あーちゃん 初めての外泊

　　　　　　

 

　「あーが　初めて外泊許可になったんだよ。久しぶりに会いに来てやってくれない？」

　Ｔ君から　嬉しいご招待です。

　今年初めに　移植を受けて　以来苦しい闘病が続いていたあーちゃんが

　まる2ヶ月たって　やっと無菌ルームから出て　一般病棟に移ったと聞いたのは

　10日ほど前だったでしょうか。

　あのやんちゃ君が　毎日毎日　抗がん剤の点滴と　放射線療法で　だいぶ弱って

　食事もあまり受け付けていないというので　心配していたのですが

　1日だけ外泊許可が出たとのこと　ずいぶん良好なのでしょう。

　山仲間のＪちゃんと　Ｔ君たちが病院の近くに借りている仮住まいに　おじゃますることに

　なりました。

　とはいえ　あーちゃんは　必ず熱を通したものしか食べられず　それも作ってから

　二時間以内でないとだめらしいのです。

　当然　外食はだめで　その日は寒かったので　鍋にすることになりました。

　久しぶりにあったあーちゃんは　いつもならすぐまとわりついて　手をつないでくるのに

　なんとなく固まった様子で　反応もひどく薄く　皮膚感覚が鈍っているようでした。

　やはり3歳の小さな体に　いっぱいダメージを受けて辛かったでしょうね。

　「よく頑張ったね～えらいよ　あ～ちゃん！」

　Ｊちゃんが゛到着して　みんなで買出しです。仮住まいなので　必要最低限の生活用品

　しかなく　いざ　なべと言っても　コンロから鍋から買うことに．．．

　隣町のデパートにいくと　ＴちゃんがどうせならＩＨのコンロが欲しいと言い出して

　気に入ったのは　ほぼ1万円のもの．．．Ｔ君　カードを出しながら

　「いいよ　欲しいなら買えばいいやん」

　「わあ～いいなあ　そのせりふ。欲しいなら買えばいいやんて　いい響き～(笑)」

　「だってさ　あーが入院してから　病院づけでなんにも買い物とかしてないし

　たまには　こんなこともないとね」

　「ＩＨ対応の鍋もいるよ」

　その鍋は　3種類ほど並べてあったけど　値段見てみんなびっくり．．．

　ことにＴちゃんが気に入ったお洒落な白の鍋は　なんと1万2千円！

　うーん　高い．．．．あんぐりしている私とＪちゃんを尻目に

　「今日は　あーの外泊記念だから　いいよ　買お買お」

　あっさりとＴ君購入しました。普通に簡易コンロと土鍋なら　何分の一かで買えるのに．．．

　食材の方へ下りようとして　全員がある売り場の前で　固まってしまいました。

　そこにはなんと　ホットプレートの鍋版のようなのが　コンロと鍋一体で

　1万円もしない値段で．．．．うーむ　しまったあ．．．．

　「これ　交換しようよ」

　「いや　あんまり　長い時間あーを人ごみに置きたくないから　これでいいよ。

　その代わり　一生これ使うぞ！」　Ｔ君にはあーちゃんの疲れの方が気になったようです。

　表に出ると　広場に鉄人28号の巨大なモニュメントが空に腕を突き出しています。

　以前のあーちゃんなら　喜んで飛んで行ったでしょうが　怖がってママを

　引っ張って遠ざかろうとします。

　元気になったら　また　鉄人28号とも遊べるよ．．．もう少しだよ　あーちゃん。

　鍋は豪快に　好きなものを入れて　あーちゃんの好きなくずきりも　たくさん入れました。

　食器もあるもので適当に　気兼ねのない仲間です。楽しく美味しく会話も弾みます。

　途中で　食の細くなっているあーちゃんが眠くなって　ママが寝かせましたが

　病院では8時にはもう寝ているそうなので　ちょうどそんな時間だったのですね。

　明日は仕事だというＪちゃんの時間もあって　そろそろ失礼しようかと

　そお～っとあーちゃんの部屋を覗くと　横向きに両手を重ねるように寝ています。

　「疲れただろうね。明日は　また　病院に帰るのね。嫌がらないかしら？」

　「いやあ　同室に友達ができてね。明日は帰ると言ってたよ」

　髪の毛が抜けてしまって　帽子を被っていたのが　脱ぐとほんとに病気なんだなと

　思えるほど痛々しい様子です。

　でも　あーちゃんには希望があるから　負けないでいこうね。

　すっかり大人しくなって　やんちゃもしなくなっているけど　前のように

　走り回るあーちゃんと　また再会できるのが楽しみですよ。

 

　

　

　　　　　　　　　この写真　あーちゃんに　とても良く似ています。　^-^