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山田英生:ブラジル産プロポリスに脂肪肝予防効果の可能性

2014-05-19 14:25:09 | 脂肪肝予防
山田英生:みつばち研究成果発表

山田養蜂場 みつばち研究助成基金※1 学会発表


ブラジル産プロポリスに脂肪肝予防効果の可能性

株式会社 山田養蜂場(本社:岡山県苫田郡鏡野町、代表・山田英生)「みつばち研究助成基金」
採択者である小川(おがわ) 智(とも)弘(ひろ) 助教(近畿大学工学部)は、助成研究の結果「脂肪肝や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に対するプロポリス※2の予防効果の可能性があること」を明らかにしました。本研究では、プロポリスの継続摂取は、肝臓の脂肪化や線維化※3を抑制し肝臓を保護する可能性が示唆されました。

また、この結果は、2013年12月6日(金)に行われた第40回日本肝臓学会西部会(於岐阜都ホテル)にて、発表されました。

【発表概要】

■演題:プロポリスの脂肪肝や非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に対する予防及び
治療効果の検討(小川 智弘/近畿大学工学部教育推進センター 助教)

■成果:マウスに8週間NASH病態(肝臓の脂肪化、炎症、線維化)を引き起こす飼料を与えながら、プロポリスを与えたところ、肝臓の組織障害を調べるために使われるALT※4値の上昇が有意に抑えられ)、また、肝臓の小脂肪滴※5が減少しました。さらに、脂質代謝に関連する遺伝子の発現が正常化され、脂肪酸の生合成抑制や、細胞中の脂肪酸含量の減少に繋がり、プロポリスによって肝臓の脂肪化が抑制されていることがわかりました。

細胞培養試験では肝臓の線維化を引き起こすヒト活性化星細胞※6の増殖や、線維化関連遺伝子の発現も有意に抑制し、プロポリスが肝線維化も予防する可能性が明らかとなりました。
これらのことから、プロポリスは脂肪化や線維化から肝臓を保護し、脂肪肝に対する予防効果があることが期待されます。

【小川 智弘先生のコメント】

自然食品の肝障害の予防や治療への可能性を明らかにすることを目的として研究を進めています。プロポリスは様々な肝障害モデルに対して肝障害抑制効果があることが報告されてきましたが、本研究により、脂肪肝やNASHに対してもプロポリスの予防効果が示されました。

今後は詳細なメカニズムを解析し、プロポリスの効果を示すことで、ヒトにおける肝臓の脂肪化や線維化の予防に応用できればと思います。

【背景】
肥満は高血圧、糖尿病、動脈硬化、肝障害の引き金になるとされています。特に肝臓の脂肪化や線維化により肝臓の機能が正常に働かなくなる肝障害は、自覚症状がないことが多く、肝臓の脂肪化や線維化が進むと肝炎・肝硬変・肝臓がんに進行する恐れがあり、予防や早期の治療が大切です。肥満による肝障害の一つに、非アルコール性脂肪性肝炎(Non-alcoholic steatohepatitis:NASH)があります。

NASHは、アルコール非摂取者に起こる肝炎で、肥満、糖尿病、長期静脈栄養などによる過剰栄養が原因と考えられています。国内患者数は約100-200万人とされ、今後も患者数の増加が予想されています。
しかし、その発症機序や有効な治療法は未だ見出されていません。インスリン抵抗性改善薬の一つであるピオグリダゾンが、糖尿病を合併したNASH患者に改善効果をもたらしたとの報告もありましたが、この薬はアメリカ食品医薬品局(FDA)により、服用による膀胱がんの危険性が示唆されました。

このように一旦発症してしまうと、薬剤の副作用も考慮しなければならないため、予防することが大切です。ミツバチ産品の様な自然食品がNASHの予防に有効であることが明らかとなれば、副作用も少なく安心して食生活に取り入れることができるでしょう。

そこで、抗腫瘍や抗菌、抗炎症、免疫力強化などの多様な効果が報告されているプロポリスが、NASHと類似した肝病態を示すモデルマウスに対してどのような効果を示すかを調べました。

【試験方法】

◆モデルマウスを用いたNASH予防効果の検証
方法:NASHモデルマウスにプロポリス100 mg/kg、300 mg/kgの用量で8週間投与しました。

 肝障害の程度を調べるために血清ALT値を測定しました。

 肝臓に蓄積した脂肪量を評価するためにHE染色※7を行いました。

 肝臓の脂質代謝や線維化を調べるために各関連遺伝子の発現量を比較しました。

◆培養細胞を用いた線維化への影響の検証
方法:ヒト活性化星細胞にプロポリス0-0.1 mg/kgを添加しました。

 線維化への影響を調べるために、線維化をもたらす星細胞の増殖への影響を調べました。

 線維化への影響を調べるために、各関連遺伝子の発現量を比較しました。

【結果】
 ◆モデルマウスを用いたNASH予防効果の検証

プロポリス非投与のNASHモデルマウス群では肝臓の組織障害を調べるために使われるALTの値が103.7±42.2 U/Lに上昇したのに対して、プロポリスを100 mg/kgおよび300 mg/kgの濃度で投与したマウス群では、ALT値がそれぞれ57.8±66.1 U/Lと23.6±10.2 U/Lに有意に抑えられました。

HE染色による病理診断の結果、NASHモデルマウスに対してプロポリスの投与による肝臓の小脂肪滴が減少し、脂肪化抑制効果が示されました。

肝臓の脂質代謝に関連する遺伝子の発現がプロポリスの投与(300 mg/kg)によって正常状態にまで改善しました。


◆培養細胞を用いた線維化への影響

プロポリスを0.1 mg/mlの濃度で培養ヒト活性化星細胞に添加したところ、細胞の増殖が抑制され、細胞死を誘発しました。

線維化関連遺伝子の発現もプロポリスの添加により抑制されました。

【まとめ】
 プロポリスの継続的な摂取は、脂肪化や線維化から肝臓を保護し、脂肪肝や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を予防する可能性があることが示唆されました。脂肪化や線維化により引き起こされる肝硬変や肝臓がんへの予防にも繋がることが期待されます。

≪用語説明≫
※1 みつばち研究助成基金…2008年山田養蜂場創業60周年を機に設立した基金。ミツバチ産品(ローヤルゼリー、プロポリス、蜂蜜、花粉荷、ミツロウ、蜂の子、蜂毒など)や世界の機能性素材の新たな可能性を求め、「予防医学」や「ミツバチ・養蜂」に関する研究の支援を目的とし、2013年度公募で第6回目となる。

※2 プロポリス…ミツバチが採集した植物の新芽や樹皮などに、ミツバチ自身の分泌物などを混合して作る暗緑色から暗褐色の樹脂状の天然物質。産地によって起源となる植物や有用成分が異なる。ブラジル産プロポリスは、アルテピリンCなどの桂皮酸誘導体を豊富に含有し、抗炎症作用、抗ウイルス作用、抗酸化作用、抗アレルギー作用および抗腫瘍作用などを示すことが報告されている。

※3 線維化…細胞で過剰にコラーゲンが産生され、硬化した状態。
※4-ケトグルタル酸に相互変換する酵素。人体のほとんどの組織に含まれているが、なかでも肝細胞への分布が圧倒的に多く、肝細胞の破壊あるいは細胞膜の透過性亢進の際に血中濃度が上昇する。 ALT…アラニンアミノ基転移酵素とも呼ばれ、ピルビン酸とグルタミン酸をアラニンと

※5 脂肪滴…細胞内に蓄積された脂肪の塊。ほぼすべての細胞中に存在する。

※6 星細胞…肝臓のビタミンA貯蔵細胞。正常時と炎症時で性質が異なる。肝星細胞の機能の一つはビタミンAの貯蔵で、体内のビタミンAの80%が脂肪滴に貯蔵されている。もう一つの機能は肝障害時に線維化を引き起こす。コラーゲン線維を産生することで、肝炎が慢性化すると、肝星細胞が活性化して貯蔵ビタミンAが放出され、過剰のコラーゲン線維を造るようになり、肝障害による壊死局所において線維化を引き起こす。
※7 HE染色…ヘマトキシリン・エオシン染色の略語で、組織学において組織薄片の観察に使われる染色法。ヘマトキシリンは青紫色の色素であり、細胞核、骨組織、軟骨組織の一部、漿液成分が染まる。エオシンは赤~ピンクの色素であり、細胞質、軟部組織の結合組織、赤血球、線維素、内分泌顆粒が染まる。脂肪滴はHE染色で染まらず白くなる。


山田英生:レスべロール素材「メリンジョ」の 動脈硬化予防効果に期待

2014-05-19 14:12:00 | 動脈硬化予防
山田英生:山田養蜂場 研究成果を学会発表

レスべロール素材「メリンジョ」の

動脈硬化予防効果に期待

―インドネシアの105人分の尿を解析―


株式会社 山田養蜂場(本社:岡山県苫田郡鏡野町、代表:山田英生)は、インドネシア原産のメリンジョ※1)に豊富に含まれるポリフェノール類「レスベラトロール」に着目した研究に取り組んでいます。このたび、武庫川女子大学 国際健康開発研究所の家(や)森(もり) 幸男(ゆきお)所長および森(もり) 真(ま)理(り)講師との共同研究により、メリンジョ由来のレスベラトロール摂取量と健康状態との関連を科学的に検証することができるようになり、レスベラトロールを豊富に含むメリンジョの摂取によって動脈硬化が予防された可能性があることが示されました。メリンジョ摂取量は、尿中に排泄されたトランス-レスベラトロールおよびイソラポンチゲニン※2)の量を測定することによって、推定しました。今後、この方法を生かして、メリンジョ由来レスベラトロールの健康効果の検証を続けていきます。

この成果は、第49回日本循環器病予防学会※3)(2013年6月14日, 15日、金沢、来場者約230名)で口頭発表されました。


◆演題: メリンジョの有用性と尿中バイオマーカー

◆発表者(○演者): ○森 朱美1,2, 森 真理2, 谷 央子1, 木村 友香1, 橋本 健1, 立藤 智基1,2, 家森 幸男2
1 株式会社山田養蜂場本社 みつばち健康科学研究所, 2 武庫川女子大学 国際健康開発研究所

◆要旨
尿中に排泄されたトランス-レスベラトロールおよびイソラポンチゲニン※2)の量から、メリンジョの摂取量を推定できることを明らかにしました。

インドネシアの村人105人から得た尿の分析結果とメリンジョ摂取頻度調査結果の相関関係を解析し、尿中からトランス-レスベラトロールまたはイソラポンチゲニンが検出された人は、メリンジョの種子を潰して油で揚げた「ウンピン」というチップスを多く食べていることを明らかにしました。

尿中からトランス-レスベラトロールが検出された人のうち、50歳未満では総コレステロールと動脈硬化指数が低値の傾向を示しました。一方、50歳以上では高値の傾向を示し、調理で用いた油が、メリンジョの効果を打ち消した可能性が示唆されました。

◆まとめ

 本研究によって、メリンジョ由来のレスベラトロール摂取量と健康状態との関連を科学的に検証できるようになり、メリンジョの摂取によって動脈硬化が予防された可能性があることが明らかとなりました。また、効果を発揮するためには、調理法も重要であることが示唆されました。
今後、新しい解析方法を活用してメリンジョ由来レスベラトロール類摂取の有効性をより明らかにし、健康の維持・
増進に最大限に役立てられる調理法や摂取法についての研究を進めていきます。

<本リリースに関するお問い合わせ>
株式会社山田養蜂場  文化広報室  関、寺田 〒708-0393  岡山県苫田郡鏡野町市場194
TEL:0868-54-1906 (月~金 9:00~17:30、土日祝除く) /
FAX:0868-54-3346 /
ホームページ:http://www.3838.com
つばち健康科学研究所ホームページ:http://www.bee-lab.jp / 
公式ツイッター:@yamadabeelab

 参考資料

◆背景と目的
メリンジョはインドネシア原産の植物で、スープの具として、また、種子を潰して油で揚げた「ウンピン」というチップスとして古くから食されてきました。レスベラトロールをはじめとしたポリフェノール類を豊富に含むことから、近年、健康効果に関する研究も進められており、2008年に武庫川女子大学の家森幸男教授がインドネシアのマジャレンカ村で実施した調査でも、メリンジョを多く食べる人は血圧が低いとの結果が得られています※4)。しかしこれは食物摂取頻度調査票(FFQ)への回答をもとに比較した結果であり、本人の記憶に依存して過大・過小評価される可能性があることから、メリンジョの摂取量を客観的に推定する方法が求められていました。
そこで今回の研究では、尿中に排泄されるメリンジョの成分のうち、トランス-レスベラトロールとイソラポンチゲニンに注目し、尿中の各成分の量がメリンジョの摂取量を反映するか、また、健康状態を示す数値(動脈硬化指数など)と相関するかを検証しました。これらに相関があれば、尿中の各成分の量からメリンジョの摂取量を推定でき、メリンジョの健康効果を、確かな数値を用いて探ることができます。

◆試験① 尿中のトランス-レスベラトロールおよびイソラポンチゲニンの量から、メリンジョの摂取量が推定できる
健康な成人10人を5人ずつ2グループに分け、一方にメリンジョエキス粉末を1 g、もう一方に5 g摂取してもらいました。そして、摂取から24時間後までの尿を集めて、尿中に排泄されたトランス-レスベラトロールとイソラポンチゲニンの量を測定しました。その結果、メリンジョエキス粉末の摂取量が多い方が、尿中のトランス-レスベラトロールおよびイソラポンチゲニンの量が多くなることが示され、尿中のトランス-レスベラトロールおよびイソラポンチゲニンの量を測定することで、メリンジョの摂取量が推定できることが分かりました。トランス-レスベラトロールは、ワインやブドウなどメリンジョ以外の食品からも容易に摂取できるため、これらを摂取する地域でメリンジョ摂取量を調査する際にはイソラポンチゲニンを指標とすることが望ましいと考えられます。

◆試験② 尿中からトランス-レスベラトロールやイソラポンチゲニンが検出された人は、「ウンピン」を多く食べている
 2008年にインドネシアのマジャレンカ村で採取した105人分の24時間尿※5)におけるトランス-レスベラトロールおよびイソラポンチゲニンの量を測定し、採尿と併せて行なった食習慣の調査結果との相関を調べました。その結果、尿中からトランス-レスベラトロールまたはイソラポンチゲニンが検出された人は、ウンピンを多く食べていることが分かりました。メリンジョスープの摂取量は、尿中のトランス-レスベラトロールおよびイソラポンチゲニンの量には関係しませんでした。調理法によって、成分の含有量や体内への吸収のされ方が異なると考えられます。

◆試験③ メリンジョの摂取量と、総コレステロールおよび動脈硬化指数との関係
メリンジョの摂取量と健康状態との関連を調べるため、試験②で測定した尿中のトランスレスベラトロールおよびイソラポンチゲニンの量を、採尿と併せて行なった健康診断の結果とともに解析しました。その結果、尿中からトランス-レスベラトロールが検出された人のうち、50歳未満では総コレステロールと動脈硬化指数が低値の傾向を示す一方で、50歳以上では高値の傾向を示すことが明らかとなりました。年齢や摂取期間による動脈硬化指数の差は、調理法によってメリンジョの効能が異なる可能性が示唆されました。

◆まとめ
本研究によって、メリンジョの摂取量と健康状態との関連を科学的に検証できるようになり、メリンジョの摂取によって動脈硬化が予防できる可能性があることが明らかとなりました。また、摂取する人の年齢や摂取期間による効果の差は、調理法によって、メリンジョの効能が異なる可能性も示唆されました。
今後、新しい解析方法を活用してメリンジョ摂取の有効性をより明らかにし、健康の維持・増進に最大限に役立てられる調理法や摂取法の提案できるよう検討していきます。

◆解説
※1)メリンジョ・・・インドネシア原産のグネツム科植物の一種。インドネシアでは古くから栽培され、種子や葉、花が食糧として利用されている。特にドングリ大ほどの種子は栄養価が高く、炭水化物、タンパク質、レスベラトロール類(グネチンC、グネモノシドA、グネモノシドD、トランス-レスベラトロール、イソラポンチゲニンなど)を豊富に含む。有効性として、肥満予防作用、血管老化抑制作用、抗酸化作用、抗炎症作用、抗菌作用などが報告されている。

※2)イソラポンチゲニン…レスベラトロールのひとつで、メリンジョの他にも、一部の漢方薬や、南アメリカの北部に分布するヤシ(オビレハリクジャクヤシ)の種に含まれる。

※3)日本循環器病予防学会・・・国民の健康増進に寄与するため、循環器疾患の疫学・管理・予防に関する研究と応用発展を目指し、昭和41年に発足した、(社)日本循環器管理研究協議会が主催する学術集会。医師だけでなく、臨床と公衆衛生関係者が同じ目的のために集う(詳細は、日本循環器管理研究協議会ホームページをご参照ください:http://www.jacd.info/)。

※4)2008年11月に開催された”The 4th International Niigata Symposium on Diet and Health Integrative functions of diet in anti-aging and cancer prevention”にて森真理講師らが発表した。

※5)24時間尿・・・まる一日、24時間に排泄された尿を集めたもの。今回の試験では家森幸男所長が考案した「ユリカップ」という部分採尿カップを用い、ワンタッチで1回の尿の2.5%が溜められる簡便な方法で採取した。

山田英生:幸福に満ちた人生100年を

2014-05-16 09:34:34 | 高齢社会
自立と前向きな生き方で、

幸福に満ちた人生100年を。

豊かな老後を目指して

 医療の進歩で平均寿命が延び、「人生100年時代」が近づいてきました。今、健康長寿を謳歌する人がいる一方で、寝たきりにつながりやすい認知症や骨粗しょう症、がんなどに罹る人が増えています。たった一度の人生であれば、「自分らしく健康で幸せに生きたい」というのが、多くの人の願いでしょう。それには、食生活や運動を中心とした正しい生活習慣の積み重ねと心の健康が欠かせません。「健康長寿を目指す生き方」をテーマに、寿命、老化研究の第一人者で順天堂大学大学院教授の白澤卓二教授(55)と予防医学に基づく心身の健康を企業理念に掲げる山田養蜂場山田英生代表(56)の長期連載対談も、今回が最終回。老化は誰しも避けられませんが、健康への日ごろの取り組みで、豊かな老後を実現したいものです。

百寿者に学ぶ生き方

山田 日本人の平均寿命が延び、100歳を超える人は、ついに5万人を突破しました。今後、100歳を超える人がさらに増えるのは確実で、2050年には約70万人に達する、との予測もあります。今後の医療技術の進歩を考えると、「人生100年時代」は、必ずしも夢ではなくなりました。
白澤  「人生50年」といわれた約60年前から比べると、今は女性が86.41歳、男性が79.94歳と日本人の平均寿命は、約30年延びました。デンマークの研究では、「日本など平均寿命の高い国の2000年以降に生まれた新生児の多くは、100歳の誕生日を祝えるだろう」と予測しています。さらに、自分はどんな病気に罹りやすく、どうすれば予防できるかを遺伝情報から摑める時代も目前に迫っています。また、人類がアルツハイマー病を克服できる日もそう遠くはないでしょう。100歳へのハードルはどんどん低くなっていますね。

山田 日本では100歳以上の人を「百寿者」、外国では「センテナリアン」とも呼んでいます。最近の研究などによれば、百寿者には必ずしも長寿家系の人や遺伝的に恵まれた人だけがなれるのではなく、心身ともに弱い人、大病を経験した人でも日々の努力しだいでなれると聞きました。こうした人生の先輩たちの生き方は、後に続く私たちにとっても大変参考になり、そのライフスタイルから学ぶべき点もたくさんありそうです。先生はこれまで、老化・寿命などの研究を通じて多くの百寿者の方に会っていらっしゃいますが、皆さんに共通する特徴はありましたか。

白澤 百寿者を対象にした調査では、男性は「ひょうひょうとマイペースで生きていく人」「凝り性でとことん追求する人」、女性では「一家の中心として家族や周りの人のことを常に思いやり、一生懸命に世話をする人」という結果でした。さらに、男女に共通していたのが「依存心がなく、人生を肯定的にとらえている人が多い」という点ですね。私の印象も、この調査とほぼ同じような内容でした。些細なことでクヨクヨしたり、思い悩まず常に前向きな人が多かったように思います。また、一生を通じて太っている人は少なく、動きは実にしなやかで、軽々とされていました。というのも、食事は1日3回しっかり摂り、バランスのとれた食生活を心掛けるなど生活習慣がきちんとされているからでしょう。高齢になっても仕事を続けるなど実に体をよく動かしています。その結果として健康長寿を謳歌されているように思いますね。


人生はQOLが大切

山田 その一方で、健康長寿を妨げるがんや心臓病、脳卒中をはじめ、寝たきりにつながりやすい認知症や骨粗しょう症などのほか、糖尿病などの生活習慣病も増えています。せっかく、長生きしても認知症になったり、寝たきりになっては、QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)が保てません。たった一度の人生であれば、健康で幸せに生きたいものです。

白澤 人生は、寿命の長さではなく、QOLが大切ですね。その人がいかに人間らしく、自分らしい、幸福な生活を送れるかが、その尺度になるでしょう。たとえば、心身の健康、生きがい、良好な人間関係などですね。特に健康は、人間が幸福な人生を送るうえで、もっとも基本的な条件といってもよいでしょう。高齢期になれば、筋力の低下や関節の変形、免疫機能などの低下は避けられません。また、認知症につながりやすい認知機能の低下や、うつになりやすい心の老化が現れる場合もあるでしょう。そうした病気にならないためには、日ごろからの健康への取り組みが重要になってきます。90歳、100歳と単に寿命を延ばすだけでは、幸せな長寿とはいえません。健康で自立した人生が送れるかが重要になってきます。

山田 いつまでも前向きにポジティブに生きたいものですね。先生は、老化のスピードをスローダウンさせ、高齢期のQOLを保つ加齢制御的なアンチエイジングの研究を進めておられますが、そこでカギとなるキーワードは何ですか。

白澤 これからのアンチエイジングを考えた時、「食事」「運動」「メンタルケア」の3つが重要なカギになると思いますね。食べたいものがあふれている飽食の時代にあって、食事のカロリーを制限し、食べたい気持ちを抑える強い意志が必要です。車や家電製品の普及で運動不足に陥った現代人には、適度な運動が欠かせません。さらに、ストレス過剰の社会にあって、ストレスに負けない前向きな考え方ができるようにコントロールすることも重要でしょう。この3つはどれも大切で、どれか1つ欠けても老化を遅らせ、長生きすることはできません。


治療中心の医療現場 

山田 糖尿病やメタボリックシンドロームなどの生活習慣病はもちろん、がんやアルツハイマー型認知症も、食事や運動などによってある程度は、予防できることが最近の研究でわかってきたそうですね。今、医師による薬物投与や手術よりも自然治癒の力を利用することで免疫力を高め、病気にならない体をつくる予防医学が世界的に注目されています。一つは高齢化に伴って医療費が急激に膨張していること、もう一つは、今の西洋医学の力をもってしても治せない複雑な病気が増えていることが背景にある、と聞きました。しかしながら医療現場では、いまだに治療中心の医療が行われ、予防医学が抜け落ちているように思えてならないのです。

白澤 そもそも、日本には予防医学のインフラがありません。だから、非常にやりづらいのです。今の外来患者担当の医師は予防のための医療をほとんどやっていませんし、やろうとするモチベーションも低いのではないでしょうか。診療報酬の保険点数がつかないため、そのためのトレーニングがされていないのです。大学医学部の教育でも、教えているのは、西洋医学に基づく治療医学で、予防医学の教育と実践指導はほとんど行われていないのが現状です。
山田 確かに、西洋医学による治療は、感染症や臓器移植などに大きな力を発揮してきました。しかし、その先端技術をもってしても人体の精巧なメカニズムの一部しかまだ解明できていないと思います。特に人間の体や健康をトータルに診るという点で、どうでしょうか。生活習慣病や加齢に伴って起きる更年期障害や老化などは治療中心、対処療法中心の西洋医学で対応するのは、向いていない、と指摘する専門家もいます。増え続ける認知症や生活習慣病、がんなどは一度罹ると、完治しにくいケースも多く、それなら病気にならないよう予防するのが一番ではないでしょうか。今後、ますます、予防医学は重要になってくると思われます。先生も健康長寿や老化防止などいろいろ研究されていますが、具体的にどんな研究をされていますか。


認知症 克服の日も

白澤 一つは、前月号でお話ししたテロメアの研究ですね。染色体の末端にキャップのようにくっついていて、DNAを守る役目を果たしている構造体ですが、このテロメアは、若い人ほど長く、加齢とともに短くなる特徴があります。だから、採血してみて、テロメアが短かったら、一般的に「長生きできない」ということになりますね。テロメアが「寿命のバイオマーカー」ともいわれる所以ですが、それならテロメアの長さを検査し、長寿の可能性が高いか、低いかを調べたらどうでしょう。もし低かったら、自分の生活習慣の悪い点を改善していく必要が出てきます。まだ、研究段階ですが、私はこの検査を、国民レベルでできるようにしたいと考えています。これが可能となれば、予防医学の新しい道が開けてくるでしょう。
山田 そうなるよう期待しています。

白澤 アルツハイマー型認知症を例にとっても、残念ながらこの病気を治す治療法は、いまだに確立されていないのが現状です。しかし、食事や運動などで、ある程度は予防できることが最近の実験などからわかってきました。予防できれば、発症しなくなるので治療の必要はなくなります。私は「予防医学でアルツハイマー型認知症は解決できる」と考えています。あと何年かすれば「アルツハイマー病は生活習慣病だ」といわれる日が確実に来るでしょう。生活習慣病であれば、食事や運動などの生活習慣を見直せば、防ぐことも可能になります。アルツハイマー型認知症を予防することで、人類はこの病気を克服できるのではないでしょうか。


健康は自己責任

山田 生活習慣病の原因の多くは、食生活の乱れや運動不足、喫煙、ストレスなど間違った生活習慣にある、といってもよいかも知れません。先生がおっしゃるように、食事なら腹七分目、3食きっちりと規則正しく食べ、栄養をバランスよく摂る。適度な運動と十分な睡眠をとり、タバコを止める。そうすれば病気の多くは予防が可能になるでしょうね。

白澤 そう思いますね。特に高齢期では、年齢によって罹る病気が変わってきます。介護が必要になった原因として、65歳~74歳までの前期高齢者では脳卒中などの「脳血管疾患」が最も多いのに対し、75歳以上の後期高齢者では「転倒・骨折」や「高齢による衰弱」「認知症」などが増えてきます。こうした病気は、寝たきりの原因にもなりやすいので注意が必要ですが、予防も十分可能です。それと大事なのは心の持ち方ですね。「もうトシだから」とあきらめずに、何ごとにも積極的にチャレンジしていただきたいですね。

山田 私たちの暮らしが豊かになり、平均寿命が延びた今、「いつまでも健康で若々しくいたい」「自分らしく長生きしたい」と誰しもが願っています。健康や病気は、病院や医師にすべてを任せる時代ではなく、自分で管理する自己責任の時代といってもよいでしょう。

白澤 生き生きした豊かな老後を送るためには、若い頃からの日々の正しい生活習慣の積み重ね、毎日の健康長寿への取り組みが重要になってきます。一緒にサクセスフルエイジング(豊かな老後)を目指そうではありませんか。

(おわり)

ご愛読ありがとうございました。

山田英生:長寿遺伝子の秘密、人間の寿命

2014-05-16 09:26:15 | 不老長寿
「不老長寿」の扉を開くカギは、

腹七分目、ほどよい運動。


長寿遺伝子とテロメア

 「いつまでも歳をとらずに、長生きしたい」―。そんな不老長寿への夢が、必ずしも夢ではなくなってきました。最近の研究で、老化を遅らせ、寿命を延ばす「長寿遺伝子」の存在が明らかになったためです。この遺伝子は誰もが持っており、上手に働かせれば寿命が延びる可能性も秘めています。この遺伝子のスイッチをオンにするには、私たちの生き方が重要なカギを握っているといっても過言ではありません。延び続ける人間の寿命。最新の生命科学への期待は高まるばかりです。老化と長寿研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(55)と山田英生山田養蜂場代表(56)が、長寿遺伝子の秘密や人間の寿命などについて語り合いました。

夢でない不老長寿

山田 最近、テレビや新聞、雑誌などで「長寿遺伝子」が話題になっていますが、この遺伝子は、どんなもので、どんな働きをしていますか。

白澤  長寿遺伝子とは、一言でいうと、「操作をすれば、老化を遅らせ、寿命を延ばす遺伝子のこと」です。人の細胞の中には、老化や寿命をつかさどる長寿遺伝子が50個から100個ぐらいはあるといわれています。この長寿遺伝子は、普段は眠っていて働いていませんが、そのスイッチをオンにすると、老化のスピードが緩やかになり、寿命を延ばす働きがあります。

山田 長寿遺伝子は、人間なら誰でも持っているのでしょうか。

白澤  皆、持っています。人間だけでなく、酵母菌、ハエ、サルなど地球上のほとんどの生物が持っているといってもよいでしょう。長寿遺伝子の研究は以前から行われていましたが、今テレビなどで取り上げられ、話題になっているのが「サーチュイン(Sirtuin)遺伝子」です。この遺伝子の中で、最初に発見されたのが、「サーツー(Sir2)」と呼ばれる遺伝子で、米国・マサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ教授が8年の歳月をかけて2003年に酵母菌の中から発見しました。Sirとは、「サイレント・インフォメーション・レギュレーター」の略で、「静かなる情報を規定するもの」という意味です。ガレンテ教授は、サーツー遺伝子を取り除くと、酵母が早死にし、逆に増やすと長生きすることを解明しました。

山田 ガレンテ教授の動物を使った実験では、遺伝子操作によって実際、どのくらい寿命が延びたのですか。


老化の進行にも関与

白澤 ショウジョウバエで約30%、線虫では約50%寿命が延びました。さらに、ガレンテ教授は、マウスにも、人の体の中にもサーチュイン遺伝子があることを発見しています。この遺伝子は、寿命だけでなく、老化の進行にも関与していることがわかっています。老化をもたらす要因としては「活性酸素による酸化ストレス」や「免疫細胞の暴走」などが考えられますが、サーチュイン遺伝子が活性化すれば、こうした老化の要因を抑え、進行を遅らせることができるようになります。

山田 老化は、人間が生きている限り避けられませんが、サーチュイン遺伝子によって進行を遅らせ、長生きにつながれば、これほど画期的なことはないでしょう。

白澤 サーチュイン遺伝子には、3つの特徴があります。1つ目は「暖かい環境では活動しない」、2つ目は「取り除くと早く死に、増やすと長生きする」。そして3つ目は、「活性化しないと効果がない」というものです。特に、寿命を延ばすためには、活性化、つまりサーチュイン遺伝子のスイッチをオンにしてやることが必要になりますね。

山田 サーチュイン遺伝子は、普段はスイッチオフの状態になっていますが、これをオンにするにはどうすればよろしいのですか。

白澤 カロリー制限、つまり摂取カロリーを減らすことですね。これによって長寿遺伝子は活性化します。以前、この対談でアカゲザルを使ってカロリー制限が寿命にどのような影響を与えるかを追跡調査した米国・ウィスコンシン大学の研究の話をしたことがあるかと思います。この調査では、エサを7割に制限したグループのほうが通常のエサを与えたグループより生存率が高く、毛並みにツヤがあり、全体的に若々しかった、との結果が出ました。この調査によって、カロリー制限をするだけでも寿命や見た目などに大きな影響が出ることがわかったのです。


カロリー制限でオン 

山田 寿命が延びたアカゲザルは、カロリー制限によって長寿遺伝子のスイッチがオンになった、ということですね。このようなケースは動物だけでなく、人間にも当てはまるでしょう。やはり、食事は「食べたいから」といって食べたい分だけ食べるのではなく、腹七分目か八分目に抑えておくことが大切ですね。

白澤 それと、赤ワインに含まれるポリフェノールの一種、「レスベラトロール」が長寿遺伝子を活性化させ、老化を防ぐ働きのあることもわかりました。実験を行ったのは、ハーバード大学准教授のデービッド・シンクレア博士。博士は、カロリー制限をしていないマウスにレスベラトロールを投与したところ、サーチュイン遺伝子が活性化され、寿命が延びたといいます。レスベラトロールは赤ワインの原料に使われるブドウの皮や種子のほか、最近では御社でも研究されているインドネシアの植物「メリンジョ」にも含まれていることがわかり、注目されています。

山田 肉などの動物性脂肪を多く摂っていながら、フランス人に心臓病が少ないのは赤ワインを通じてレスベラトロールを日常的に摂取しているから、といわれていますが。


テロメアは細胞寿命

白澤 そういわれていますね。これまでの実験結果などから、サーチュイン遺伝子がオンになると多くの老化要因を抑え、肌、血管、脳などが若く保たれ、寿命が延びると考えられています。メタボリックシンドロームなどの治療にも有効との指摘もあります。
 「テロメア」という言葉をお聞きになったことがあると思いますが、ギリシャ語で「末端の部分」を意味し、染色体の末端にキャップのようにくっついていて、DNAを守る役目を果たしています。今、医学や生命科学に携わる研究者らが健康長寿のカギを握るものとして、注目しているのがこのテロメアなんです。テロメアは赤ちゃんの時が最も長く、加齢とともに短くなっていきます。

山田 なぜ、テロメアが健康長寿と関係あるのですか。

白澤 ご存知のように、私たちの体は、細胞が分裂し、新しく生まれ変わることによって正常な機能を維持しています。しかし、細胞が分裂できる回数には限度があり、50回~70回くらい分裂すると、それ以上は分裂できなくなるといわれています。これは、テロメアがすり減っていくためで、細胞分裂を繰り返すたびにテロメアは短くなり、ある一定の長さまでいくと、細胞分裂ができなくなってしまいます。そんな性質から、テロメアは細胞の寿命を示す「寿命の回数券」とか「老化時計」などと呼ばれています。

山田 テロメアの回数券がなくなると、細胞が分裂できなくなり、若い細胞が生まれなくなってしまいますね。


見た目の若さも重要

白澤 これまでテロメアは、「すり減れば再生は不可能」と考えられてきました。しかし、最近の研究では、サーチュイン遺伝子にテロメアがすり減るのを抑える働きがあることがわかってきました。たとえば、顔の皮膚。テロメアの回数券を使いきってしまうと、老化がどんどん進み、顔にシワやタルミ、シミなどができて老け顔になってしまいます。ところが、サーチュイン遺伝子が働いて、テロメアがすり減るのを抑えれば細胞分裂も可能になり、見た目の若さをキープすることが可能になります。

山田 そうしますと、テロメアの長い人ほど若々しく、短い人ほど老けて見えるということでしょうか。

白澤 その通りです。見た目の年齢差は、そのまま内臓や血管などの年齢差でもあるからです。顔の老け具合を見れば、その人の寿命がわかります。その意味からも、テロメアは「寿命のバイオマーカー」といってもよいでしょう。テロメアの長さを検査し、長寿になれる可能性が高いか、低いかを調べ、もし低かったら、自分の生活習慣のどんな点が悪いのか、足りない部分は何なのかをつかみ、それに合わせて自分の生活習慣を変えていけばよいのです。

山田 では、テロメアが短い人というのは、どんな人ですか。

白澤 まず、肥満の人ですね。2005年にイギリスの医学雑誌「ランセット」に「テロメアは生活習慣によって変わる」という趣旨の論文が掲載されました。それによると、ロンドンに住む18歳~76歳の女性1,122人のテロメアを調べたところ、肥満の人はそうでない人に比べテロメアが8年分、短かったそうです。また、タバコを1日に1パック、10年間吸っている人は、吸わない人に比べ2年分もテロメアが短いことがわかりました。それと、運動不足ですね。運動していない人は、している人よりもテロメアが短いことが明らかになっています。

山田 であれば、肥満を解消し、タバコをやめ、運動を積極的に行うことによってテロメアの長さを保ち、いつまでも若々しく健康でいたいものです。

山田英生:生きがいと心の健康、老化に及ぼす影響

2014-05-16 09:13:07 | 高齢社会
生きがいとは「何かにときめくこと」。

心の若さが、身体の若さもつくります。


健康長寿とメンタルケア


 90歳、100歳になっても健康で生き生きと暮らすには、バランスのとれた食事や適度な運動、そして生きがいを持つことが大切といわれています。「年だから」などとあきらめず、いつまでも夢や希望を失わない心の健康が欠かせません。ストレスと上手に付き合いながら「生涯現役」の気概を持って前向きに仕事や趣味、ボランティア活動などにチャレンジすることが生きがいにもつながるでしょう。老化は単なる年齢の積み重ねではなく、心のあり方と生き方しだいで、その進行に大きく影響するといわれています。老化と寿命研究の第一人者で、順天堂大学大学院教授の白澤卓二さん(55)と山田英生山田養蜂場代表(55)が生きがいと心の健康、老化に及ぼす影響などについて語り合いました。

何事もプラス思考で

山田 現代社会は、ストレス社会ともいわれ、多くの人が心の病に悩んでいます。若者はもちろんのこと、高齢者も定年退職で肩書が外れ社会的役割を失ったことで生きがいをなくし、うつ病になる人が増えている、と聞きました。

白澤  特にストレスに弱い人ならば、退職で生活環境が変わったところへ家族や親しい友人らとの死別などの心理的ショックが重なれば、いつうつ病になっても不思議ではありません。

山田 逆に妻にしても、定年退職で家にいることが多い夫と毎日、顔を突き合わせ、3度の食事の準備もしなければならない人もいるでしょう。そんな夫の存在は、妻にとっては大変なストレスで、場合によっては心身に変調をきたす「主人在宅ストレス症候群」を発症するケースもあると聞きました。

白澤  症状が悪化すれば、うつ病になるリスクだって、ないとはいえません。そうならないためにも、何事にも前向きに取り組み、常に「ポジティブ・シンキング」を心がけることが必要でしょう。閉じこもりは、心の老化を進めるだけです。仕事を辞めて、家事は妻任せ、これといって趣味もなく、朝からパジャマ姿でテレビばかりを見ているような生活は、あまり感心できませんね。こんな生活を続けていたら、すぐに心身の機能が衰えてしまいます。

山田 頭や体を使わなければ、そうなりますよね。

白澤  健康な人でも一日じっと寝ていると、足の筋力が1週目で20%、2週目で40%、3週目で60%低下する、とのデータがあります。さらに、体中の関節がスムーズに動かなくなり、体を起こそうとすれば血圧が下がってめまいがする「起立性低血圧」になると、座ることや歩くこともできなくなります。もっと進めば、「廃用症候群」となり、骨が弱くなるだけでなく、心臓や肺の機能も低下し、抑うつなどの精神症状も出てきます。それを元の状態へ回復させるには、予想以上に時間がかかります。そのまま放っておけば、寝たきりになる恐れも出てきます。

山田 怖いですね。


長寿を呼ぶ心の健康

白澤 そうならないためにも、自分でできることは自分でやり、足や指、首など動かせるところはどんどん動かすことで機能が低下しないよう心がけることが大切ですね。年をとると、筋肉の量が減ったり、機能が低下する「サルコペニア」を発症するリスクが高くなります。この病気は寝たきりにもつながりやすいので、運動などを積極的に行うことで筋肉量を維持することが大切ですね。最近、山田さんのところで助成されている研究で、高齢マウスにローヤルゼリーを投与したら筋肉量が増えたそうですが、注目に値する研究成果ですね。

山田 まだ、マウス実験の段階ですが、将来人に対しても有用であることがわかれば、寝たきりのリスクを減らすことにもつながると思っています。「手は外部の脳である」という有名な格言があります。手にはたくさんの神経が集まっていて、指先を動かせば脳に刺激を与えることができるという意味ですね。脳を活性化するには、それくらい手を動かすことが大事だということでしょう。そういえば、手をよく使う彫刻家や画家には長生きの人が多いですね。旺盛な創作意欲が長寿パワーの源となっているのでしょうか。

白澤 それに加え、画家や彫刻家は日頃から描くテーマを持っていることが大きいですね。これは、生きがいでもあり、一生持ち続けることが長生きにつながります。また、読んだり、書いたり、考えたり、どんどん頭を使えば使うほど脳は活性化し、認知症予防にもつながります。

山田 よく100歳を超えたお年寄りが、テレビなどで長寿の秘訣を聞かれると「クヨクヨしないこと」と答えていますよね。

白澤 私がこれまでお会いしてきたお元気な百寿者の中には、クヨクヨと思い悩むような人は一人もいませんでしたね。戦争や災害、大病、肉親の死などたくさん辛い経験をされてこられたのに、誰一人として苦労話はしたがりません。むしろ、自分の成功談や自慢話をされる方が多く、自分の人生を肯定的にとらえておられます。

山田 こうした心の健康も、長寿には欠かせない要因ですね。


社会参加で生涯現役 

白澤 その通りです。特に仕事や、ボランティア活動は、人のため、社会のためにもなり、その人にとっても生きがいになるでしょう。百寿者の方を対象にしたいろんな調査を見ても70代まで仕事を続けた人が最も多く、100歳になっても畑仕事や店番など、できる範囲で仕事を続けている人が少なくありません。

山田 定年後の生きる目的を失った人や自分の居場所をなくした人は、まず仕事探しから始めてみるのもよいかも知れませんね。現役時代に比べれば、収入もささやかで、単純な仕事が多いかも知れません。それでも、働けば健康にもよいし、新しい仲間ができる可能性もあります。仕事を通じて社会に貢献できれば、それが生きがいにもつながるでしょう。

白澤 生きがいとは、「何かにときめくこと」でもあります。その点、趣味もときめきを与えてくれますね。趣味や習い事に没頭する、資格に挑戦する、韓流スターを追いかけるのも、心がときめくでしょう。趣味に没頭することは、脳に刺激を与え、脳の老化を防いでくれます。実際、趣味や目標のある人は、ない人に比べ脳に新しい神経細胞が5倍も多くつくられる、というデータがあります。どんなにささやかなことでも心から楽しめば、心はいつでも若々しくいられるでしょう。

山田 新聞で「趣味のある人は、ない人よりも認知症になりにくい」という記事を読んだことがあります。趣味やボランティア活動などを通じて積極的に外へ出て、いろんな人との交流を広げることは大切ですね。

白澤 高齢になれば、外に出て歩くだけでも脳と五感への刺激が増します。読書が好きなら町の書店や図書館に行ってみる、絵を描くのが趣味なら写生や画廊めぐりもよいでしょう。


料理、歌で若返る

山田 旅行が趣味という人がとても多いようですね。仕事や子育てから解放され、時間的にもお金の面でも比較的ゆとりのあるシニア世代にとっては、見知らぬ土地への旅は、心がワクワクするでしょう。

白澤 「あそこへ行きたい」、「あの料理を食べたい」などと、考えただけでも心が躍ります。そんなときめきと好奇心は、脳に刺激を与え、寿命を延ばす「長寿遺伝子」を活性化させてくれます。

山田 料理も脳のアンチエイジングには最適のようですね。「男子厨房に入らず」という言葉があるように、昔は男は炊事に手を出すべきではない、という風潮がありましたが、最近は料理をする男性が増えました。

白澤 料理は、非常に頭を使う、奥の深い世界です。まず、何の料理をつくるか献立を考えることから始まり、メニューが決まったら食材を集め、調理する。創意工夫やアイデアが必要な、実に創造的な作業です。

山田 それと、カラオケが健康にとてもよいともいわれていますね。

白澤 お年寄りたちが歌うことによって心身ともにリラックスし、脳が刺激されて認知機能の低下予防に役立っているからです。おなかの底から大声を出して歌えば、適度な緊張とリラックスのバランスが脳下垂体を刺激し、自律神経を整えるのによい影響を与え、ストレスを発散させてくれます。

山田 老人ホームのお年寄りがボランティアの美容スタッフから化粧をしてもらい、見違えるように明るく元気になったという話が新聞に出ていました。化粧によってリハビリ効果も高まり、「寝たきりの人が歩けるようになった」「オムツを外せた」などの話もよく聞きます。化粧やおしゃれには、それくらい大きな効果があるのですね。

白澤 ありますね。化粧をする、マニキュアを塗る…。おしゃれは高度なコミュニケーションが図れます。身なりに気を使わなくなったら、心も老いやすくなってしまいます。

山田 それと、近年「笑う」ことが健康法の一つとして注目されています。笑いが心や体によいことが医学的にも実証されつつあり、「笑い」を病気の予防や治療の一つに加えている医療機関もあると聞きました。

白澤 毎日笑う人は、ほとんど笑わない人に比べ認知機能の低下が少ない、との調査結果もあり、よく笑う人ほど認知症にはなりにくい、ともいえますね。また、がん細胞などを攻撃してくれる「ナチュラル・キラー細胞(NK細胞)」も、笑うことによって増えるとの報告もあります。

挑戦する気概を持つ

山田 アメリカの詩人、サミュエル・ウルマンは、かの有名な「青春の詩」の中で「青春とは人生のある期間をいうのではなく、心の様相をいう。歳を重ねただけで人は老いない。理想を失ったときに初めて老いる」と謳っています。いつまでも若々しくあるためには理想や希望を持つことが、いかに大切であるかを彼はいいたかったのでしょう。

白澤 それと、いくつになっても新しいことにチャレンジする気持ちを失わないことが大切ですね。この前、冒険家、三浦雄一郎さんが史上最高齢の80歳で、世界最高峰のエベレストの登頂に成功され、多くの人に夢と希望を与えました。老いは、単に年をとるのではなく、心の持ち方しだいで老化の進行は早くも遅くもなるものです。「もう年だから」とあきらめないで、どんどん新しいことにチャレンジしてほしいですね。