「青森県の伝統工芸品は?」と聞かれてすぐ頭に浮かんでくるものは、津軽塗や南部裂織、温湯こけし、八幡馬、こぎん刺しなどなど・・・
これまで、そのような伝統工芸をいくつか体験してきましたが、今回はちょっぴり変わった技法で工芸品を作っている建具屋さんが下北半島にあるということで、行ってきました。
その場所は、現在「横浜なまこフェア」が開催されている横浜町の隣町むつ市にあります。
今回お世話になったのは、国道279号線沿いに工房を構える(有)中西建具センター「工房木の夢なかにし」
注意したいのは、カーナビに“中西建具センター”と入れたとき、「むつ市田名部槌川目24-8」に辿りつく場合があること。
実際に、私たちがそうでした・・・(^^; 工房の住所はそれとは違いますので、下記を参照ください。
さて、扉を開けて中に入ると、工房内には青森ヒバのいい香りが漂っていました。
そして、部屋のあちらこちらに作品が並んでいます。
その中のひとつに遊ぶ子供たちを表現した人形があったのですが、この作品のケースに注目してみてください
よ~く見ると、ケース下部と背景に非常に細い彫刻が施されているのですが、これは“時雨彫り”という技法なのだそうです。
一方、大黒様を表現した作品も。
このように繊細で芸術的な作品は、一体どのように作られているのでしょう?
と、その前に・・・ 時雨彫りとはこういうものであります↓
柾目板の夏目を抜いて、冬目(年輪)を切らないように残しながら彫り抜き、様々な模様を浮かび上がらせたもの。
この時雨彫りを築き上げ完成させたのが、社長の中西勇太郎さん。
来年には80歳半ばを迎えるそうですが、現役バリバリです
時雨彫りが誕生するきっかけは、中西さんが40代の頃、海沿いの道端にあった船小屋が潮風や砂で浸食され年輪部分だけが残っているのを見かけたことだったそうで。
このあと、試行錯誤を重ねながら時雨掘りの研究に勤しむことになります。
中でも特に苦労したのが、下の「サンドブラスター」という装置に辿り着くまでの道程だったと聞きました。
初めは自分で噴射装置を作ろうとしたそうですが、うまくいかず業者を探したということです。
サンドブラスターは特注で手に入れたものの、このあと、うまく年輪を残す方法に巡りあうまで相当な時間を費やすことになります。
最初に試した砂では、板に吹き付けた際に年輪が切れてしまったそうで・・・
それから色々と思案し試し、現在使用しているガラスビーズに辿りつくまでに約5年もの歳月が流れていったそうです。
それでは、この努力と苦労の末に誕生したサンドブラスターの使い方を中西さんから直々に教わり、いざ時雨彫りを作ってみます。
中西さん曰く、「初心者の方は、まず栞(しおり)を作ってみて欲しい」とのことだったので、その通りに栞をチョイス。ほかに絵馬などを作ることも可能なようです。
あらかじめ用意されている型があるので、そこから好きな絵柄を選びます♪
型をクリップで栞板に固定したら、あとはサンドブラスターで夏目を彫り抜いていきます
ちなみに、栞に使われている板の材質は、これまで青森ヒバが主だったそうで。
しかし、最近になって時雨彫りに適した年輪のヒバ材が手に入りにくくなり、現在は秋田スギを主に使っているのだと聞きました。
小窓を覗き、削り過ぎないように注意しながらガラスビーズを吹き付けていきます。
(※画像クリック)
そうなんです、実は時雨彫りの作業自体はとてもシンプルなものなんですね。
正直、作品の繊細さと作業工程のギャップに驚きました・・・
そして、こちらが完成品です
左から、「ねぶた」「尻屋崎灯台と寒立馬」「花」。まるで、素人が作ったとは思えないような出来映え!(自己満足!?)
本業は建具屋なので、もちろん、このような時雨彫りの模様を施した扉などのオーダーも可能です。
しかし近年、首都圏から安価な建具が次々と入ってくるようになったために、建具職人としての仕事が減ってしまったそうで・・・
現在では、ヒバのまな板や木桶など建具以外にも手がけており、特にヒバのまな板が一番の売れ筋となっているようです。
※ヒバのまな板は、まさかりプラザでも取り扱っています。
中西さん曰く、時雨彫りは青森県内よりも首都圏での知名度が高いとのことですが、
私も、このような素晴らしい工芸品が県内にあることを最近まで知りませんでした・・・
まさに、灯台もと暗しです
ところでみなさん、このように芸術的な工芸品を自分の手で作れてしまうなんて、魅力的じゃありませんか?
ただ買うよりも、自分の手で作れば愛着もひとしおです
時雨彫り、ぜひ一度体験してみてください♪
§工房木の夢なかにし(有限会社中西建具センター)§
■住所 青森県むつ市奥内大室平10-32
■TEL・FAX 0175-26-3778
■営業時間 9:00~18:00
■定休日 なし
■体験料 ¥500(しおり3枚)
■定員 1~50名程度
■所要時間 30分~2時間程度(体験人数による)
■最寄駅 JR金谷沢駅(大湊線)/ 駅から徒歩約20分
野辺地駅(青い森鉄道)から下北交通バス[むつバスターミナル行き]で約1時間14分、「大室平」下車、徒歩約7分
by ヴァ♪