あぽまに@らんだむ

日記とか感想とか二次創作とか。

心はいつも青空(SQ2)

2008年03月14日 | 世界樹の迷宮2関連






























<心はいつも青空>





真っ白な銀世界の森。さくさくという雪を踏み締める足音が五つ。その内一つが急に止んだ。
その後を歩いていたアルケミストのリュサイアが同じくその場に止まる。その凍り付くような寒さに息が白くなる。

「シャス。少し休むか?」

普段半袖にキュロットという軽装なシャスは今では丸々と着込んである。
咄嗟に薬瓶を取れないからとミトンの手袋を拒んだ為、手が悴んでいるようだ。
指切り手袋を脱いで、しきりに両手を擦り合わせている。大切な少女の居た堪れない姿にリュサイアは眉を寄せる。
モンスターが出れば火の術式が弱点である場合が多いので、一時的ではあるが温めてやる事が出来る。
しかし深々と降り頻る粉雪は静かで、敵の出て来る気配は今の処無かった。
無言のリュサイアの心中を察し、シャスが気を遣い微笑んだ。

「平気。今日の探索を終えてしまえば、暖かい公国にまた戻れるもの。頑張らなくちゃ」

第ニ階層のボス「炎の魔人」を撃破したギルドメンバーはレアアイテムまで確保し、意気揚々とハイ・ラガード公国に凱旋した。
その足で公宮に報告に上がり宿に一泊すると、翌日には冒険者ギルドでパーティを再構成し、第三階層である六花氷樹海の探索を開始したのだ。
第ニ階層のボス撃破メンバーから数人メンバー入れ替えがあり、現在はソードマンのアディール、ブシドーの雪之丞、ガンナーのヴィクトール、メディックのシャス、アルケミストのリュサイアの五人である。
紅葉の秋の森だった第ニ階層とはまた景色が一切変わり、第三階層は冬の銀世界。永遠に雪が降り積もる森だった。
軽装のメンバーは防寒服を纏い、探索に臨んでいる。
シャスもガンナーの少年、マキューシオにサイズの合った毛皮のコートを借りて指先の切った手袋を装着している。
ウサ耳の帽子はドクトルマグスの親友アンジェリンからのプレゼントだと言う。
水色と白の毛糸で編んだ帽子は、シャスのオレンジ色の髪に映えて愛らしかった。
彼女が歩く度にぴょこぴょこと長い兎の耳が後ろに跳ねる。殺伐とした闘いの森の中、それだけでリュサイアは心が和んだ。

「僕も火の術式の使い過ぎでそろそろTPが無くなる。もう少しで帰れるだろう」

シャスがにっこりとリュサイアに笑い掛ける。少し前方で待っていた三人の戦士達も目を細め、その光景に微笑みを浮かべた。
シャスとリュサイアの初々しいカップルは時折、殺伐とした雰囲気を和ませる。

「何か第ニ階層は永遠に続く滅びの苦しみを感じましたけど、第三階層は死者の哀しみを感じます」

シャスが自らの苦しみであるかのように愛らしい顔を歪ませ呟く。
粉雪は止む事は無い。
降り続いている筈なのに踏み締める雪の深さは一定に保たれていて何故か変わらないのだ。
この階層もまた謂われない拷問を受けている悲哀を感じさせる。シャスが、その深い灰色に覆われた雪雲を見詰めた。

「探索を終わらせて、出来る事ならこの灰色の空から解き放ってあげたいです」

リュサイアが深く頷いた。シャスの深い愛情なら出来るし、自分もその手助けをしたいと思った。
再び先に進もうとしてシャスがふと足許に目を遣った。其処にはモンスターのスノーマンではないが小さな雪だるまが遇った。
それが自然で出来たものではない事の証明として、その雪だるまは小さな紙袋を握っていた。
危険とは思いつつも、その紙袋の淡いピンクの色に誘われるままシャスが紙袋を開け、声を上げた。

「これ…、マシュマロ?」

紙袋の中には綺麗に包装されたマシュマロが入っていた。自分の名の書かれた水色のカードも置かれている。
そのカードを開くとシャスは涙ぐむ。そして前方を歩いている筈のソードマンの少年の名を呼んだ。

「アディー君、有難う。可愛い雪だるまです」

マシュマロも大好きですと付け加えカードと紙袋を抱き締めるシャスの前にヴィクトールと雪之丞も近寄って来る。
そして差し出される二つの包みにシャスは二人の顔を交互に見た。

「何か今日は、私、誕生日みたいです」

ヴィクトールからはクッキーの詰め合わせ、雪之丞からは色々な味の金平糖を貰い、シャスが頬を染めた。
ヴィクトールが優しい眼差しで、「公国にいるアン達も同じ目に遭ってるし、帰ってからも凄いぞ」と付け加えた。そ
して背後から自分の名を呼ぶ愛しい人の声。振り返るとリュサイアが手に何かを握り立っていた。

「一ヶ月前の事、皆、君達に感謝していたんだ。僕達は手作りは無理だけど、一生懸命選んだ」
「リュシィ…」

手渡される恋人からの贈り物は雪の結晶を象った銀細工。それはブローチになっていて、シャスの純白のコートに似合う事だろう。
シャスはすぐにコートの襟に付け、その場でくるりと回り嬉しそうに微笑んだ。
今日は三月十四日。ホワイトデイである。
数人しか女性が居ないギルドメンバーは一ヶ月前、その少ない女性達から愛情の籠もったチョコレートを全員受取っている。
ギルドメンバーが少なくないヴァランシェルドの男性メンバーはシャスやアンジェリン達が前日徹夜までしてチョコレートを用意してくれていた事を知っていた。
慣れないお菓子作りに火傷や打ち身を沢山作ってまでチョコレートを手作りしてくれたシャス達に、その感謝の意を示す為、男性メンバー達は皆それぞれお返しを用意して一斉に渡そうと計画を立てていたのだ。

「驚いた?」

アディールが大剣を抱え直し、悪戯が成功した子供のように笑う。
雪之丞が嗜めるように睨むとヴィクトールが俯いているシャスを心配そうに伺ってくる。
シャスは余りもの嬉しさに先程から涙ぐんでいたのだ。
声を掛けようか躊躇しているヴィクトールに慌てて、顔を拭うとぶんぶんと横に振る。そして皆に向かって深々とお辞儀をした。
顔を上げていつもの花のような笑顔で微笑む。それだけで皆、この暗い空が晴れていく気がした。

「幸せ過ぎて…、何か逆に怖いです。探索は早く終わらせたいです。…でも皆さんとずっと一緒にも居たいんです。変でしょうか…」
祈るように胸の前で手を組み、最後は呟くようなシャスの問いに、アディールがすぐに反応する。

「あ、俺も。最上階まで行っても、全部謎を解いたとしても皆と居たい。な?雪」
急に振られて、しどろもどろになりつつも雪之丞が頷く。いつも仏頂面の雪之丞が真っ赤になっている。

「私も…皆と共に在りたいと思う」
ヴィクトールもしっかりとシャスに頷いた。リュサイアはシャスに微笑み返す。
その微笑が全てを教えてくれる。(君のいる処が僕の居場所)。
自分だけじゃない。シャスは悴んだ指が温かく火照っていくのを感じた。
アディールが軽い口調で先を促す。森に慣れたヴィクトールが木の株の上で手を差し延べてくれていた。
藤色の羽織りと濃紺の外套を着た雪之丞がアディールの横で柔らかく微笑む。
いつか迷宮の謎は解かれるだろう。
それでも共にいる仲間との旅は終わらない。
そう信じるだけでシャスの足取りは軽かった。



<了>
























コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 滅びゆく赤と命の赤(SQ2) | トップ | 薄れ逝く君の面影(SQ2) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

世界樹の迷宮2関連」カテゴリの最新記事