http://www5a.biglobe.ne.jp/~kaisunao/seminar/713bar_association.htm
弁護士会の強制加入制度と憲法22条
甲斐素直
問題
Xは、Y(日本弁護士連合会)傘下のA弁護士会に所属する弁護士である。Xは、B女より依頼されて、その夫Cに対して、離婚及び慰謝料請求の交渉を行おうとしたが、Cに何度会見等を申し入れても応じてこないのに腹を立て、最終通告状と題して、「貴殿の如きハレンチな奴でもこんなうす汚い事件はなるべく公にならないように処理してやろうと思って、こちらは配慮している積りである」とか、「貴殿の娘Dが貴様みたいな強欲じじいに身体を犯され子供も生めなくなったら親としてどんなに悲しい思いをするか考えても見られたい」などの文言を書き連ねた文書を送付した。
Cからの訴えで、この事件を審査したA弁護士会懲戒委員会は、Xの行為は弁護士法56条にいう弁護士としての「品位を失うべき非行」に該当すると認定し、Xに対し退会命令を下した。
これに対して、Xは、Yに対し、弁護士会への強制加入制度は、結果的には会員相互間の友好関係を強制し、その結果、会員相互間の馴れ合いによる事件の解決を招きやすくするものであり、弁護士法8条、9条、36条は、憲法22条の「職業選択の自由」に違反すると主張して訴えた。
Xの主張の憲法上の当否について論ぜよ。
中略
[おわりに]
このように、弁護士会の強制加入制及び懲罰権の存在は、弁護士活動の国家に対する対等性を確保する上で、欠くことのできない要件である。しかし、常に強調するとおり、特権が存在するところには、その反面としての義務の存在も忘れてはいけない。日弁連は、国家からの干渉を排除した分、対国民的にアカウンタビリティを確保する義務を負っていると言うべきである。そして、その観点から見た場合、日弁連の現状は必ずしも十分とは言えない。先に、司法制度改革審議会に最高裁判所が提出した見解を紹介したが、あの文章は、次のように続いている。
「しかしその運営の実態は多くの国民に明らかにはされていない。今後司法に対する国民の信頼を得ていく上では弁護士会の運営の透明化も大きな問題であろう。
特にその中でも重要と思われるのは逸脱した弁護活動への対応と綱紀・懲戒の在り方の点である。既に問題として指摘したところであるが裁判における不適切なあるいは逸脱した弁護士の活動等に対して適切かつ実効性ある制裁制度が機能する必要がある。そのような機能を持つ制度としては弁護士会による懲戒制度がほとんど唯一のものである。近年の懲戒事例を見ると犯罪行為依頼者からの預り金等を巡る金銭トラブル裁判手続の懈怠等によるものが大半のように思われる。
懲戒手続は懲戒請求があった場合まず各弁護士会に設置された綱紀委員会で調査され懲戒相当の報告があった場合に各弁護士会に設置された懲戒委員会で審査されることとなっているがこれらの委員会は弁護士を中心とした構成になっている。
弁護士の職業倫理の確立という観点からすれば単に犯罪的行為や著しい職務懈怠に止まらず迅速で適正な裁判の実現に向けた健全な訴訟活動という観点からも適切な自治機能が発揮されることが望ましい。その意味で懲戒制度の在り方や運用方法について弁護士個々人のプライヴァシーに配慮しつつ更に検討する必要があると思われる。」
諸君としても、心にとめておいてほしい。
弁護士会の強制加入制度と憲法22条
甲斐素直
問題
Xは、Y(日本弁護士連合会)傘下のA弁護士会に所属する弁護士である。Xは、B女より依頼されて、その夫Cに対して、離婚及び慰謝料請求の交渉を行おうとしたが、Cに何度会見等を申し入れても応じてこないのに腹を立て、最終通告状と題して、「貴殿の如きハレンチな奴でもこんなうす汚い事件はなるべく公にならないように処理してやろうと思って、こちらは配慮している積りである」とか、「貴殿の娘Dが貴様みたいな強欲じじいに身体を犯され子供も生めなくなったら親としてどんなに悲しい思いをするか考えても見られたい」などの文言を書き連ねた文書を送付した。
Cからの訴えで、この事件を審査したA弁護士会懲戒委員会は、Xの行為は弁護士法56条にいう弁護士としての「品位を失うべき非行」に該当すると認定し、Xに対し退会命令を下した。
これに対して、Xは、Yに対し、弁護士会への強制加入制度は、結果的には会員相互間の友好関係を強制し、その結果、会員相互間の馴れ合いによる事件の解決を招きやすくするものであり、弁護士法8条、9条、36条は、憲法22条の「職業選択の自由」に違反すると主張して訴えた。
Xの主張の憲法上の当否について論ぜよ。
中略
[おわりに]
このように、弁護士会の強制加入制及び懲罰権の存在は、弁護士活動の国家に対する対等性を確保する上で、欠くことのできない要件である。しかし、常に強調するとおり、特権が存在するところには、その反面としての義務の存在も忘れてはいけない。日弁連は、国家からの干渉を排除した分、対国民的にアカウンタビリティを確保する義務を負っていると言うべきである。そして、その観点から見た場合、日弁連の現状は必ずしも十分とは言えない。先に、司法制度改革審議会に最高裁判所が提出した見解を紹介したが、あの文章は、次のように続いている。
「しかしその運営の実態は多くの国民に明らかにはされていない。今後司法に対する国民の信頼を得ていく上では弁護士会の運営の透明化も大きな問題であろう。
特にその中でも重要と思われるのは逸脱した弁護活動への対応と綱紀・懲戒の在り方の点である。既に問題として指摘したところであるが裁判における不適切なあるいは逸脱した弁護士の活動等に対して適切かつ実効性ある制裁制度が機能する必要がある。そのような機能を持つ制度としては弁護士会による懲戒制度がほとんど唯一のものである。近年の懲戒事例を見ると犯罪行為依頼者からの預り金等を巡る金銭トラブル裁判手続の懈怠等によるものが大半のように思われる。
懲戒手続は懲戒請求があった場合まず各弁護士会に設置された綱紀委員会で調査され懲戒相当の報告があった場合に各弁護士会に設置された懲戒委員会で審査されることとなっているがこれらの委員会は弁護士を中心とした構成になっている。
弁護士の職業倫理の確立という観点からすれば単に犯罪的行為や著しい職務懈怠に止まらず迅速で適正な裁判の実現に向けた健全な訴訟活動という観点からも適切な自治機能が発揮されることが望ましい。その意味で懲戒制度の在り方や運用方法について弁護士個々人のプライヴァシーに配慮しつつ更に検討する必要があると思われる。」
諸君としても、心にとめておいてほしい。