小学生の頃の話です。
私の家のそばに川が流れていました。
紅顔の美少年だった私は毎日、その川の土手に上がって通学していました。
現在のように、治水のため川の流れを変えたり、土手をコンクリートで固めたり、
ということもない自然の流れに任せた草の生い茂った古きよき時代の川でした。
夏になると川遊びをしたり、さかなやザリガニを捕まえたり、砂地で運がいいと子
供のすっぽんを捕まえたり、たまにゼニガメすら捕まえることができた、そんな自
然あふれるきれいな川でした。
ある朝いつものように土手を這い上がり川の流れを見ながら学校までの道のりを歩
いていた私の目になんだか知れないけど気になるものが見えました。
それは川のよどんだところに水の中からにゅ~っと突き出した一本の棒のように見
えました。
「何だろう?」
紅顔の美少年は不思議に思ったのでした。
帰り道に見てみるとそれはなくなっていました。
「あれはいったいなんだったのだろう?」
次の日の朝になると、また同じようににゅ~っと棒が・・・。
しかし、帰りになるとなくなっています。
美少年は次第にその得体の知れない棒に興味が沸いてきました。
そして、ある朝、意を決してその棒に向かって石を投げてみました。
棒は、突然水の中に消えていきました。
そのとき始めて知ったのです。
「あいつ、生きてる・・・。」
当時から生き物に興味があり、夏になると昆虫やザリガニ、さかななどを捕まえて
きて飼育するのが好きだったので、この生き物の正体を知るのにもそれほど時間は
かかりませんでした。
「あれは、すっぽんだ。それもかなり大きい・・・。」
そう、それは砂地をかき回していると驚いて出てくるような子供のすっぽんではな
く大きく成長した大人のすっぽんでした。
おそらく、首を伸ばして空気を吸っていたのでしょう。
そこに石を投げられてビックリして水の中にもぐっていったのでした。
しばらくの間、そのすっぽんは若き美少年の朝の楽しみとなったのでした。
不思議なことに毎朝、大体同じ場所から首を出しています。
雨が降って増水しても川の水が引いてくるとまた同じところから首を突き出してい
ました。
しかし、彼との別れもあっけなくやってきます。
台風シーズンを前に増水した川の水が氾濫しないように川を掘り下げ、流れを変え
てしまう工事が始まったのです。
きれいになった川。
しかし、すっぽんの姿はそれ以来見られなくなってしまいました。
月日は流れ、美少年は見る影もなくなり、町の様子も一変してしまいました。
最寄の小さかった駅は、ショッピングセンターを含む大きなビルと化し、住宅街の
上にはモノレールが走っています。
その川の土手もコンクリートで固められ、土手の上は舗装されたサイクリングロー
ドに変わってしまいました。
ちょっとやそっとでは氾濫することのない、住んでいる人たちにとっては安心でき
る川です。
でも、今でも実家に帰るたびに土手を登っていき、川を見つめてしまいます。
どこかであのすっぽんの子供たち・子孫たちが生きていてくれて、あの日のように
首をにゅ~っと突き出してくれていることを願いながら・・・。
私の家のそばに川が流れていました。
紅顔の美少年だった私は毎日、その川の土手に上がって通学していました。
現在のように、治水のため川の流れを変えたり、土手をコンクリートで固めたり、
ということもない自然の流れに任せた草の生い茂った古きよき時代の川でした。
夏になると川遊びをしたり、さかなやザリガニを捕まえたり、砂地で運がいいと子
供のすっぽんを捕まえたり、たまにゼニガメすら捕まえることができた、そんな自
然あふれるきれいな川でした。
ある朝いつものように土手を這い上がり川の流れを見ながら学校までの道のりを歩
いていた私の目になんだか知れないけど気になるものが見えました。
それは川のよどんだところに水の中からにゅ~っと突き出した一本の棒のように見
えました。
「何だろう?」
紅顔の美少年は不思議に思ったのでした。
帰り道に見てみるとそれはなくなっていました。
「あれはいったいなんだったのだろう?」
次の日の朝になると、また同じようににゅ~っと棒が・・・。
しかし、帰りになるとなくなっています。
美少年は次第にその得体の知れない棒に興味が沸いてきました。
そして、ある朝、意を決してその棒に向かって石を投げてみました。
棒は、突然水の中に消えていきました。
そのとき始めて知ったのです。
「あいつ、生きてる・・・。」
当時から生き物に興味があり、夏になると昆虫やザリガニ、さかななどを捕まえて
きて飼育するのが好きだったので、この生き物の正体を知るのにもそれほど時間は
かかりませんでした。
「あれは、すっぽんだ。それもかなり大きい・・・。」
そう、それは砂地をかき回していると驚いて出てくるような子供のすっぽんではな
く大きく成長した大人のすっぽんでした。
おそらく、首を伸ばして空気を吸っていたのでしょう。
そこに石を投げられてビックリして水の中にもぐっていったのでした。
しばらくの間、そのすっぽんは若き美少年の朝の楽しみとなったのでした。
不思議なことに毎朝、大体同じ場所から首を出しています。
雨が降って増水しても川の水が引いてくるとまた同じところから首を突き出してい
ました。
しかし、彼との別れもあっけなくやってきます。
台風シーズンを前に増水した川の水が氾濫しないように川を掘り下げ、流れを変え
てしまう工事が始まったのです。
きれいになった川。
しかし、すっぽんの姿はそれ以来見られなくなってしまいました。
月日は流れ、美少年は見る影もなくなり、町の様子も一変してしまいました。
最寄の小さかった駅は、ショッピングセンターを含む大きなビルと化し、住宅街の
上にはモノレールが走っています。
その川の土手もコンクリートで固められ、土手の上は舗装されたサイクリングロー
ドに変わってしまいました。
ちょっとやそっとでは氾濫することのない、住んでいる人たちにとっては安心でき
る川です。
でも、今でも実家に帰るたびに土手を登っていき、川を見つめてしまいます。
どこかであのすっぽんの子供たち・子孫たちが生きていてくれて、あの日のように
首をにゅ~っと突き出してくれていることを願いながら・・・。