歯科技工管理学研究

歯科技工管理学研究ブログ
歯科技工士・岩澤 毅

石井拓男 歯科医療と社会歯科学

2012年01月01日 | 歯学系学会・日本歯科医療管理学会雑誌
http://ir.tdc.ac.jp/irucaa/bitstream/10130/2910/1/112_535.pdf

歯科学報Vol.112,No.4(2012)

歯科医療と社会歯科学

東京歯科大学社会歯科学研究室教授 石井拓男

 1968年12月10日に,我が国初めての社会歯科学研究室が東京歯科大学に誕生した。初代主任教授は高木圭二郎先生であった。高木圭二郎先生は東京歯科医学専門学校卒業後,1938年に新設されたばかりの厚生省へ嘱託として派遣され,その後満州国立医科大学教授を経て1947年に厚生省医務局技官に就任された。1963年歯科衛生課長を退任し東京歯科大学教授に就任された。社会歯科学研究室が創設されたのは,その5年後であった。

 創設当初,高木先生は社会歯科学研究室として取り扱う領域を,①歯科医療制度の歴史,②歯科医師の倫理,③医事法制,④歯科医療の管理方式,⑤歯科医療の制度論とした。「社会歯科学の定義は定まっていない」とした上で,この5項目を提示された。歯科医学教育の中で,社会歯科学が認知されたのは,歯科医師国家試験の出題基準では1989年,歯科医学教授要綱では2007年からであった。それまでは,いずれも衛生学・口腔衛生学の一部に位置づけられていた。

 国民に信頼される医療の提供が,医科歯科を問わず社会問題となり,近年は文科・厚労行政においても施策として対応せざるを得ない状況となった。医事紛争の増加から,医療倫理の啓発と患者中心の医療提供体制が重要となった。一方で,国の財政破綻と不況,高齢化により社会保障の安定供給が国家的課題となり,医療経済が重要性を増すこととなった。医科・歯科の従事者に,医学医療のみの知識と技能と態度が求められる時代から,医療提供体制の仕組みの理解も求められるようになった。高木圭二郎先生が定めた社会歯科の領域そのものである。現在では,歯科医学教育において社会歯科学は必須のものとなった。戦後の歯科保健医療行政を,立ち上げて推進してきた厚生歯科官僚に東京歯科卒業生の多かったことから,社会歯科学の必要性を作り上げたのは,時代と東京歯科であるということになりそうである。

 現在の歯科医学・医療の変化を象徴するものに,歯科衛生士の業務がある。いわゆる「口腔ケア」の評価が歯科以外の領域で高まったことは周知のことと思われる。歯科界では,歯科衛生士業務のみならず歯科医業について議論百出の状況となったが,誤解・曲解の論もあり社会歯科学の重要性がここでも再確認された。今後さらに,社会歯科学に課せられる歯科医療問題の増加が予測されるところである。

≪プロフィール≫
<略歴>
1972年愛知学院大学歯学部卒業
1978年愛知学院大学歯学部講師(口腔衛生学教室)
1988年愛知学院大学歯学部助教授
1990年厚生省入省
1993年厚生省保険局歯科医療管理官
1995年厚生省健康政策局歯科衛生課課長
1999年東京歯科大学社会歯科学研究室教授
2004年東京歯科大学千葉病院長
2010年東京歯科大学歯科衛生士専門学校長(現在)
2011年東京歯科大学副学長(現在)

<主な公職歴>
学会:日本口腔衛生学会理事(現在)
日本歯科医史学会理事(現在)
日本保健医療行動科学会評議員
日本歯科医学教育学会監事(現在)
日本公衆衛生学会評議員(現在)
日本老年歯科医学会評議員(現在)
厚生労働省:医道審議会委員,歯科医師臨床研修推進検
討委員会座長
社会保険診療報酬支払基金:歯科専門役(現在)
日本歯科医師会:日本歯科総合研究機構研究部長(現在)
歯科衛生士の業務と養成に関する検討
臨時委員会委員
日本歯科医学会:歯科診療ガイドラインライブラリー協
議会委員
日本歯科衛生士会:日本歯科衛生学会顧問(現在)
一般財団法人歯科医療振興財団:評議員(現在)
財団法人8020推進財団:8020調査研究委員会委員(現在)

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