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史料紹介-近代日本における人身売買 5

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「社会外之社会」-その5

 

 

〈解説〉

公娼制度での高利貸しと貸座敷の関係について

 

 

 高利貸と貸座敷   

 悪魔の巣には悪魔の跋扈を見る。   

 此の暗黒の社会に於て最も威を振ふ者は高利貸と云へる一種の悪鬼なり。   

 今吉原遊廓に於て大小百六十七戸の貸座敷ある中に就て調査をせしに自家の資本を以て営業せる者は僅かに左の十三戸に過ぎず、其他は皆高利貸の金を借りて営業せる者なり。   吉原廓内無借金営業者表   町名   楼名   楼主名   京町一丁目   稲毛   原さく   同   三河   鶴田家寿   京町二丁目   松大黒   石野平次郎   同   吉田   吉田多吉   同   元東   相原伝吉   同   新東   島津はる   揚屋町   宝来   田中とく   同   平大黒   市川なを   角町   稲本   杉浦庄三郎   同   宝   渡辺ひさ   江戸町一丁目   大文字   波木井いと   江戸町二丁目   鶴吉   石川倉次郎   同   竜ヶ崎   川喜多徳五郎   

 此の十三戸は先づ以て借金なしとの評判なれども是れとても果して然るや否やを保証し難し。   

 其他の百五十四戸は、大店と云ひ、中店と言ひ、小店と云ふも皆借金の遣り繰りを以て営業し、河岸店又は切り店と称する者の如きは、驚く可き高利を借りて以て僅かに其営業を継続せり。   

 彼等は愚かなる遊客の懐中を絞ぼり上げ、娼妓を酷待し、新造、若い衆をコキ使ふて、而して日夜高利貸に奉公を成せる者なり。   

 嗚呼、僅かの金員の為めに其娘妹を売る所の愚かなる人民、此苦界に入りて恥かしき所業を営む所の浅間しき婦女、此の浅間しき婦女の用を弁じて奔走する新造、遣り手、仲ドン、妓夫、此等の堕落せる男女を役して暴利を貪ぼる所の楼主、及び獣欲の為めに此の境界に蹈み迷ひ、此の楼主に暴利を貪ぼられて、身を亡ぼし、家を傾け、世の物笑ひとなる痴漢、而して此痴漢より取りたる楼主の暴利を右から左へ吸ひ上ぐる高利貸-嗚呼彼等の怪又怪、醜又醜なる動物が、我四千五百万の同胞中に分在せるとは、実に驚き入りたる現象に非ずや。   

 日本人は自ら日本帝国を「神州」と称し「桜花国」と称し、富士山を誇り、日本魂を誇れども、外国人は却て日本を「売淫国」と冷笑せり、真に口惜しき次第なるも、事実に於て日本が「売淫国」なるを如何んせん。   

 我が愚かなる政府の大臣は自ら窃かに芸妓の如き売淫婦を買ふ所の馬鹿大臣なるのみならず、其の表面に於ても売淫を公許して恥ぢざる鉄面大臣なり、破廉恥大臣なり、無神経大臣なり、没道議大臣なり、   

 然れども彼等は又別に感ずる所ある者の如く、貸座敷取締規則なる者を設けて、極めて姑息因循なる取締をなすが如く装へり。   

 一,貸座敷は店頭若くは往来に於て通行人に遊興を励め又広告をなし遊興を勧誘す可らず。   

 一,洲崎、吉原等別に遊廓の一区画をなせる地を除くの外粧飾したる娼妓を通行人の目に触れしむ可らず。   

 是等は其規則中の要項なり、然るに現政府の馬鹿大臣共は売淫を公許して神聖なる日本帝国を「売淫国」と称せらるゝに至れるを何とも思はざる程度の痴漢なれば、此等の申訳的なる因循姑息の取締規則すらも実際は之を励行せざるなり。   

 吾人をして先づ左の投書を見せしめよ。   

 一寸申上候、洲崎廓内河内楼及び港楼には赤い大提灯をブラ下げて衆目を惹き候のみならず、河岸見世のチヨンチヨン格子に至ては行灯に黒と赤を以て「改良」とか「大勉強」などと広告致居申候、是れ取締規則違反には無之哉と存ぜられ、伺上候(深川一見道人)   

 昨日千住を通行仕り候処、世界楼事斎藤いね方の店頭には、「勿驚改良貸座敷」と岩谷松平的の看板を掲げ、尚又横手の壁には「改良貸座敷」と大書致通行人の目を惹き申候実に驚き入りました義に候(照千住定公)   

 近来品川の妓楼の風俗紊乱には、何人か豈慨嘆せざらんや、品川街道の通行人は皆階上の娼妓と遊客の相互ひに巫山戯居るを見る可し、殊に浪花楼事矢崎ゆき方の如きは、時々二階を開放して娼妓の起臥する姿を見せ、時として紙類を往来に投棄することあり、又和国楼、高砂楼、朝日楼の如きは、通行人の見る階上に於て娼妓が卑猥なるホーカイ節を歌ひ、時としては舞踏を試み居れり、裲襠姿を見るが如きは実に日常の事なり、豈不都合に非ずや(三田憤慨生)   

 売淫を公許する程の馬鹿なる内務省が貸座敷取締規則を励行せざるが如きは素より怪しむに足らず、国民は根本的に此売淫制度の打破に務ざる可らず。(出典 谷川健一編『近代民衆の記録3 娼婦』新人物往来社 1971年6月10日 145-146頁)


〈慰安婦〉

                        

 

 

                     

 

 


 

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