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山田英生:カロリー制限と健康長寿の関係

2014-05-14 10:29:52 | 健康な食生活
食べすぎは、明らかな老化の原因。

腹七分の食事を習慣に。


1日3食 バランスよく食べる


 90歳、100歳になっても健康で自立した生活を送れる健康長寿こそ、誰もが思い描く理想の老後像かも知れません。そんな健康長寿を実現するためには、肥満を防ぐことも重要な要素の一つ。そのためには、食事量などの摂取カロリーを減らし、日々体を動かすことによって消費カロリーを増やすことが前提になってきます。特に食事面でのカロリー制限は、何よりも大切で、食べすぎは寿命や健康、老化にも悪影響を及ぼす原因になる恐れもあります。いつまでも若々しく元気に過ごすには、1日3食をバランスよく摂り、腹七分目で、おいしく食べながら上手に痩せることが欠かせません。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生山田養蜂場代表(55)がカロリー制限と健康長寿の関係や確実に痩せるための方法などについて語り合いました。

過食は万病のもと

山田 肥満を解消するには摂取カロリーを減らし、消費カロリーを増やすことが重要ですね。でも言うのは簡単ですが、これを実行するとなると、なかなか大変です。無理なく痩せるよい方法はありませんか。

白澤 肥満を招く原因は、何といっても食べすぎです。今、日本は、食べたいものがいつでも食べられる飽食の時代です。でも、欲望にまかせて好きなだけ食べていたら、肥満だけにとどまらず高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病やがんを招いても不思議ではありません。最近の研究では食べすぎが老化を早め、認知症になりやすいこともしだいに明らかになってきました。

山田 肥満を防ぐためには、まず食べすぎないことですね。

白澤 そうです。一言でいえば、カロリー制限、ダイエットをすることです。食べすぎがよくないことは、サルやネズミ、ミジンコなどを使った動物実験で科学的にも証明されています。たとえば、2009年にアメリカのウィスコンシン大学の研究者が発表した「アカゲザルの研究」がよく知られています。人間に近い霊長類、アカゲザルを長期間、観察し続けた研究データです。

山田 どのような研究ですか。

白澤 アカゲザルのグループを「通常のエサを与えたグループ(38匹)」と、「エサの量を3割減らし、7割に制限したグループ(38匹)」の2つに分け、20年近く観察しました。その結果、通常のエサを与えたグループの生存率は、約63%だったのに対し、エサを7割に制限したグループは、約87%でした。さらに、驚いたのが病気の発生率です。通常のエサグループでは、がんを発症したサルは38匹中8匹、糖尿病は5匹、心臓病は4匹だったのに対し、エサを制限したグループでがんを発症したのは4匹、心臓病2匹で、糖尿病にいたっては0。その差は歴然としていました。

山田 エサの量を減らしただけで、こんなにも死亡率が低く、病気にもなりにくいとは、驚きですね。


肥満者いない100歳

白澤 もっとショックだったのは、両グループの見た目の違いです。通常のエサを与えたサルは、毛並みはボロボロ、動作も緩慢、見るからに老化していた=右のサル=のに対し、エサを制限したサルのほうは、毛並みも艶々し、目つきも鋭く、動きも敏捷で、全体的に見ても実に若々しいのです=左のサル(いずれもイメージ図)。また、脳の老化も、通常のエサを与えたサルのほうが進んでいました。このように、カロリー制限をするだけで寿命や病気の発症、見た目に大きな違いが出るのです。人間だって同じで、健康で長生きしたければ、痩せていることが重要な要素になりますね。元気で自立している100歳の方に共通しているのは、皆さん太っていないことです。

山田 昔から「腹八分に病なし」とか「腹八分に医者いらず」とよく言います。「食べすぎや飲みすぎは体によくない」という意味ですが、自分では食べすぎが健康に悪い、とわかっていても目の前においしそうな料理が並ぶと思わず手が伸び、食べすぎてしまいます。健康のためには実際どのくらいの量を食べたらよいのでしょうか。


腹八分でも多すぎる 

白澤 昔から食べる量の目安として「腹八分がよい」と言われていますが、本当に健康長寿を目指すのなら、八分でもちょっと多すぎる、と私は思いますね。カロリー制限をする場合、本来は適正なカロリー計算をして行うべきですが、一応食べる量の目安としては「腹七分」くらいにするのがよいと思いますね。年をとると、体の代謝能力も落ちて、エネルギー効率が悪くなります。それなのに、若いころと同じように食べていたら、消費しきれないエネルギーが体に蓄積され、太ってしまいます。

山田 でも、摂取カロリーを減らそうとするあまり、栄養バランスを崩してしまっては、せっかくの減量も意味がありません。カロリーの減らしすぎは、免疫力や骨密度の低下を招き、健康面にマイナスの影響を及ぼすともいわれています。カロリー制限をする場合、適正なカロリー量は、どのようにして算出しますか。

白澤 適正なカロリー量は、人によって違います。例えば、デスクワークが中心の人と肉体労働の人では、1日に使うエネルギー量もまったく異なり、必要とするカロリー量も自ずから変わってきます。適正なカロリー量がどのくらいかを算出するには、「1日のエネルギー所要量=1日の基礎代謝量×生活活動強度」の計算式に当てはめればすぐ出てきます。

山田 エネルギー所要量とは、1日にどれだけの栄養素やエネルギーを摂取したらよいかという指標のことですね。では、基礎代謝量、生活活動強度とは何ですか。

白澤 基礎代謝量とは、安静の状態で人が必要とするカロリーのこと。性別・年齢別によってカロリーが異なり、50~69歳の男性なら1日当たりの基礎代謝量は1350kcal、女性なら1110kcalとなります。一方、生活活動強度とは、エネルギー消費量からみた日常生活の活動の強さのことで、その度合いによって「低い」「やや低い」「適度」「高い」の4段階に分かれます。たとえば、60歳の女性で、あまり動かない人なら生活活動強度は、「低い」の1.3になります(下記表を参照)。60歳の女性の基礎代謝量は1110kcalですから、これを数式に当てはめれば、「1110(kcal)×1.3=1443(kcal)」。つまり、この女性の1日当たりのエネルギー所要量は、1443 kcalになりますね。

山田 なるほど。意外とわかりやすいですね。

白澤 昨年、101歳を迎えられた聖路加国際病院の理事長で、医師の日野原重明先生に伺った話では、先生はご自身の基礎代謝量に加え、医師としての日常業務、講演、執筆などの活動状況などを考慮し、1日の摂取カロリーを1300kcalと決められているそうです。70歳以上のふつうの男性が必要とするカロリーの摂取量が、1850kcalですから、先生の場合は、7割強の摂取量になりますね。まさに「腹七分」といってもよいでしょう。しかも、体重は今65kgで、20代の時(60kg)とあまり変わっていないそうです。先生は、今も多忙な毎日を送っておられますが、どうやら元気の秘訣の一つに、腹七分目の食事があると私は思っています。ぜひ、皆さんにも「20歳の時の体重+5kg以内」を目指していただきたいですね。

山田 私も「腹七分目」をぜひ心がけたいと思います。


毎日、体重チェック


白澤 それと、20歳の時の体重を目指すには、当時の写真を引っ張り出してきて、そのころのスタイルに戻ることを目標にしたらどうでしょうか。そのためには、毎日、体重計に乗る習慣をつけ、体重を量ったらそれを手帳などに書き込むことから始めてみるのも一つの方法です。また、その日に何を食べたかを記録しておくのも、効果的だと思いますね。

山田 食べすぎはよくない、とわかっていても食事管理は毎日のことでもあり、よほど強い意志がなければ根気よく続けるのは、結構難しいものです。その点、最近の血圧計や体重計、体組成計、歩数計などはメモリー機能や通信機能を持つ製品が増えてきました。日々の食事の記録をパソコンや携帯電話を使ってメールで送ってもらい、その結果をもとに管理栄養士がアドバイスして従業員の健康を管理する企業まであると聞きました。こうした支援サービスを利用すれば、食事の自己管理もしやすくなるでしょう。でも、せっかく減量に成功したとしても、それを維持するのは並大抵のことではありません。肥満の人で減量に成功しても、1年後には約60%の人が元に戻ってしまうとの報告もあるそうです。このようにリバウンドしないためにはどうすればよいですか。

白澤 確かに極端な食事制限や短期間で急激に体重を減らしたりすると、リバウンドしてしまうケースが多いですね。リバウンドしないためには、急激に体重を落とさないで1カ月に1kgとか、じっくり時間をかけて少しずつ痩せること。それと、食事と運動をバランスよく組み合わせ、生活のリズムを安定させることも大事でしょう。食事はおいしく食べて楽しみながら痩せたいものですね。

低栄養にも注意を

山田 カロリー制限をするうえで、気をつけなければならないのが、低栄養の問題でしょう。ダイエットに励むあまり、栄養不足に陥り、健康を害しては何のための減量なのかわかりません。特に年をとると、「粗食は低カロリーで健康によい」と思い込み、あっさりしたものばかりを好む傾向があるようです。そのため、肉類などのタンパク質や乳製品、油脂類などが不足がちになり、健康上いろいろな弊害が出てくる恐れもあるみたいですね。

白澤 その通りです。確かに高齢になると活動量が落ち、その分必要なエネルギー量も減りますが、その一方で、咀嚼力などが落ち、必要なだけの栄養が摂れない「低栄養」に陥る危険性も出てきます。だから、「やみくもに、ただ粗食にさえすればよい」というのは間違いで、高齢者が栄養不足に陥らないためには、食事は1日3食をバランスよく摂り、肉などの動物性タンパク質や油脂類なども摂取する必要があります。

山田英生:肥満は不健康の代名詞

2014-05-14 10:18:51 | 肥満の怖さ
「恰幅がいい」は不健康の代名詞。

まずは体重の5%減量を目指しましょう。



メタボの元凶 内臓脂肪型肥満

 飽食の時代、肥満の人が増えてきました。特にお腹の周りに脂肪がつく「内臓脂肪型肥満」が目立っています。「肥満なんてたいしたことはない」と軽く考えていたら、後で取り返しがつかなくなります。肥満からやがて高血圧症や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病に陥り、さらに動脈硬化から最悪の場合は、心臓病や脳卒中など深刻な病を招く恐れがあるからです。メタボリックシンドロームの元凶である内臓脂肪型肥満を解消することが、健康長寿を目指すための第一関門といえるでしょう。老化と長寿研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生山田養蜂場代表(55)が、内臓脂肪型肥満の怖さとその解消法などについて語り合いました。

肥満は万病のもと

山田 最近、肥満の人をよく見かけるようになりました。昔は、太り気味の男性は「恰幅がいい」とか「押し出しがいい」などと頼りがいがある人の象徴のように言われたものです。ところが、今は逆に「メタボ、メタボ」と不健康の代名詞のように言われるようになり、肩身の狭い思いをしている人もいるのではないでしょうか。確かに肥満は、生活習慣病の原因の一つであり、特に内臓脂肪型肥満は、糖尿病や高血圧症、脂質異常症などと深く関わり、メタボリックシンドロームの元凶ともいわれています。

白澤 日本人の肥満も20年前に比べ、男性は1.5倍に増え、男性の約3割、女性の約2割が肥満といわれています。肥満には皮下脂肪型と内臓脂肪型があり、最近、特に増えてきたのが内臓脂肪型です。この肥満が怖いのは、糖尿病や高血圧症、脂質異常症などの原因となり、動脈硬化から心筋梗塞や狭心症、脳梗塞、脳出血など生命を脅かす重大な病気を引き起こす危険性があるからです。それだけではなく、肥満の人は、がんや認知症などにもかかりやすいことが最近の研究でわかってきました。

山田 まさに「肥満は万病のもと」といえなくもないですね。こうした肥満が増えてきた背景には、肉類を中心とした食生活の洋風化や運動不足などライフスタイルの変化があると思います。職場ではパソコンなどの普及でデスクワークが増え、隣の同僚とさえメールでやり取りするなど体を動かす機会がめっきり減りました。

白澤 都会の駅には、必ずエスカレーターやエレベーターがついており、動く歩道まであるでしょう。交通機関の発達はめざましく、田舎では車が足代わりとなっています。家事もボタン一つ押せば、電化製品が何でもやってくれる時代となりました。現代社会は、自ら体を動かさなければ太るような仕組みになっています。

山田 それでも、海外の国々と比べると、日本はまだ肥満の人は少ないようですね。日本では肥満の目安であるBMI*が25以上の場合を「肥満」としていますが、OECD(経済協力開発機構)の発表では、日本の成人人口に占める肥満の割合は、男女とも3%で加盟33カ国中、最も低かったと新聞に載っていました。ちなみに、加盟国の平均は女性17%、男性16%で、米国にいたっては女性36%、男性は32%の人が肥満だそうです。


遺伝の影響は約30%

白澤 まさに肥満大国アメリカ。約3人に1人以上が肥満ということになりますね。山田 いつでしたか新聞にハンガリー政府が肥満防止のため、スナック菓子や清涼飲料水など糖分や塩分の高い商品に課税し、デンマークもバターやチーズなどを対象に「脂肪税」を導入する、との記事が出ていました。今や肥満対策は世界的にも待ったなしの緊急課題です。肥満は食生活や運動などの生活習慣が大きく影響しているといわれますが、肥満家系などの遺伝的な影響はないのでしょうか。

白澤 よく「私が肥満なのは、家系だから」などと言う人がいますよね。でも、肥満に占める遺伝の影響の割合は約30%で、残りの約70%は食生活や運動などの環境的な要因によるものといわれています。たとえば、アメリカ大陸の先住民、ピマインディアンとタラフマラインディアンの生活様式をもとに、環境が肥満に及ぼす影響を調べた興味深い研究があります。どちらの先住民も、20世紀初頭まで野外生活を送り、それまで肥満や高血圧症、糖尿病、脂質異常症などを発症する人は、ほとんどいなかったそうです。
 ところが、ピマインディアンは、政府が用意した住宅で生活し、ハンバーガーなどのファストフードを食べるようになってから肥満の人が増え始め、今ではその中の多くの人たちが極度の肥満を伴うメタボリックシンドロームであるといわれています。もともと彼らは、太りやすい遺伝子を持ってはいたものの、野外生活をしていた時は、それほど太ってはいなかったようです。


看過できないメタボ  

山田 結局、私たちと同じモンゴロイドである先住民が持っていた「倹約遺伝子」による遺伝的要因に加え高脂肪、高カロリーの食生活が彼らをメタボにしてしまったのですね。

白澤 その通りです。一方、タラフマラインディアンは、野外で暮らす生活様式を変えようとはしませんでした。その結果、彼らは今も、スリムな体型を維持し、血圧、コレステロール、中性脂肪、脂肪摂取率のどの数値をとっても正常でした。この研究結果からいっても、私たちのライフスタイルが健康にいかに多くの影響を及ぼしているかがよくわかります。

山田 同じことはオーストラリアの先住民、アボリジニについてもいえますね。彼らの食事と健康に関する調査を行った知り合いの医学者から聞いた話では、アボリジニはもともと、メルボルン近くの海岸沿いで暮らし、移動しながら木の実を拾い、貝などを食べて生活していたそうです。
 ところが、18世紀以降、入植してきた欧米人に土地を奪われ、「保護」の名の下に居留地に押し込められ、小麦粉と砂糖、塩、ラードなどだけを与えられて生活するようになりました。現在は、都会で暮らしながらファストフードなどを食べている人が多く、当然健康状態はよくありません。40歳代では、3人のうち2人が高血圧症や糖尿病に悩まされ、平均寿命も白人より20歳近く短い、と聞きました。健康に与える食生活や生活様式の影響は本当に大きいですね。

白澤 今、話題になっているメタボリックシンドロームも、糖質や脂質、タンパク質が正常に代謝されない状態、つまり代謝異常によって内臓脂肪が蓄積され、生活習慣病や生命にかかわる重大な病気を引き起こすリスクのある疾患といえるでしょう。診断基準では、腹囲が男性85cm、女性90cm以上に加え、高血圧や高血糖、脂質異常のうち、2つ以上を併せ持っていたらメタボリックシンドロームと診断されます。

山田 この内臓脂肪型肥満こそ、高血圧や高血糖、脂質異常の共通の原因であり、諸悪の根源だったわけですね。食事や運動などでこの根源を断てば、こうした生活習慣病にならなくて済むのですが、市町村が運営する国民健康保険によるメタボ健診(特定健康診査)の受診率の低さからもわかるように、自分が「メタボ」とわかっていても、「たいしたことはない」と軽く考えている人が実に多いような気がします。

白澤 メタボを軽く考えているとしたら、それは大きな間違いです。「死の四重奏」と恐れられているように、内臓脂肪型肥満に糖尿病や高血圧症、脂質異常症が複数重なり合うと加速度的に動脈硬化が進行し、最終的には心筋梗塞や狭心症といった生命にかかわる動脈硬化性疾患を引き起こしかねないからです。


注目の超善玉物質

山田 こうした動脈硬化や生活習慣病の予防・改善に有効な物質として最近「アディポネクチン」が注目されていますが、この物質にはどんな働きがあるのですか。

白澤 アディポネクチンは、内臓脂肪から分泌される超善玉物質で、血管にできた動脈硬化を発見しては修復したり、ブドウ糖が筋肉や細胞内でエネルギー源として効率よく使われるようにするなどの働きを持っています。わかりやすくいえば、動脈硬化を抑制する作用や高血圧症、糖尿病などの予防・改善に大きな力を発揮する作用があるといえますね。
 ところが、内臓脂肪が過剰に増えると、アディポネクチンの分泌量が減り、ブドウ糖が効率よく利用できなくなって血糖値が上昇し、糖尿病のリスクが高まる可能性があります。また、すい臓から分泌されるインスリンの効き目が悪い状態、つまり「インスリン抵抗性」によって腎臓でのナトリウム(塩分)の排出機能が低下し、血圧が上昇することだってあります。

山田 せっかく、健康によいアディポネクチンを持っていても、肥満になってその力を十分に利用できなければ、実にもったいない話ですね。メタボは軽く考えないで、その怖さを知って適切に対処する必要がありそうですね。

白澤 メタボリックシンドロームは、「健康」という歯車を逆回転させるだけでなく、金銭面での負担も大きいですよ。ある調査によると、メタボの男性1人当たりの年間入院医療費は平均で36021円と、メタボでない人の1.3倍、外来医療費も約1.4倍かかるとのデータがあります。さらに、メタボの女性は、男性よりもっと医療費がかかっているようです。増える一方の国の医療費や患者さん個人の医療費を抑えるためにも、メタボリックシンドロームを予防することがいかに重要であるかがわかるでしょう。

減量は、じっくりと

山田 メタボの予防、その元凶である内臓脂肪型肥満を解消するには、簡単にいえば、摂取エネルギーを減らし、消費エネルギーを増やして体重を落とせばよいわけですが、減量に取り組む場合、どの程度の減量を目標にすればよいですか。

白澤 私は、肥満の患者さんには「生活習慣病の予防、改善のためには現在の体重の5%を減量の目標にしましょう」とアドバイスしています。たとえば、体重80kgの人なら、4kgの減量を目指すことになりますね。でも、いきなり4kgを減らすのは、健康上よくないので、1カ月に1kg前後を目安に4カ月から半年かけてじっくり減量するのがよいと思います。「1カ月に5、6kg痩せたい」というように減量の目標が高すぎると、途中で挫折したりして長続きしません。

山田 摂取カロリーを減らそうとするあまり、栄養素のバランスを崩してしまっては、元も子もありません。確実に達成できる目標を立て、減量効果を体感しながら、少しずつ減量していくのが長続きのコツなのですね。

白澤 そうです。結局、肥満を解消するには、それまでの食生活を改善し、運動を習慣化することです。ダイエットを継続するには、頑張りすぎはよくありません。減量に何回も失敗する典型的なタイプが、この「頑張りすぎの人たち」です。友だちとの飲み会で、つい飲みすぎたり、食べすぎたりしても、また明日から仕切り直せば、取り戻すこともできます。焦らずにじっくりと時間をかけて減量することですね。

* BMI(体格指数)=[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]

山田英生:元気を運ぶ血管を守る方法

2014-05-14 10:06:05 | 脂質異常症や心筋梗塞などのメカニズムとそ
大切な栄養や、明日への元気を運ぶ血管。

守ってくれるのは、あなた自身の食生活です。


コレステロールと脂質異常症

 食生活の洋風化とともに近年、急速に増えているのが脂質異常症(高脂血症)です。血液中の脂質であるコレステロールや中性脂肪が多すぎる病気で、放置すれば動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞などを発症するリスクのある怖い生活習慣病の一つです。その主な原因は、過食や脂肪の摂りすぎ、運動不足、喫煙などの乱れた生活習慣などにあるといわれています。加齢とも関係する脂質異常症を防ぐにはどうすればよいかー。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(54)と山田英生山田養蜂場代表(55)が脂質異常症や心筋梗塞などのメカニズムとその予防法などについて語り合いました。

増える脂質異常症

山田 職場の健康診断や人間ドックなどで、「コレステロールや中性脂肪の数値が高めです。注意してください」などと言われると、ドキッとしますね。自覚症状がないからといって、そのまま放置していると、動脈が硬くなって、血液の流れが悪くなる動脈硬化を引き起こしかねません。動脈硬化は、心筋梗塞や脳梗塞の原因にもなります。最近は、こうした脂質異常症の人が増えており、潜在患者も含めると、その数は2200万人にも上るといわれています(厚生労働省調査)。この病気は年を重ねるごとに増え、高齢者にとっては避けたい病気の一つでしょう。しかも、生命を脅かす心臓病や脳卒中につながる怖い病気であるのに、高血圧や糖尿病などと比べて軽視されがちです。脂質異常症とは、どんな病気ですか。

白澤 脂質異常症は、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール・以下LDL)や中性脂肪などの数値が高いと動脈硬化になりやすいことから、これまでは、「高脂血症」と呼ばれてきました。しかし、HDLコレステロール(善玉コレステロール・以下HDL)が低くても動脈硬化になりやすいため、2007年から病名が「脂質異常症」と改められたのです。この病気は、簡単に言えば血液中のコレステロールや中性脂肪の数値が基準よりも悪い状態のことをいいます。

山田 コレステロールといえば、「悪玉」「善玉」などと呼ばれ、まるで勧善懲悪の時代劇「水戸黄門」の登場人物を思わせるような印象がありますね。さしずめ、悪玉は悪事を企てる「悪代官」、善玉はこうした悪党どもを懲らしめる「黄門様」といったイメージでしょうか。

白澤 確かにコレステロールや中性脂肪には、「体によくないもの」「動脈硬化を引き起こす犯人」といった『悪者』のイメージがつきまとうのは否めません。その一方で、人間の体にとって、なくてはならない大切なものであり、私たちが毎日を健康に過ごすうえで重要な役割を担っています。

山田 たとえば、どんな役割があるのですか。

白澤 私たちの体は、約60兆個の細胞からできていますが、コレステロールはその細胞を包む「細胞膜」の構成成分の一つとなっています。また、心身の活力を高めてくれる「副腎皮質ホルモン」や生殖機能をつかさどる「性ホルモン」などの成分にもなっているほか、腸での脂肪の消化吸収を助ける「胆汁酸」を構成する素材としても欠かせません。


酸化LDLに注意を

山田 コレステロールは、私たちの健康を保つうえでとても重要な役割を担っているのですね。コレステロールには、「悪玉」と呼ばれる「LDL」と、善玉と呼ばれる「HDL」などがありますが、どのように違うのでしょうか。

白澤 LDLは、肝臓でつくられたコレステロールを全身の組織へ運ぶ役割を担っていますが、血液中に増えすぎると、動脈硬化の原因となることから「悪玉コレステロール」と呼ばれています。でも、LDL値が高いというだけで動脈硬化を発症するわけではありません。動脈硬化を起こす”犯人“は、活性酸素によって酸化された悪玉コレステロールなんです。つまり、血管壁の内側に入り込んだLDLが活性酸素によって酸化され、「酸化LDL」になると、免疫細胞の一種であるマクロファージがこれを「異物」とみなし、取り込もうとします。お腹がいっぱいになるほど酸化LDLを取り込んだマクロファージは死滅すると、血管壁の内部に付着し、その結果、血管が狭く硬くなり、血液が流れにくくなって、動脈硬化を引き起こすのです。LDLの酸化には、糖尿病や高血圧、喫煙なども影響してきます。

山田 なるほど、ここでも活性酸素が悪さをするのですね。

白澤 そうです。これに対し、HDLは、全身の組織から余分なコレステロールを回収し、肝臓に戻す働きをしているので、「善玉コレステロール」と呼ばれています。でも、HDLが不足するとコレステロールを十分回収できなくなり、動脈硬化の原因になりかねません。


貴重な”熱源“中性脂肪

山田 コレステロールは、多すぎてもよくないし、少なすぎてもダメ。結構複雑でわかりにくい成分ですね。では、中性脂肪には、どんな働きがあるのですか。
白澤 中性脂肪は、肝臓でつくられるほか、食事からも摂取され、体内に貯蔵される大事なエネルギー源といってもよいでしょう。血液を通じて全身の組織に運ばれ、使いきれずに余った分は、万が一に備えて皮下脂肪や内臓脂肪に蓄えられ、必要に応じて血液の中に供給され、使われています。

山田 中性脂肪というと、とかく「肥満の元凶」とか「ダイエットの天敵」といった「悪者」のイメージがつきまといますが、エネルギー源としての役割のほかにも、寒い冬に体を外気から守り、体温を一定に保つ”断熱材“としての効果や衝撃を受けた時の”クッション材“としての働きがある、と聞いたことがあります。

白澤 その通りです。でも、中性脂肪も増えすぎると、内臓脂肪が増加して肥満を招き、生活習慣病の原因にもなります。また、中性脂肪が多いと、HDLが減ってLDLが増え、動脈硬化を引き起こす原因にもなりますので、その摂りすぎには十分注意する必要がありますね。ちなみに、脂質異常症の診断基準では、LDLが1dL(デシリットル)当たり140mg以上を「高LDLコレステロール血症」、HDLが40mg未満の場合を「低HDLコレステロール血症」とし、中性脂肪は150mg以上を「高中性脂肪血症(高トリグリセライド血症)」と診断しています。

山田 動脈硬化を引き起こしやすいコレステロールは、どのようにしてできるのですか。

白澤 コレステロールが体内でつくられる経路は2つあります。ちょっと、専門的になりますが、一つは食事で摂る脂質や糖質に由来する「外因性代謝経路」、もう一つは肝臓でつくられる「内因性代謝経路」です。でも、体内のコレステロールの約3分の2は肝臓でつくられており、食事からつくられるコレステロールは、それほど多くはありません。それなら、「コレステロールや脂肪を多く含むものを食べても大丈夫か」と言えば、そうはなりません。やはり、コレステロールや脂肪を過剰に摂れば、動脈硬化を引き起こす原因になります。

山田 コレステロールの高い食品としては、鶏卵や肉の脂身、バターなどの乳製品がよく知られていますが、どれも日常の食生活では馴染みのあるものばかり。これらの食品が食べられなくなると、大好きな人には辛いですね。

白澤 コレステロールが多い食品だからといって、全く摂ってはダメというわけではありません。確かに普段コレステロールが高めの人は、コレステロールの高い食品はできるだけ控えたほうがよいでしょう。また、中性脂肪の高い人も砂糖などを減らすとともに、お酒も控えめにしたほうが無難かと思います。要は栄養バランスのよい食事をすると同時に、食物繊維やミネラルなどもしっかり摂ることですね。


怖い心臓病、脳卒中

山田 脂質異常症や高血圧、糖尿病などを治療もせずに放っておくと、動脈硬化を引き起こし、その先に待っているのが心臓病や脳卒中ですね。心臓病によって亡くなる人は年間約19万人、脳卒中によって亡くなる人は約12万人といわれ、がんに次いで死亡原因の2位、4位を占めています(厚生労働省 2011年人口動態統計)。最近は、治療技術の進歩もあって心筋梗塞や脳梗塞を発症しても助かる人が増えてきましたが、たとえ一命をとりとめても手足のマヒや言語障害などの後遺症が残る人も少なくありません。さらに、寝たきりや要介護の状態になる人も多いようですね。

白澤 心臓病の中で、代表的な疾患といえば、狭心症と心筋梗塞が挙げられます。心臓の筋肉(心筋)に血液と栄養素を送っているのは、「冠動脈」ですが、動脈硬化が進むと、動脈内側の空洞(内腔)が狭くなり、心筋への血液の供給量が少なくなってしまいます。つまり、血液の流れる血管というパイプが細くなって、狭心症や心筋梗塞を引き起こすのです。狭心症は、心筋が酸素不足の状態に陥って胸が締め付けられるような痛みを生じます。これに対し、心筋梗塞は動脈硬化によって冠動脈が詰まり、心筋への血流が途絶えてしまうのです。そうなると、激しい胸の痛みを伴う発作に襲われ、早急に適切な治療をしないと生命に危険が及びかねません。

塩分、砂糖は控えめに

山田 一方、脳卒中には血管が詰まって血液が流れなくなる脳梗塞、脳の血管が破れて出血する脳出血や、脳の周りの血管から出血するくも膜下出血などがありますが、こうした病気は突然死を引き起こす危険性もあるだけに十分な注意が必要ですね。

白澤 特に中高年に多いのが「脳梗塞」と「脳出血」ですね。脳梗塞には、動脈硬化によって脳の血管が狭くなったり、塞がって血液が流れなくなるものや、心臓でできた血栓(血液の塊)が血流に乗って脳の血管に流れ込んで詰まらせるものなどがあります。血管が詰まって血流が途絶えれば、その先に酸素や栄養が行き届かなくなり、その部分の脳神経が死んでしまいます。一方、高血圧によって脆くなった脳の血管が破れて出血するのが脳出血で、出血した血液の塊が神経細胞を圧迫して壊死させるのです。

山田 心臓病や脳卒中にならないようにするには、どうしたらよいのでしょうか。

白澤 いずれも動脈硬化が最大の要因です。動脈硬化の主な原因となる高血圧症や糖尿病、脂質異常症、肥満などの生活習慣病を予防し、取り除くことが一番です。それには、栄養バランスのとれた食事を心がけるとともに、過食や塩分、砂糖、脂肪などの摂取をできるだけ控え、適度な運動や禁煙など生活習慣の改善に取り組み、肥満を避けることが重要でしょう。