キャンプ場や山に潜む手ごわい「マダニ」と「ヤマビル」 記者も“絶叫”したかみつきの恐怖
2022/07/02 10:00 (AERA dot.)
楽しいキャンプ。でも対策は怠ることなく。油断は禁物だ(gettyimages)
各地で次々と梅雨明けし、6月から厳しい暑さが連日続いている。その猛暑を逃れようと、夏休みに自然豊かなキャンプ場でのんびりと過ごす計画を立てている人もいるだろう。
ところが、知らぬ間に恐ろしい生物が忍び寄り、気がついたときには悲鳴を上げる事態も起こりうる。「マダニ」と「ヤマビル」だ。この時期、活発に活動し、人間の皮膚に張りつき、血を吸う。特にマダニは特効薬のない「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」を媒介することも問題になっている。対策などを専門家に取材した。
えたいの知れない生きものが皮膚に張りつき、うごめいているのを目にしたときの恐怖。まずは、筆者がマダニにやられたときの体験を語りたい。
3年前、家族で神奈川県のキャンプ場に出かけ、帰ってきた日の夜のことだった。
就寝前、トイレに行くと、股間に何やら、茶色っぽい小さな粒がついている。さっき風呂に入ったのに、なんで落ちなかったんだろう。おかしいな――。
ゴミだと思い、指ではじいたもののビクともしない。えっ、なんで?
再び指で触ったときだった。
「うぁぁぁー!」
深夜のトイレで絶叫した。突如、小さな物体から足が突き出て、動いたのだ。
一瞬で眠気が吹き飛んだ。
これはたぶん、ダニだ……。
まだしっかりと張りついたままだが、急いでパソコンを立ち上げた。画面の写真と見比べて確認し、対処法を調べる。すると、無理に引っ張るとダニの一部がちぎれ、皮膚の中に残り、傷口が化膿してしまう、などとサイトに書かれていた。あそこが膿(う)んだら大変だ――。
だが、吸血が終わると自然に外れる、とも書かれていた。
どんな場面でダニにやられたのか、まったく思い浮かばない。よりによって、こんなところに食いつきやがって――心の中で悪態をつく。
場所が場所だけに子どもたちには黙っていた。妻には報告したが、無言である。
そのうちにとれるのではないか? かすかな希望を抱き、数日間、様子をみたが変化はなく諦めた。トイレに行くたび、アイツを目にするストレスに耐えられなくなったのだ。
近所の皮膚科を訪ねた。
ズボンを下ろすと、医師は驚く様子もなく「ああ、マダニですね」と言った。ピンセットでマダニの胴体をつまむと、手慣れた様子で皮膚から外し、小さな瓶の中に放り込んだ。
「最近、キャンプに行ってマダニにやられる人が多いんですよ」
そう言って医師が瓶を揺らすと、底に沈んでいたたくさんのマダニが溶液の中を舞った。たっぷりと血を吸ったのか、小豆みたいなやつもいた。
■「死亡のおそれ」もある感染症
いま厚生労働省はマダニ対策を強く呼びかけている。見た目の気味悪さや吸血の恐ろしさ以上に、日本紅斑熱、ライム病、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)など、さまざまな感染症を媒介することが問題となっているからだ。
特に重症化すると死亡することもあるSFTSは治療薬やワクチンはなく、対症療法しかない。SFTSは2013年に国内(山口県)で初報告以来、年々報告数は増加し、東日本にも広まっている。
では、マダニはどんな場所に生息しているのか?
厚労省によると、マダニはシカやイノシシ、野ウサギなどの野生動物が出没する環境に多く生息しているという。民家の裏山にもいる。もちろん、山あいのキャンプ場も要注意だ。
草むらなどに潜んだマダニは通りかかった人間に跳びつく。身を守るには服装選びが大切で、腕や足、首など、肌を露出しないこと。当然のことながら、半ズボンやサンダル履きは不適当である。
虫よけ剤を使用すると、マダニの付着数を減らす効果があり、有効成分「ディート」「イカリジン」などが配合されたものが市販されている。ただし、虫よけ剤だけでは完全にマダニを防げないので、服装などと組み合わせて対策するとよい。
では、マダニにかまれた場合はどう対処すればいいのか?
先にも書いたが、吸血中のマダニを無理に引き抜こうとすると、その一部が皮膚に残り、化膿するおそれがある。医療機関(皮膚科)で除去、洗浄してもらうと安心だ。その後、数週間程度は体調の変化に注意し、発熱などの症状があった場合は再度、医療機関を受診してほしいという。
■ものすごい勢いで首筋まで…
マダニ同様に、人間の血を吸うやっかいな生きものもいる。
ヤマビルだ。
以前、筆者は「森を歩いていたら、ヤマビルが雨のように降ってきた」という話を聞き、震え上がったことがある。
ところが、「それは俗説です。ヤマビルが木から落ちてくることはありません」と、写真家の三宅岳さんは言う。
三宅さんは神奈川県の山里に暮らし、森で植物を撮影することや林業などの取材をすることを生業(なりわい)としている。そのため、ヤマビルとの遭遇は日常茶飯事で、あらゆる部位に吸い付かれた経験があるという。
「以前、テレビ局のロケに同行したとき、ヤマビルが若い女性ディレクターの首に吸い付いたんです。『きゃー』と叫び、恐怖のあまり、泣き出してしまった。彼女も『上から降ってきた』みたいなことを言っていました」(三宅さん)
やはり、ヤマビルは木の上にもいるのでは?
「実は、ヤマビルってそうとう俊敏なので、そんなふうに誤解されるんです。やわらかい肌を好むので、足元から首筋までものすごい勢いで登ってくる。要するにスピーディーな尺取り虫みたいな感じです」(三宅さん)
ヤマビルは普段、落ち葉の裏などに潜んでいる。黄土色で、成長すると体長5センチほどになる。移動するときは体長が数倍に伸びる。
個人差はあるが、ヤマビルが皮膚に吸い付いても自覚症状がない場合もあるという。
「ときどき親指の先くらいの丸いものが家の中に落ちているんです。それは血を吸い終えて皮膚から外れたヤマビルで、そのとき初めて、ああ、やられたな、と思うくらいで。くっついているときは実感がない」(三宅さん)
■水道周辺や日陰に生息
なぜ、吸血されている間、自覚症状が表れないのか?
環境文化創造研究所内ヤマビル研究会の谷重和さんによると、ヤマビルは吸血のために肌にかみつくと同時に痛みを感じさせないモルヒネのような物質を出すという。
「そのため、吸血後、衣類や靴下などが赤く染まっていることに気づいて、ヤマビルに吸い付かれたのを知ることが多いんです。ヤマビルは吸った血が凝固しないように、ヒルジンという物質を分泌するので、血が止まりにくい。それだけに驚かれると思いますが、人命にかかわることはありません」(谷さん)
吸血中のヤマビルを見つけた場合は、どうすればいいのか?
「虫よけ剤をスプレーすれば簡単にとれます。無理にはがすと傷口が大きくなるといわれることもありますが、それは誤解です。吸血されていたら、すぐにヤマビルをはがしてください」(谷さん)
傷口は流水でよく洗うことが大切だという。
「傷口から血を押し出すようにして洗ってください。ヒルジンなどヤマビルの体液を押し出すことでかゆみや腫れを軽減できます。最後に抗ヒスタミン剤(虫刺され薬やかゆみどめ)を塗布すればよいでしょう。出血が続く場合は傷口にばんそうこうを貼っておくといいです」(谷さん)
ヤマビルは北海道と青森県を除くほぼ全国の低山や山里に生息している。湿り気を好むため、雨が降っているときや雨上がりに活発に活動する。
「キャンプ場では、水道周辺の湿った場所や日陰にヤマビルが多く生息しています。裸足になるときは十分に注意してください」(谷さん)
■熱中症対策も万全に
ヤマビルは人間の呼吸に含まれる二酸化炭素と体温に反応して、取りつき、よじ登ってくる。
「ほんの少しの隙間からでも侵入してくるので、靴下を必ずはくようにしてください。できれば、靴下の中にズボンの裾を入れ、長靴や靴を履くと安心です。暑い日は大変だと思いますが、おすすめです。同時に熱中症対策もお願いします」(谷さん)
さらに谷さんはヤマビル対策として、虫よけスプレーを勧める。
「靴下や靴に虫よけ剤やヤマビル専用の忌避剤をスプレーすると対策の効果が増します。雨が降らなければ3、4時間は効果が持続します」(谷さん)
マダニもヤマビルも、吸い付かれると精神的なショックが大きい。マダニは感染症の心配もある。キャンプを楽しい思い出とするために、準備を怠らないようにしてほしい。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)
えたいの知れない生きものが皮膚に張りつき、うごめいているのを目にしたときの恐怖。まずは、筆者がマダニにやられたときの体験を語りたい。
3年前、家族で神奈川県のキャンプ場に出かけ、帰ってきた日の夜のことだった。
就寝前、トイレに行くと、股間に何やら、茶色っぽい小さな粒がついている。さっき風呂に入ったのに、なんで落ちなかったんだろう。おかしいな――。
ゴミだと思い、指ではじいたもののビクともしない。えっ、なんで?
再び指で触ったときだった。
「うぁぁぁー!」
深夜のトイレで絶叫した。突如、小さな物体から足が突き出て、動いたのだ。
一瞬で眠気が吹き飛んだ。
これはたぶん、ダニだ……。
まだしっかりと張りついたままだが、急いでパソコンを立ち上げた。画面の写真と見比べて確認し、対処法を調べる。すると、無理に引っ張るとダニの一部がちぎれ、皮膚の中に残り、傷口が化膿してしまう、などとサイトに書かれていた。あそこが膿(う)んだら大変だ――。
だが、吸血が終わると自然に外れる、とも書かれていた。
どんな場面でダニにやられたのか、まったく思い浮かばない。よりによって、こんなところに食いつきやがって――心の中で悪態をつく。
場所が場所だけに子どもたちには黙っていた。妻には報告したが、無言である。
そのうちにとれるのではないか? かすかな希望を抱き、数日間、様子をみたが変化はなく諦めた。トイレに行くたび、アイツを目にするストレスに耐えられなくなったのだ。
近所の皮膚科を訪ねた。
ズボンを下ろすと、医師は驚く様子もなく「ああ、マダニですね」と言った。ピンセットでマダニの胴体をつまむと、手慣れた様子で皮膚から外し、小さな瓶の中に放り込んだ。
「最近、キャンプに行ってマダニにやられる人が多いんですよ」
そう言って医師が瓶を揺らすと、底に沈んでいたたくさんのマダニが溶液の中を舞った。たっぷりと血を吸ったのか、小豆みたいなやつもいた。
■「死亡のおそれ」もある感染症
いま厚生労働省はマダニ対策を強く呼びかけている。見た目の気味悪さや吸血の恐ろしさ以上に、日本紅斑熱、ライム病、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)など、さまざまな感染症を媒介することが問題となっているからだ。
特に重症化すると死亡することもあるSFTSは治療薬やワクチンはなく、対症療法しかない。SFTSは2013年に国内(山口県)で初報告以来、年々報告数は増加し、東日本にも広まっている。
では、マダニはどんな場所に生息しているのか?
厚労省によると、マダニはシカやイノシシ、野ウサギなどの野生動物が出没する環境に多く生息しているという。民家の裏山にもいる。もちろん、山あいのキャンプ場も要注意だ。
草むらなどに潜んだマダニは通りかかった人間に跳びつく。身を守るには服装選びが大切で、腕や足、首など、肌を露出しないこと。当然のことながら、半ズボンやサンダル履きは不適当である。
虫よけ剤を使用すると、マダニの付着数を減らす効果があり、有効成分「ディート」「イカリジン」などが配合されたものが市販されている。ただし、虫よけ剤だけでは完全にマダニを防げないので、服装などと組み合わせて対策するとよい。
では、マダニにかまれた場合はどう対処すればいいのか?
先にも書いたが、吸血中のマダニを無理に引き抜こうとすると、その一部が皮膚に残り、化膿するおそれがある。医療機関(皮膚科)で除去、洗浄してもらうと安心だ。その後、数週間程度は体調の変化に注意し、発熱などの症状があった場合は再度、医療機関を受診してほしいという。
■ものすごい勢いで首筋まで…
マダニ同様に、人間の血を吸うやっかいな生きものもいる。
ヤマビルだ。
以前、筆者は「森を歩いていたら、ヤマビルが雨のように降ってきた」という話を聞き、震え上がったことがある。
ところが、「それは俗説です。ヤマビルが木から落ちてくることはありません」と、写真家の三宅岳さんは言う。
三宅さんは神奈川県の山里に暮らし、森で植物を撮影することや林業などの取材をすることを生業(なりわい)としている。そのため、ヤマビルとの遭遇は日常茶飯事で、あらゆる部位に吸い付かれた経験があるという。
「以前、テレビ局のロケに同行したとき、ヤマビルが若い女性ディレクターの首に吸い付いたんです。『きゃー』と叫び、恐怖のあまり、泣き出してしまった。彼女も『上から降ってきた』みたいなことを言っていました」(三宅さん)
やはり、ヤマビルは木の上にもいるのでは?
「実は、ヤマビルってそうとう俊敏なので、そんなふうに誤解されるんです。やわらかい肌を好むので、足元から首筋までものすごい勢いで登ってくる。要するにスピーディーな尺取り虫みたいな感じです」(三宅さん)
ヤマビルは普段、落ち葉の裏などに潜んでいる。黄土色で、成長すると体長5センチほどになる。移動するときは体長が数倍に伸びる。
個人差はあるが、ヤマビルが皮膚に吸い付いても自覚症状がない場合もあるという。
「ときどき親指の先くらいの丸いものが家の中に落ちているんです。それは血を吸い終えて皮膚から外れたヤマビルで、そのとき初めて、ああ、やられたな、と思うくらいで。くっついているときは実感がない」(三宅さん)
■水道周辺や日陰に生息
なぜ、吸血されている間、自覚症状が表れないのか?
環境文化創造研究所内ヤマビル研究会の谷重和さんによると、ヤマビルは吸血のために肌にかみつくと同時に痛みを感じさせないモルヒネのような物質を出すという。
「そのため、吸血後、衣類や靴下などが赤く染まっていることに気づいて、ヤマビルに吸い付かれたのを知ることが多いんです。ヤマビルは吸った血が凝固しないように、ヒルジンという物質を分泌するので、血が止まりにくい。それだけに驚かれると思いますが、人命にかかわることはありません」(谷さん)
吸血中のヤマビルを見つけた場合は、どうすればいいのか?
「虫よけ剤をスプレーすれば簡単にとれます。無理にはがすと傷口が大きくなるといわれることもありますが、それは誤解です。吸血されていたら、すぐにヤマビルをはがしてください」(谷さん)
傷口は流水でよく洗うことが大切だという。
「傷口から血を押し出すようにして洗ってください。ヒルジンなどヤマビルの体液を押し出すことでかゆみや腫れを軽減できます。最後に抗ヒスタミン剤(虫刺され薬やかゆみどめ)を塗布すればよいでしょう。出血が続く場合は傷口にばんそうこうを貼っておくといいです」(谷さん)
ヤマビルは北海道と青森県を除くほぼ全国の低山や山里に生息している。湿り気を好むため、雨が降っているときや雨上がりに活発に活動する。
「キャンプ場では、水道周辺の湿った場所や日陰にヤマビルが多く生息しています。裸足になるときは十分に注意してください」(谷さん)
■熱中症対策も万全に
ヤマビルは人間の呼吸に含まれる二酸化炭素と体温に反応して、取りつき、よじ登ってくる。
「ほんの少しの隙間からでも侵入してくるので、靴下を必ずはくようにしてください。できれば、靴下の中にズボンの裾を入れ、長靴や靴を履くと安心です。暑い日は大変だと思いますが、おすすめです。同時に熱中症対策もお願いします」(谷さん)
さらに谷さんはヤマビル対策として、虫よけスプレーを勧める。
「靴下や靴に虫よけ剤やヤマビル専用の忌避剤をスプレーすると対策の効果が増します。雨が降らなければ3、4時間は効果が持続します」(谷さん)
マダニもヤマビルも、吸い付かれると精神的なショックが大きい。マダニは感染症の心配もある。キャンプを楽しい思い出とするために、準備を怠らないようにしてほしい。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)
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