九州のクラブチームのセレクション。
当時有名なサッカー雑誌に載せていた上、将来のJリーグ入りを目指すと書いてあったため応募はかなりあったようだ。
僕は当日入りでは間に合わないため前日からセレクション会場近くに宿をとった。
ビジネスホテルだったが、僕と同じように前日入りしている人もかなりいたようで、ホテルから出発し歩いているといかにもこれからサッカーをやりますといった格好をした人が同じ場所に向かって歩いていることに気がついた。
それぞれがほとんど知り合いもいない見知らぬ土地でのセレクションで、みんな何を思いどんな決意でここに来ているのだろう。
そんなことを考えていたら自分自身も軽い気持ちで来た訳ではない。
必ず合格して自分自身の将来の道を自分自身で切り開いていく。
会場に向かって歩いているだけで気持ちが昂っていくのが分かった。
セレクション会場に着くと受け付けで身分証明などを提示しゼッケンをもらう。
行くとすでにゼッケンごとに組分けがされていてセレクションが始まるとすぐにゲーム形式でスタートする形となっていた。
本来ならば今回のセレクションは午前中はゲーム形式ではなく、持久力やその他もろもろのスポーツテストのようなものが予定されていたが、当日は雷注意報が出ていて予定を繰り上げ最初からゲーム形式で行うことになったようだ。
走らされて疲れるより、ゲームで走って疲れるほうがいい。
僕にとってはラッキーな内容となった。
各自が開始時間まで準備をしストレッチなどを行っている。
そんな時に僕はみんなが着ているユニフォームを見て驚いた。
Jリーグのユースチームのユニフォームを着た人が何人もいる。
数えただけで3チームはいた。
九州だけに限らず全国から来ている有名高校のユニフォームを着た人も何人もいた。
ネームバリューで覚えられやすい。
そんな利点もあると思う。
もしかしたら周りを萎縮させる狙いもあったのかもしれない。
こんなメンバーの中でよくセレクションを受けれることになったなとは思ったが、僕は萎縮するよりもこのメンバーでチームを組んだらどんなサッカーが出来るんだろうとワクワクしていた。
セレクションが始まる前に全員が1ヶ所に集められ説明を受けた。
その時初めてこの場にいる人数が220名であることを知った。
そして午前中の選考で50名前後とし、最終選考で5名程度に絞ると告げられた。
1日で220名から5名が決まる。
その日の調子の良し悪しとかは言っていられない、まさに一発勝負の一日となった。
組分けされたグループごとに分かれ試合をするコートへと向かう。
グラウンドがかなり広くサッカーコート3面をとり11vs11でのゲームが行われていく。
各選手持ち時間は20分前後と決められグループ内でどんどん選手を入れ替えながら試合をしていく。
時折順番をごちゃ混ぜにしながらゲームを行うため毎回同じメンバーとばかりにはならないようになっていた。
そしてコートの中や外。いたるところに試験管の人がいて試合を見ながらペンを走らせ書きこんでいた。
僕は希望ポジションでMFを選択していたが、ここ最近ずっとやっていた真ん中のポジションではなく左サイドを任されることとなった。
中学の時にも経験はしていたしポジションとしては全く問題はなかった。
そして特に緊張もなかったせいか、与えられた出場時間の中で交代するたびにアシストか得点をあげることが出来た。
メンバーが良かったおかげもあると思うが僕は目に見える結果を残すことが出来午前中の部を終えた。
午前中全ての予定が終わりしばらくすると午後からもセレクションを行えるメンバーが発表された。
有名高校の選手やJリーグユースチームのメンバーも落ちていく中僕は奇跡的に50名の中に含まれ午後からもセレクションを行えることとなった。
午後からもゲーム形式は変わらないが内容は午前よりもはるかにハードだった。
ゲーム形式は変わらないが30分1本のゲームを相手を変えながら行う。
そして全試合が終わると予定にはなかったセレクションを受けたクラブチームとの試合も入れられた。
このクラブチームとの試合では20人だけが選抜されたため実際ここで落ちた人も30人いた。
そこでもなんとかくらいつき僕はまだ残っていた。
正直受かることはないし、通用しないかな?
そんな風にも思っていたが、セレクションを受けてみるとうちのチームのメンバーのほうが動きがいいなと思うこともあり気兼ねなくプレー出来ていた。
そしてクラブチームとの試合。
正直レベルの高さに驚いたのと急造チームで意図が分からない部分もあり難しい試合となった。
結果は完敗だった。
こんな内容で最終選考の5名を選べるのかな?
そう思っていたが、試合後すぐに5名が発表された。
220名の中のわずか5名。
僕は合格していた。
正直驚いたが意外に冷静な自分もいた。
合格と同時に親との約束事を思い出していた。
最終選考で選ばれた5名は夏休みを利用してここでチームの合宿に参加しその合宿で1名~3名程度をチームに加入させることが決まっていた。
僕はもしも自分がその最終選考まで残った場合、合宿に参加するまでに最近頻繁に起きている病気を何かはっきりさせて治療する。
それが出来ないならその先には行かせられないと親と約束していた。
原因が分からず倒れる息子を心配してのことで僕も怖さがあったため納得してセレクションを受けにきてはいたが、結局セレクションから帰り合宿が始まるまでに何が原因かも分からず僕は合宿を辞退した。
このセレクションを辞退したことで実質僕はプロになりたいという子供の頃からの夢を諦めることとなった。
続