秋の夕刻、私は北鎌倉の東慶寺を訪れた。当時私は人間関係を作ることに自信を失っていたのを覚えている。
小高い基地のいただきにある高見順の墓へたどり着き、夫人が墓石前の木箱に参拝者のため置いてあったノートを私は何気なく開き、失恋して東慶寺へ来たという女性の淡々とした中にも諦念が感じられる文章に魅了された。夕日に紅葉が照らされた夕映えの中でふと、私の中に流されてきたのは、モーツァルトの「魔笛」中の「絵姿のアリア」で、このアリアはタミーノが恋への予感、あこがれを歌ったらしい.......。その時私は何とさびしい曲なんだろうと、明るい装いをこらしていても人間が根源的に背負っている寂寥感を感じながら.....気がつくと私の迷いは押し流されていた、大きく深呼吸をして帰路につく。
宇野功芳氏の著書を改めて手にしている......。