透明人間たちのひとりごと

ダ・ヴィンチの罠 聖母像

 ルネサンス期に限らずいつの時代においても聖母マリア
の容貌は標準的な女性よりもかなり美しく、気品と慈愛に
満ち溢れた姿で描かれるのが一般的ですが、


         『幼児イエスと聖母マリア』

  ダ・ヴィンチの聖母像は
           少し違っていました


 たとえば、
 
 ラファエロの描く聖母は優しい微笑をたたえる美しい女性
ですし、他の画家たちも概してそのような姿に描きます。


        ラファエロ 『小椅子の聖母』


      ラファエロ 『ベルヴェデーレの聖母』

 それに引き換えダ・ヴィンチの描く初期の聖母は、お世辞
にも美しいと万人が認めるような女性ではなく幼さを残した
少女のような趣きの、どこにでも居そうなポチャとした容姿
の極々普通の女性として描かれています。


    レオナルド・ダ・ヴィンチ 『ブノワの聖母』

 もちろん普通とは言っても一般庶民のそれではなく、洗練
された貴族など特権階級に属する普通の容貌をした女性と
という意味で、すでにそれ自体が歴史的事実あるいは時代
考証の点から言っても正しい姿ではないわけですが …


   レオナルド・ダ・ヴィンチ 『カーネーションの聖母』


 まあ、それはそれとして、

 美人か美人でないかは好みの問題だと、一蹴されるのを
覚悟して言えば、そこにダ・ヴィンチなりの主張やメッセージ
が込められているのは明白で、如何に教会が聖母マリアを



「アヴェ・マリア」と繰り返し唱え、崇め讃えようとも、
聖母とて、もすればも垂れる、その辺にいる只の
人間となんら変わりはしない、いわんやの子イエス
とて同じだ。  … とでも言いたかったのか

 可愛いらしさを微塵も感じさせないような赤ん坊のイエス
といい、うら若きダ・ヴィンチが創作する聖母子への
タッチ(筆致)は、あきらかに他の画家たちと比べるまで
もなく異質とも異様とも思えるのですase2


 ところで

  ダ・ヴィンチが手掛けた作品の題材やテーマに沿って
選び出されたモデルや人物たちのなかで、最多の登場を
数えるのは聖母子をおいて他には見当たりません。
 
 西欧美術においては時に、イエスよりも崇められる高貴
な女性としての、否、美術的モチーフのみならずカトリック
のシンボル的な存在として表現される聖母子は、
言わば、常連客のようなもので …

 おそらく最多賞を受賞する理由は、得意先である教会の
プロパガンダとしての聖母マリアの商品価値が極めて高く、
かつ最重要人物であったことに由来するのでしょうが
、キャスティングをされた人物の描写には必ずと言っていい
ほどに実在する人間がモデルとなっていたようです。

 初期の頃の聖母マリアには少女面影を色濃く映す
あどけない顔立ちのモデルが採用されていましたが、

 ある作品を境に、その容貌変化し、清楚で魅力
ある成熟した大人の女性へと変身していくのです。

 その作品とは、



 『東方三博士の礼拝』(1481-1482年頃)です。



 中央の聖母マリアは、遠目ながらもあきらかにそれまでの
少女的容姿とは異なり、『岩窟の聖母』 ルーブル版
(1483-1486年)以降に引き継がれる一連の聖母(マリア)の
プロトタイプ(原型)であって、『最後の晩餐』での
人物(使徒ヨハネ or マグダラのマリア or 聖母マリア)
へとつながる聖母系モデル系譜です。

  
   『最後の晩餐』のヨハネ  『岩窟の聖母』のマリア

 ダ・ヴィンチはこの作品を未完成のままにミラノに旅立ち、
以来17年を彼の地ミラノで過ごすわけですが、


       『岩窟の聖母』 ルーブル版

 フィレンツェでの修行時代から



事実上のデビュー作 『受胎告知』(1472-1473年)や

  
          『受胎告知』での聖母マリア

『カーネーションの聖母』(1473年)、さらには



『ブノワの聖母』(1475-1478年)辺りまでが童顔で、



 前述のように、『東方三博士の礼拝』を境に、
『岩窟の聖母』ルーブル版からは慈愛に満ちた表情
の成熟した大人の女性として描かれるようになるのですが、



 裁判沙汰になった『岩窟の聖母』ルーブル版には
光輪やアトリビュート(人物を象徴する持ち物)などの装飾
が聖母子や聖ヨハネに施されていません。

 たとえば

 21歳『カーネーションの聖母』でも、
聖母子の頭上にあえて光輪を描かずに仕上げること
で教会や教義に対する抵抗を表わしているようですが、

 青年期にありがちな屈折する感情ゆえか、少し怒った
表情で宙を見つめる赤ん坊のイエスに鬱積する不満
代弁させているように見えなくもありません

     

 それが禍(わざわい)したのか

 ダ・ヴィンチが手稿に残こした「わたしが神様を嬰児として
描いたとき、あなたはわたしを牢屋へ投じた、が、わたしが
神様を大人に描けば、あなたはもっとひどい目にあわせる
に違いない」とは、その辺りの裏事情物語っている
のかもしれませんase

 その影響か、

 『ブノワの聖母』では光輪を復活させていますが、

 反面では、

 生まれたばかりの弟を姉のようにあやしている聖母マリア
のあどけない表情に対し、まるでブルース・ウイルスばりの
貫禄で存在感を示している妙に大人びたふてぶてしい感じ
の赤ん坊のイエスからは、あくまでも「主役は俺」
いう声が聞こえてきそうですが …

     


 このように、

 『ダ・ヴィンチの罠』序幕ともいえる青年期
のステージでは教会系の組織に対する反発・反抗的言動
が目立ち、1478年にはサン・ベルナルド礼拝堂の祭壇画
の依頼を受け、下絵まで描くものの途中で仕事を放棄し、
1481年にはフィレンツェ郊外の修道院から祭壇画の制作
を依頼されましたが素描の途中で仕事を放棄しています。

 そんな性格が裏目に出たのか、システィーナ礼拝堂
壁画制作のためにローマ教皇シクストゥス4世は、才能
あふれるフィレンツェの若き画家(ボッティチェッリ)たちを
招聘しましたが、ダ・ヴィンチは呼ばれませんでしたase

 この時点では、

 移り気で信頼のおけないダ・ヴィンチに声がかからない
のは当然と言えば当然の報いで、因果応報、自業自得の
サンプル的な事例と言えるのではないでしょうか

 さて

 そんな傷心を癒すことが目的でミラノ行きを決意したの
ではないのでしょうが、

 が蒔かれ、肥料存分に供給された
ミラノ時代は、彼にとっての最盛期であるとともに実りの
円熟期を迎える前の中核を成す重要なステージ
でもあったわけです。

 それだけにミラノの支配者 ロドヴィコ・スフォルツァのもと
への旅立ちは、ダ・ヴィンチにとっての起死回生となる
大きなターニング・ポイントだったと思われます。

 なんとなれば、

 天空に向かって人差し指を突き立てるサイン
初めて登場するだけでなく、らしき数々の
仕掛けが散りばめられたプロローグとしての未完
作品である『東方三博士の礼拝』
フィレンツェに残したままでの旅立ちだったわけですから …

 その辺りの事情や謎のサインについては、

 symbol2 『ダ・ヴィンチの罠 サイン』
のページを参考にしてください。

 url http://sun.ap.teacup.com/japan-aid/404.html


 謎解きブログ 『ダ・ヴィンチの罠』のシリーズも
いよいよ佳境に差し掛かってまいりました。

 次回からは最終幕第1段開演です。

 最盛期のクライマックスである『最後の晩餐』
封印を解くための『鍵の鍵』となる3枚の絵画 …


『聖アンナと聖母子』  『モナ・リザ』   『洗礼者聖ヨハネ』

 生涯に亘り、ダ・ヴィンチが手放さなかったという3枚の
油彩画には共通する秘密がありました。

 円熟期に描き始め、手を加え続けた『モナ・リザ』
と晩年になって手掛けた 『聖アンナと聖母子』
そして、最晩年に仕上げた 『洗礼者聖ヨハネ』
それぞれが、なんとひとつの絵画の世界(空間)のなかで、
合成合体融合することが判明したのです





 前回の『ダ・ヴィンチの罠 鍵の鍵』では、

exclamation http://sun.ap.teacup.com/japan-aid/414.html(参照)

 3枚の絵を合成合体融合させる前段階として
個々の絵の中にめられたダ・ヴィンチの思いと内包
されているから、まずは話を起こさなければならないと
記しましたが、どちらを優先させても結論に変わりは
ありませんので、

 その日その時の気分次第とさせてくださいase2
 

 それでは、次回の内容については、

 機嫌がいいのも悪いのも、すべては
 その日まかせの2号の気分次第と
 いうことで ・・・



 … to be continue !!
 

    「聖母系モデルの系譜だとよ」

     

         「笑わせるぜ !!

コメント一覧

小吉
ブルース ウィルス www
むらさき納言
単に好みの問題ではないでしょうか?
他の画家にもパトロンはいたわけですし、
でもブルース・ウイルスは笑えます。
デッキブラシ
貴族の娘や教会の実力者の娘などがモデルになったと思われる
ので、似せて描かないわけにもいかなかったのでは?
つまり、美人に描きたくても描けなかったとか・・・

久々の磨けば光るデッキブラシです!
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