『日本歯技』2013年11月号 巻頭言
人間復興を口腔から
各種の災害医療ボランティア研修への参加は、3.11東日本大震災後の被災地支援への関心の高まりを契機に、地域組織等の皆さまも積極的な参加意思の表明がみられる。
本会も参加するJIMTEF(公益財団法人国際医療技術財団)の災害医療研修コースは、今年11月の開催で3回目を迎えようとしている。来年にはコース修了者ならびに同等の経験者を対象に、上級者向けとして「アドバンスコース」も開催される。
時代の求めに応じ各医療関係団体各職種の方々も、それぞれの立場でどのような貢献が可能なのか、真剣な協議が持たれている。そしてその協議内容も、より実践の観点からの内容へと変化している。歯科医療においても、関係者間において歯科版DMAT※の必要性を指摘する声が増している。
いわゆる災害時の「急性期」を過ぎた後にも、歯科技工士がその専門性を活かす役割はある。避難所等での高齢者の誤嚥性肺炎の発生等から口腔ケアの改善が叫ばれる中、歯科医師、歯科衛生士による口腔ケアは勿論のこと、歯科技工士の義歯の研磨技術等の応用は、高齢者の口腔環境改善に資する技術として大いに力を発揮し得る。
生きる力を得る口腔の機能の維持と回復は、歯科医療従事者がその専門性を発揮すべき本来の場である。被災地の仮設住宅等に赴き、義歯の清掃・洗浄に活躍し喜ばれている仲間も多い。義歯の洗浄のほか被災地支援に関しては、その方法論の整理を図り、歯科におけるチーム医療の更なる確立の観点から深化を進めなければならない。
被災地の復旧から復興への長い戦いは続いている。そして、その復旧・復興は地域社会のインフラから、個人の生活と生業、更には被災地のコミュニティーの復興、被災者の人間復興へと続かなければならない。
歯科医療従事者として、「人間復興を口腔から」と肝に銘じ、息の長い被災地支援と、この地震列島、災害列島にある全国組織として、「もしも」と「いつか」に備えなければならない。
※DMAT:災害派遣医療チーム(医師・看護師・業務調整員)で構成され、地域の救急医療体制だけでは対応できないほどの大規模災害や事故などの現場に急行する医療チーム。