Rock'n Roll
ネタ切れ間近。
これは、3年前の録音。
だんだんさかのぼる~。
{このシリーズは、ストーリーが番号順に展開していません}
私と同じ方向を向いて、ずっと黙っていた彼女が口を開いた。
「ねえ。 わたしと、ギターと どっちが大切なの?」
突然の質問で私はおどろいたが、私の口は即座に反応していた。
「和子に決まってるだろ!」
彼女の笑顔を期待して、すでに彼女へ向き直っていた私の見たものは、
彼女の落胆の表情とため息ひとつ。
その時は「なんで?」と私は思ったが、理由は後で知ることになる。
一週間後、私は彼女に呼び出された。
私はいつものデート気分で、
池袋東武・地下一階の沢山連なるテレビ・モニターの前で待つ彼女を想像しながら、地下街をあるく。
いつも、待ち合わせは先について待っている私だが、
しかしその日は、いつもよりもっと早く着きそうな勢いで、
行きかう人々を縫うように、私は地下街に歩みを進めていた。
いつもと何かが、違うように感じていたからだ。
テレビ・モニターの連立する向かい側に彼女はいた。
その隣には、私と同年代の細身の若い男が接近して立っている。
なんだ、あいつ?
と思いながら、私は彼女へ一直線に向かって行った。
「早く着いたんだね」
と、声をかけると、彼女はうなずいて、
「・・・・・・・わたしの彼、紹介するわ。」と言いながら、隣の細身の若者の腕にすがった。
私はとっさに状況判断がつかず、口ごもった。
「・・・・・・OO大学3年のYuujiといいます」
何?
私の後輩?
「なに・・・ 解らないんだけど。」と、やっと口にした。
彼女は思念をはらいのけるようにして、話し出した。
「あなたとは、もう終わりって云う事・・・・・・この人を好きになったの・・・・・それを伝えたくて、よんだの。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それだけ!」 「じゃあね!」
と言って、彼女は男の腕にしがみついたまま去ろうとする。
「まてよ!!」
「おまえは、こいつと付き合うんなら、幸せにする自身はあるんだろうな!」
なんで私はそんなことを言ったのか、わからないが、このまま終わらせたくなかったのかもしれない。
私は男の胸ぐらをつかんで、
「おまえな! 男らしく自分で言え! そんなことくらい言えないのかこのやろう!」と大きな声を出していた。
その時、小柄な彼女からは想像もできないほどの勢いで、
「やめて!!」と言って、私の前に割って入り、彼女は男の腕を取り、即座に地下街の雑踏に紛れて行った。
ボー然と立ち尽くす私。
どこかで、 こんなことが、 あったような、 気がした。