歯科技工管理学研究

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歯科技工士・岩澤 毅

野島正美 野島の遺言―これから10年20年、技工を続ける君へ―

2011年06月01日 | 基本・参考
野島の遺言―これから10年20年、技工を続ける君へ―

野島正美
歯科技工・技術共同体
㈱テクニカルセンター 代表取締役

○私のこども時代

私の育った町内には、大工さんや左官屋さん、隣の町内には背広を仕立てるテーラーや畳屋があり、今とは違う風景がありました。いわば普通に職人さんが町に暮らしていた『三丁目の夕日』の時代です。
私は、職人のいる町の空気を吸い、母(保健婦)から受け継いだ医療との係わりの中で、歯科技工士の道に進みました。

○私が見てきた歯科技工業界

私が歯科技工士という職業を知った1960年代後半には、鋳造冠の前の時代の技術である縫製冠や無縫冠の仕事で家を建て、十分な暮らしを営んでいた歯科技工士の風景がありました。先輩の歯科技工士さんの中には、義歯の床用材料としてアクリル樹脂の前の時代の技術である加硫ゴム床義歯の全盛期に活躍された方々もいました。
考えてみてください。金を加工する技術は、古代の文明から延々と続くものです。その技術の応用として、歯科技工の金属加工技術もあったのです。
科学技術と歯科技工技術の進歩は、歯科医療をより幅広い人々にもたらしました。しかし、より多くの人々に歯科医療を提供するためには、より安価な材料を歯科技工に応用することも求められます。貴金属は貴重品です、国際市況に左右されます。貴金属の急激な価格変動は、医療経済に混乱をもたらす場合もあります。日本の様に、国民皆保険制度という保険証一枚あれば医療機関を受診でき歯科の分野もカバーする場合は、なおさらです。
金銀パラジウム合金とコバルト・クロム合金の加工を例に考えてみましょう。相対的に安価な材料を使用するためには、逆に高価な生産設備が必要になってくる場合があります。
高価な生産設備を導入し使いこなすには、技術とともに一定程度の資本の力が必要となります。低温溶融合金を用い縫製冠や開面金冠を製作していた時代とは、歯科技工所の開業資金は、桁違いになりました。レジン床義歯を製作するにしても、大量生産を前提にする重合システムは、より高価なものです。

消費者(保健医療の場合は、保険の運営者と医療機関と患者)は、より安価なものを求めます。生産側がその消費者の要求にこたえるためには、より安価な材料を開発し、一個当たりの生産費用を減少させる必要があります。結果として、生産側は高価なシステムの導入が必要となります。この流れは、小さな経営体では技術の新たな開発と導入が行えない時代の到来をもたらします。
冒頭お話したような職人は町内から姿を消しつつあります。住宅建築は在来工法から工場での生産と現場での組み立てに、背広は仕立てから既製服へ、畳は個人住宅から姿を消しつつあります。変化は、確実に進んでいます。
組織ラボ、ネットワークラボ誕生の必然性は、以上の技術の進歩と生産設備の高度化・高価化からも説明できます。

○ワンマンラボと組織ラボ

もう一つ組織ラボ、ネットワークラボ誕生の必然性は、人材の育成・教育という面からも説明できます。現在はワンマンラボの一人親方であっても、過去には先輩の歯科技工士から教えを受け「一人前」になったはずです。しかし、ワンマンラボは人材の育成・教育に貢献することを前提にしていません。あえて厳しい言い方をすれば、歯科技工業界の後継者育成に役割を果たしていないのです。自分は業界に先輩に育ててもらい一人前になった。しかし自分では後輩を育てない。これでは歯科技工技術の継承ができません、歯科技工業界が衰退します。また、悪い意味での職人気質は、作業工程の管理に科学の力を利用することの妨げになってきました。経営の合理化を受け付けない体質もあります。それらは、経営体としての発展の道を閉ざしてしまいます。
私が仲間と築いたものに、歯科技工士の「レベルアッププログラム」と「工程管理システム」と名付けたものがあります。レベルアッププログラムは、当社の現場での5年教育プログラムです。歯科医院のチェアーサイドの経験を含め、新人の歯科技工士に有床義歯か歯冠修復の一つの分野での開業に備える程度の歯科技工のテクニック習得に至るまでの人材の育成・教育のプログラムです。工程管理システムは、技工作業の工程を正確に分析し、作業工程毎と従事する歯科技工士さんの評価、営業所単位の評価、歯科技工所相互の評価の比較を可能とし従業員の待遇面の評価をより公正する独自開発のコンピューターソフトです。
従業員の納得する職場、従業員が自分の将来に不安を抱かない職場づくり、歯科技工士が夢を持てる歯科技工業界の確立を、歯科技工所の経営者として自分に課し、その一つの現在の答えが「レベルアッププログラム」と「工程管理システム」です。

○歯科用CAD/CAMシステムが切り拓く、新しい歯科技工業界の姿

歯科用CAD/CAMシステムは、歯科技工業界により大きな変化を求めます。システム間の優劣は、精度と単価にストレートに反映します。劣るシステムは明確に淘汰されます。システム間の優劣の差により、劣るシステムの導入は、歯科技工所に圧倒的な不利をもたらします。
精度と単価に優れたシステムは、高価な導入資金を必要とします。そして、日本国内の需要に応じた工場型の大型のマシニングセンタが果たして何か所必要なのか?無駄な重複投資は、業界に弱体化をもたらします。工場型の大型のマシニングセンタであれば、国外への設置・国外委託に経済的優位性はありません。日本国内に設置しても、国際競争に勝ち抜けます。警戒し備える必要があるのは、外国資本、ことに急激に成長する中国資本等のマシニングセンタの日本上陸です。
日本の歯科技工業界が経営を担い、日本人の歯科技工士を雇用し、日本の歯科技工の需要を満たすための歯科用CAD/CAMシステム導入の構想が必要となります。

○歯科技工所のネットワーク

歯科用CAD/CAMシステムの工場型の大型のマシニングセンタは、歯科技工所のネットワーク形式を促します。必要性の裏付があります。このマシニングセンタをメーカー主導や、国外資本の手に委ねることなく、日本の歯科技工業界が経営を担い、日本人の歯科技工士を雇用し、高齢化社会を支える歯科技工所のネットワークとして構築しなければなりません。マシニングセンタを中心に、日本の歯科技工士が各々役割を担い、技術を発揮するネットワークを構築する必要があります。
全国各地で地域歯科医療に貢献する優秀な技工士さんたちと技術と情報を交流し、次の時代にも通用する歯科技工業界を構築しなければなりません。

○歯科医療と歯科技工所の守備範囲を広げよう

高齢化社会は歯科の出番です。歯科の守備範囲は、生活の質に直結します。歯科医院が、治療室で患者を待ち続ける時代ではありません。歯科技工所が歯科医院の御用聞きをし、価格競争のみに身を削る時代ではありません。
歯科的ケアを必要とする人に、歯科の力を届けなければなりません。そこに歯科技工所とそのネットワークの新たな役割を見つけ出さなければなりません。まずは、歯科技工業界が持つ設備と人材の活用を、介護と在宅歯科医療に提案していかなければなりません。

○むすびに

野島の話にご興味を持たれた方は、是非下記まで連絡をお願いします。


㈱テクニカルセンター 代表取締役 野島正美
339-0037 さいたま市岩槻区浮谷1000番地
TEL 048-791-1231
FAX 048-798-8931


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