ザウルスの法則

真実は、受け容れられる者にはすがすがしい。
しかし、受け容れられない者には不快である。
ザウルスの法則

定義は”パンツ”である

2013-01-30 14:03:37 | 定義

定義は“パンツ”である

定義する = ある言葉の意味を、同義語や類義語を用いずに、過不足なく明らかにすること

 

傾く

◇ 一定の基準(水平または垂直)から片方へそれる。ななめになる。かしぐ。かたよる。   「広辞苑」

◇ 物が斜めになる。かしぐ。   「デジタル大辞泉」

「ななめ」も「かしぐ」も「傾く」の類義語であるので、ザウルスのポリシーでは定義に使えない。「同義語、類義語、派生語を排する」という“縛り”がザウルス流である。俳句でも漢詩でもソネットでも“縛り”があってこそ、そこに“形式美”が生まれるのではないか。たしかに形式美がそのまま“美”ではないが、ここは普遍的な言語的、文学的美を追求する場ではない。ここでは言葉の”カタログ化”における合理性を問題にしている。ザウルス的定義は以下のようになる。

 

◆ 水平もしくは垂直なものが水平でも垂直でもなくなること    ザウルス

 「テーブルが~、突然車が~、証明書写真の貼り方が少し~、地震で電柱が~」

 

吸う

◇ 気体や液体を鼻や口を通して体内に引き入れる。   「広辞苑」

◇ 気体や液体を、口や鼻からからだのなかに引き入れる。引きつけるようにして中に取り込む。吸引する。    「デジタル大辞泉」

両辞典とも「引き入れる」と言っているが、まるで微小な小人達が一生懸命にロープで引っ張っているようではないか。

世の中には鼻から気体でも液体でもなく、ある種の粉を一生懸命に吸うひとがいるそうだ。

「吸う」という行為は今日機械がしてもおかしくないはずだ。しかし、掃除機に「鼻」はないだろう。

 

◆ 気体、液体もしくは粉体を開口部から陰圧によって引き込むこと    ザウルス

 「赤ん坊がお乳を~、高原の朝の空気を胸いっぱい~、コカインの粉を鼻から~、吸引機で鼻水を~」

 

荒ぶ (すさぶ)

1) 荒れてこまやかさがなくなる。荒廃する。   「広辞苑」

2) 気持ちや生活態度にゆとりやうるおいなどがなくなること。とげとげしくなる。荒れる。   「デジタル大辞泉」

「荒れて」にしても「荒れる」、「荒廃する」にしても、定義には同じ漢字を使ってほしくないというのは無理な注文であろうか。同じ漢字をちょっと違う使い方で読者に定義として提示するのはまるで“朝三暮四”ではないか。読者は猿なみに扱われているようだ。

「ゆとり」「うるおい」「とげとげしく」といった、それじたいが客観性を欠いた曖昧な用語を定義に多用するのはいかがなものか。

 

◆ 気持ちや生活において文化的もしくは人間的価値が減少すること    ザウルス

 「単身赴任で生活が~、仕事ばかりで心が~、男性が一人もいない職場で気持ちが~」

 

急かす

1) いそがせる。せきたてる。   「広辞苑」

2) 催促して急がせる。せきたてる。せかす。   「デジタル大辞泉」

「急がせる」→「いそがせる」、「急きたてる」→「せきたてる」   漢字をひらがなにすればそのまま定義なのであろうか。これも立派な“朝三暮四”ではないだろうか。こうした定義で「なるほど」と納得するのは猿なみの頭脳とも言えそうである。

「催促」はもろに同義語であろう。

 

 ◆ 他者の行動の所要時間を短縮させるために干渉すること    ザウルス

 「化粧をしている妻を~、寝坊した息子を~、電話で納品を~」

 

尊敬する

1) 他人の人格・行為などをとうとびうやまうこと。   「広辞苑」

2) そのひとの人格をとうといものと認めてうやまうこと。そのひとの行為・業績などをすぐれたものと認めて、そのひとをうやまうこと。   「デジタル大辞泉」

ここでも“ひらがな化”(“朝三暮四”)がほぼそのまま定義とされている。「尊び」→「とうとび」、「敬うこと」→「うやまうこと」  つまりここでは、定義は漢字の読めない子どもに声に出して言ってあげるのと同じことになる。

ここには、言葉の本質をつかみとって論理的に組み立てて意味を明らかにしようという意志がみじんも存在しない。言葉を“うやまう”気持ちが皆無である。

 

◆ 人間的価値の序列の非常に高い位置におき、相応に扱うこと    ザウルス

 「母を~、野口英世を~、マイケル・ジャクソンを~」

 

約束する

1) ある物事について将来にわたって取り決めること。   「広辞苑」

2) 当事者の間で取り決めること。   「デジタル大辞泉」

両辞典とも今日その言葉が実際に使われている状況、文脈から乖離した定義を与えて平気でいる例である。

ふつう「約束」には、約束する側とされる側が存在する。そして約束する側にそれを果たす負担、責務が生じるのではなかろうか。約束する側はいわば“債務者”になるのである。いっぽう約束される側は”債権者”であって、そうした束縛から自由である。この非対称性が「約束」における重要な条件である。両辞典ともこの点がまるごと抜け落ちていて、約束における双方があたかも対等であるかのように解釈している。「約束」においては一方が他方に対してその履行を一方的に要求でき、その不履行の際には一方的に責めることができるはずである。これを”非対称性”という。

 

  ◆ 何らかの行為もしくは不作為の確実な実行に責任を負うと言明すること   ザウルス

 「結婚を~、月末までの返済を~、誰にも言わないと~、まともな辞典を作ると~」

 

後悔する

1) 前にした事を後になって悔いること。   「広辞苑」

2) 自分のしてしまったことを、あとになって失敗であったと悔やむこと。   「デジタル大辞泉」

両辞典とも、愚直にも「後」と「悔」の漢字が定義の中でそのまま使われている。つまり「後悔」という熟語をほどいただけである。

それにしても「広辞苑」の「前にした事を後になって悔いること」には開いた口がふさがらない。この定義で十分納得できるひともいることであろう。できることならば、そのひとたちにぜひ訊いてみたいものだ、逆に「後にした事を前に悔いること」が可能ですかと。

どちらの辞典でも「後になって」と言っているが、そもそも「事後に」でなく、「事前に」悔いることは可能なのか。まだしていないことを実際に悔やむことができるのか。悔やむのが「事後」になるのは当たり前であろう。むしろ「事後」でなければ「悔やむ」ことは不可能ではないか。この「後」の意味は、実は「後になって振り返って」の意味である。両辞典ともこの点に気づかず、愚鈍にもただ「事後」の意味にしかとらえていないのは驚きである。

この「後になって」は「将来」の意味だという指摘がきっとあるだろう。しかし、「中退したことを後悔している」という文はどうだ。この場合、“将来”の意味をどこに見出せるのか。ふつうに考えて、どこにも見出せないだろう。単に“振りかえって”悔やんでいるだけである。

また、「後になって」は、実は「長い時間を経過してから」の意味だという指摘もあろう。はい、はい、それならば、「メールを送信し終わるや彼女は後悔した」という文は矛盾した表現になるであろうか。決してそんなことはない。今したことをただ”振りかえって”悔やんでいるだけである。

両辞典のそのままの定義において、この「後になって」は“意味のない蛇足(重言という)”である。すると残るのはほとんど「悔いる」だけである。端的に言って「悔いる」はそのまま「後悔する」である。とすると、両辞典とも、「後悔する」=「悔いる」 とは 「悔いること」 である と言っているに等しい。問題はその「悔いる」がどういう意味かなのである。しかし、両辞典ともそれを解きほぐそうとはしない。

さらにもう一点重要な点を指摘したい。両辞典とも、「した事」「してしまったこと」を後悔の対象としている。しかし、あなたは「しなかった事」を後悔したことはないだろうか。あなたには幸い今まで無かったかもしれないが、世の中には「しなかった事」を後悔する例は枚挙にいとまがない。「保険に入っておけばよかった」「教員免許を取っておけばよかった」「すぐに買っておけばよかった」・・・ひょっとすると「した事」を後悔する場合よりも多いのではなかろうか。

 

◆ 過去の自分の何らかの選択を失敗として思い起こすこと   ザウルス

「体罰を加えたことを~、今の夫との結婚を~、この株をもっと早く手放さなかったことを~」

 

定義する = ある言葉の意味を、同義語や類義語を用いずに、過不足なく明らかにすること

 

定義は“パンツ”である。

これが、わたしの主張である。「広辞苑」は言うなれば“ふんどし”である。ゆるくて締りがなくて遊びが多すぎ、しばしばはみ出してしまう。「デジタル大辞泉」は絵や柄のはいった“トランクス”といったところであるが、まだ締りがない。どうも中で遊んでしまって具合がよろしくない。ザウルスの定義は機能的で快適な“ブリーフ”をめざしている。必要最小限の言葉で不必要な遊びが最小限であって、かつはみ出すことなく心地よく納まるものを理想としている。

 

日本語のほとんどの動詞を定義したので、ぜひごらんいただきたい。(随時訂正、改訂している)

定義集 動詞  あ ~ こ  (209)

定義集 動詞  さ ~ の  (174)

定義集 動詞  は ~ わ  (167)

“定義”の美しさ

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