秋田魁新報社
北斗星(8月4日付) 2021年8月4日 掲載
「介護施設で困ったことが起きている」。県北の歯科医師からそんな話を聞いた。高齢者同士の入れ歯の取り違えが多いという。何人かが入れ歯を外しテーブルなどに置いたままのことがよくある。すると、介護士ばかりか本人にも見分けがつかなくなる
▼全国の65歳以上の高齢者3600万人のうち認知症は600万人。6人に1人と推計される。認知症が進めば記憶力だけでなく、判断力も低下する。入れ歯を判別できないのも無理はない
▼対策として、歯科医師は入れ歯の名入れサービスを始めることにした。歯茎と接するピンク色の「義歯床(ぎししょう)」と呼ばれる部分に白い樹脂で名前を入れる。徘徊(はいかい)などの結果、行方不明となった場合には身元確認にも役立ちそうだ
▼食事や会話をする上では、歯が整った健康な口は欠かせない。たとえ入れ歯でも、よく合ったものでしっかりかめば脳を刺激し、活性化させると考えられる。認知症の予防につながることが期待される
▼よくかむことは食べ物の消化吸収を助ける効果もある。その際、重要な役割を果たすのが唾液だ。1日平均1・5リットルも分泌され、かむ回数が多いほど量が増える。口から入ってくるウイルスや細菌などから体を守る免疫機能もある。唾液が出やすくするには小まめに水分補給し、食事時以外にも会話や笑いで口を動かすことが大切だ
▼慌ただしい毎日を過ごしていると、つい食事も急いで短時間になりがち。落ち着いて一口30回かむことを心掛けたい。