あぽまに@らんだむ

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滅びゆく赤と命の赤(SQ2)

2008年03月11日 | 世界樹の迷宮2関連
























「雪、死ぬな。死ぬな」

失われた記憶の中、男の囁くような低い声が脳裏に何度も甦る。

私に囁くのは誰なのだ。

何故、私に死ぬなと言う。

溢れんばかりの哀しみが私の心を満たし、自ら命を絶つ事が出来ぬ事だけを知る。

何の為に生きるのか分からぬまま、死ぬ事さえ出来ぬ身。

永遠に苦しむのは、地とて煉獄とて同じではないのか。

唯一の記憶は冷たい雪の感触。

私の名と同じ一面の銀の世界。


















<滅びゆく赤と命の赤>





「だから!STRブースト既に10なんだから、VIT少し上げろよ!」
「私には必要ない。それに上げるならAGIブーストだろう」
アディールの怒鳴り声に雪之丞の冷静な声が答える。雪之丞のレベルが上がる度に繰り返されるイベントだ。
第ニ階層の最終階である10階までパーティの探索は進んでいた。
しかし11階への階段前に立ち塞がるボス、「炎の魔人」に苦戦し、ボス討伐を目指す為、現在パーティの個々のスキルを調整している状況なのだ。
雪之丞はレベルアップをするパーティメンバーに付き合う担当になっており、アディールとのレベル差も大きくなっている。
攻撃力に直接影響する力に関係するSTRブーストをMAXまで上げた雪之丞はパーティでも一・ニを争う程の強さにまでなっていた。
しかし前衛で闘うには打たれ弱いのが難点なのをアディールは見逃しはしなかった。
幾ら攻撃力と敏捷力を誇るのがブシドーだとしても、雪之丞が敵に襲われ傷付くのに我慢ならない。
上半身に衣服を身に纏っていないだけにその傷の深さは横で見ていても痛々しい。
他のメンバーに気を遣わせないようにしているのか、元々の性分なのか、幾ら重傷を負っていても表情一つ変えない雪之丞に、毎回アディールが過剰反応する。
今現在パーティがいる10階は、モンスターのレベルも高く受けるダメージも大きい。今回も雪之丞は一人で瀕死の重傷を負ったのだ。
しかしメディックのシャスにヒーリングを受け平然としている。

「第ニ階層は氷属性が弱点のモンスターが多い。そろそろ属性系のスキルも取りたいのだ」
「だから!自分の身を護る為のスキルも取れって!」

顔を真っ赤に染めて怒るアディールに雪之丞は眉を寄せる。毎回何故怒られているのか分からないのだ。
自分の攻撃力はパーティの要だ。自分が強くなればなる程、パーティが生き残る確率が上がる。
それは皆のレベルアップが更に捗るという事だ。それなのに、何故怒られなければならないのか。
声を失い顔を伏せる雪之丞を見兼ねて医師の代わりでもあるメディックのシャスが近寄って来た。

「アディー君。それだけじゃ分からないわよ。雪さん、困ってるわ」
今度はアディールが絶句し、反論しようにも何を言えばいいのか分からず拗ねて顔を背けた。シャスが笑う。

「雪さん、アディー君は雪さんが心配なんです」
「え…」

雪之丞は腰掛石に座ったまま、唖然としてシャスを見て、次に顔を背けたままのアディールを見る。
シャスは理解出来ない雪之丞に哀しそうに微笑んだ。
雪之丞と同じく第一線で毎回探索に出ているシャスだからこそ、雪之丞が毎回傷を一番負うのを知っているのだ。
キュアを掛ける回数が尋常ではない。強ければ強い程、モンスターと対面している時間が多く、その分襲われる回数も多いのだ。

「心配しているのは、アディー君だけじゃないです。私も、雪さんを助け毎回送り出してくれるロイさんも雪さんを心配しているんです。VITにスキルポイントを振るのは難しいかもしれませんが、皆で防具買いに行った際、ちゃんと最新の強い防具、受け取って下さいね」
「…シャス殿…。リュシロイ殿まで…?」

雪之丞はギルドマスターであるパラディン、リュシロイにハイ・ラガード公国の近くの森で拾われた。
リュシロイは傷付き血塗れで倒れていた雪之丞を助け、献身的に面倒を看た。
回復はしたものの、記憶を一切失っていた雪之丞を自ら立ち上げたギルドに入れ、当面の面倒を看てくれている恩人であるリュシロイ。
その彼の手助けをするのが今の雪之丞の生き甲斐になっていた。
それが逆にその恩人に心配を掛けているとは思いも拠らなかったのだろう。雪之丞は真っ青になっている。

「あぁ、そこで考え込まないで下さい。雪さんの悪い癖です」

シャスが慌てて雪之丞の眉間のシワに「ぴっ」と人差し指を当てる。一本取られた感じになり、雪之丞は不器用に微苦笑した。
照れ臭そうに笑う雪之丞にアディールも少し安堵する。
しかしダークハンターのラザフォードを呼んでくると去っていくシャスを見送りながら雪之丞を見下ろす。
その真剣な瞳に雪之丞は息を呑む。

「死に急いでるみたいに闘うのは止めてくれ。横に居て息が詰まるんだ」
「わ…私はそんなつもりは…」
「まるで死に場所を探しているみたいな闘い方だ」

言葉で身を斬られたような気がした。青褪めたまま身動きさえ出来ない雪之丞にアディールは続ける。

「あんたが横にいる筈なのに、この堕ちていく赤い葉に塗れ、消えてしまいそうで怖くなる」

まるで自分が斬られたかのように顔を歪ませる少年に雪之丞は、口を開き掛けた。しかし声にならない。

「頼むから、もっと自分を大切にしてくれ」

それだけを言うとアディールは少し先に集合しているパーティの方へ歩き出そうとする。
何か言わなくてはと雪之丞は腰を上げた。雪之丞が立ち上がったのを気配で悟り、アディールが後ろを振り返り、驚いて目を見開いた。
あの無表情な雪之丞が顔を真っ赤にして何かを言おうと必死な顔で立っていたのだ。

「…何故…アディール殿は…其処までして私を…」

最後まで言えずに雪之丞は羞恥に顔を俯かせた。年下の少年はまるで子供を見るかのように雪之丞を見ると、小さく溜息を吐いた。
そして「分からないの?」と呟く。戸惑いながらアディールを見上げると雪之丞は驚愕に身を硬直させた。
眼前に迫る真紅の世界。燃えるような赤髪。唇に人肌の体温を感じると、それはゆっくりと離れていった。
茫然と固まったままの雪之丞に少年は悪戯が成功したみたいに屈託無く笑う。

「あんたが好きだからに決まってるだろ。さ、行こうぜ」

まるで可憐な少女のように頬を染め固まってしまっている雪之丞の手を強引に掴むとアディールは笑った。
「永遠に滅びを強いられているようで辛くなる」と、この第ニ階層の赤い森を誰かが表現していた。
同じ赤なのにアディールの赤い髪は頼もしく、凍てついた心を溶かしてくれるような気がした。
掴まれた腕が燃えるように熱い。
雪之丞は降り頻る赤い木の葉を見上げながら、思う。
死ぬ事は出来ない。ならばもう少し、この地で足掻いてみてもいいのではないかと。



<了>


















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