしれませんね。
ちなみに合同委員会のアメリカ側のメンバーには、一人だけ外交官がいます。
それはアメリカの大使館の公使で、つまりアメリカ大使館のナンバー2なのですが、これまでの何人かはものすごく批判しています、その体制を。
なぜかと言うと、それは当たり前の話で、本来、日本政府と交渉して、決まったことを軍部に伝えるのが自分たち外交官の仕事なのに、頭越しに軍が全部決めちゃっている。
これはおかしいと、ものすごく怒っているんです。
田原:一番の問題はね、なんで日本側がね、日米地位協定にしても日米合同委員会にしても、それをやめようと言わないのかと。
言ってみりゃこれは、日本はまだアメリカに占領されているようなものですよ。
独立したのに。
でも、いまの体制を続けたほうが得だと思っているのかな、実は。アメリカの従属国になっていることで、安全なんだと。
そのために自衛隊も戦う必要もないし。
現に72年間、戦死者は1人も出なかったと。平和だったと。
それで、経済は自由にやってりゃいいと。
矢部:とくに冷戦時代は、軍事的にも守ってもらえるし、経済的にも優遇してもらえるし、日本にもすごくメリットがあったんですよね。
だから変えられなかったんだと私も思います。
「核の傘」に意味はあるのか
田原: 歴代総理大臣はこれまで、憲法九条を盾に、アメリカの戦争には巻き込まれないようにしてきた。
たとえば佐藤(栄作)内閣のときに、アメリカが「ベトナムに来いよ、自衛隊、一緒に戦おう」と。
佐藤はそれに対して、「もちろん一緒に戦いたい。ところが、あなたの国が難しい憲法を押しつけたから、行くに行けないじゃないか」と返している。
小泉のときも、ブッシュから「一緒にイラクへ来て戦ってくれ」と求められたので、「行くには行くけれども、あなたの国が難しい憲法を押しつけたから、水汲みにしか行けない」と言って水汲みに行ったの。
その一方で、山崎拓から「憲法改正しよう」と持ちかけられた小泉は2005年、舛添(要一)とか与謝野(馨)、船田(元)らに「新憲法草案」をつくらせるじゃない。
これは2012年の「日本国憲法改正草案」よりよっぽどいいと僕は思っているんだけど、山拓が「さあ、草案をつくったんだから憲法改正を打ち出そう」と小泉に言っても、小泉は「いや、郵政民営化が先だ」と。
頭に来た山拓が僕に電話を掛けてきたんです。
「小泉の野郎に逃げられた」と。
小泉もやっぱり、憲法改正しないで、従属したほうが得だと思ったの。
矢部:今年8月の内閣改造で沖縄及び北方担当大臣になった江崎鉄磨さんも、就任直後に地位協定を見直すべきだって発言したあと、すぐに引っ込めましたよね。
田原:日本は「核の傘」の下でアメリカに守ってもらっている。
だから、今年7月、国連で採択された核兵器禁止条約に日本は反対したし、条約の交渉会議にも出なかった。
アメリカの従属国のままのほうが、安全だと思っているのかな。
矢部:いままではそうでしたけど、今回、北朝鮮のミサイル問題を見てもわかるとおり、核の傘なんて何の意味もありませんし、かえって危険だという状況はありますよね。
田原:もしね、北朝鮮が核を持てば、韓国も核を持とうとするでしょう当然。
日本も持とうとするんじゃない?
矢部:うーん。持とうとするというか……。
田原:日本が核を持つのに、一番反対したのはアメリカなんだよ。
僕はキッシンジャーに、そのことを何度か聞いたことがある。
絶対反対だと。
矢部:ところが、いまはむしろ、持たされる可能性が高い。
田原:トランプがそう言ってるじゃない、大統領選挙のとき。
矢部:ですよね。1970年代にヨーロッパで起きたことですが、中距離核ミサイルを持たされて、ソ連とヨーロッパが撃ち合いの状況をつくられてしまった。
でもアメリカはその外側にいて、自分たちは絶対安全と。
そういう体制が今後、日本・韓国と中国・北朝鮮の間でつくられてしまう可能性があります。
あと、今日はもう一つ、田原さんにどうしてもお話ししておきたいことがあるんです。
安倍首相が2015年に安保関連法を成立させて、集団的自衛権の行使が認められるようになりましたよね。
もう、あれで自衛隊は海外へ行けるわけですから、米軍側の次の課題っていうのは憲法改正とかじゃなくて、違うフェーズに移っているということを、いま調べているんです。
具体的には全自衛隊基地の共同使用なのですが。
田原:どういうこと?
矢部:要するに、すべての自衛隊基地を米軍と自衛隊が一緒に使って、米軍の指揮の下で共同演習をやるようになるということです。
たとえば静岡県にある富士の演習場というのは、もともと旧日本軍の基地で、戦後、米軍基地として使われていました。
それが1968年、自衛隊に返還されたのですが、その際、年間270日は米軍が優先的に使うという密約が結ばれていたのです。
田原:いまでもその密約は続いているの?
矢部:ええ。年間270日ですから、日本に返還されたと言ってたら、事実上、米軍基地のままだったわけです。
田原:本当は米軍基地じゃないんでしょう?
残ってるわけか、少し。
矢部:ちょっとだけ残っているんですよね。
全部米軍基地だったのを少しだけ残して、いちおう日本に返したのですが、密約で270日間は自分たちが使うと。
そうすれば、基地を管理する経費がかからないし、米軍基地じゃなくて自衛隊基地のほうが周辺住民の反対運動も少ないので、はるかに都合がいいんです。
下手したらね、たとえば辺野古ができたあと、普天間を日本に返して自衛隊の基地にする、でも米軍が優先的に使いますよ、ということだってあり得るわけです。
ですからこれから日本では、米軍基地の返還が進み、表向きは自衛隊基地なのにその実態は米軍基地、というかたちがどんどん増えていくかもしれません。
どのような政権枠組みになるにせよ、今後厳しく注視していく必要があります。
(読書人の雑誌「本」2017年11月号より)