これは審神者、東雲千尋(しののめちひろ)と静形薙刀の会話形式のSSです。
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<雲の上で囁く噺>
本丸の外廊下を軽快な足取りで審神者、東雲千尋が速足で駆けて行く。
廊下を走ると怒る刀剣男士が居るので、常日頃速足で進む癖が出来て居た。
その角を曲がれば目的の刀剣男士の居る部屋だ。
千尋は腕に抱え込んだ書類を抱え直し、勢い良くその角を曲がろうとした。
その瞬間。
大きな人影がひょっこり角から現れたのだ。
千尋はその大きな人影に驚くが、勢いが止まらずその胸に思いっ切り突っ伏してしまう。
しかし、その相手、三振りの薙刀の一振り、静形薙刀は柔らかく主を受け止め、
「怪我はないか。我が主よ」と問うた。
壮年の男子にしては、余り大きい方でない千尋は、背が高く体格の良い静を仰ぎ見る。
「本当に静さん達、薙刀の皆さんは背が高いですね。
僕、急いで居て、ぶつかってしまってごめんなさい。静さんこそ怪我はないですか」
「ふっ。人の身である主の柔らかい身体を受け止めるのに、怪我など出来ぬよ」
自分の言ってしまった愚問に千尋は頬を染める。
「そうですよね。失礼しました。じゃあ、僕はそろそろ行きますね」
「ああ、今退くから動くんじゃないぞ、主よ」
主を傷付けてしまいそうで、恐る恐る静形薙刀は角のギリギリまで其処から後退した。
「あ、そんなに気を遣わないで下さい。僕は背の高い人に囲まれて暮らしていたので、
慣れているんです。これでも古武道の武術、出来るんですよ」
静は目を丸くして小柄な主、審神者を見詰めた。とても武術をやる体格に見えない。
「僕の兄や姉は僕より背が高くて、最近は弟にまで背を抜かれてね。
一番下の弟なんて、静さん程大きくてモデルをしているんだ」
「モデルとは何だ。主よ」
「あ、ごめんごめん。モデルって言うのは、衣装を考えてそれを人に着て貰って見せるんだ。
その、衣装を着る仕事をモデルって言うんです。
最近は、お芝居の仕事までしてるらしいって聴きました」
「お芝居なら分かるぞ、主」
「うん、昔からお芝居はあるものね。
そのお芝居を沢山の人に見せられる技術が、現代にはあるんだ」
「てれびという奴や、えいがという奴だな。巴が教えてくれたから、知っているぞ」
「うん。そう。巴さんは現代や未来の事を良く勉強しているものね」
「呼んだか。主」
静の後ろから巴形薙刀も顔を出した。どうやら、いずれも武装しているので、
道場で稽古でもする予定だったのだろう。
「あ。調度良かった。巴さん。実は相談したい事が有って。今部屋へ伺おうと思って居たんです」
すると巴形薙刀と静形薙刀の二人は審神者を見詰め、次にお互いの顔を見合わせた。
そして二人で話し始める。
しかし、二人はとても背が高く大きいので、背が低い千尋には雲の上で会話をされているように、
全くその会話が聞こえないのだ。何やら深刻な話をしているみたいで気になる。
「巴さん。静さん。何を話されているのですか。僕にも聴かせて下さい」
まるで幼子のように、その場で跳ねる審神者に気付いた二人は、まるで父親のように微笑んだ。
「何、巴に主が古武道の武術が出来ると教えていたのだ」
「驚いたな。主よ。我等は剣術だが、主は武術が使えるのか。それは心強い」
「何だ。そんな事ですか。はい、僕の両親、兄が道場を開いていて、兄は今館長なんですよ。
僕も若い頃は嗜んでいたんですが、家事に専念する内に鈍ってしまって、
今は期待される程、身体が動かないかもしれません。
武術も出来る山鳥毛さんや鬼丸さんに教えて頂こうと最近思ってます。
やはり、僕も時間遡行軍に相対した時に、足手纏いになってはいけませんから」
しかし、静形薙刀も巴形薙刀も憮然とした顔になって手にした付喪神の大元、薙刀を鳴らす。
「我等の仕事を取って貰っては困る。主を護るのは我等の仕事」
「そうだぞ。主を前線に出すようでは、我等の沽券に関わる」
雲の上から睨みを効かされて、すっかり小鳥どころか仔栗鼠のようになってしまった審神者を、
やはり大きい蜻蛉切が通り掛かり、擁護してやったのは数分後の事だった。
<了>
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私も背が大きいのですが、従弟や弟は190㎝の世界の人だったので、
会話が聞き取れず、聴くと耳が下がって来るという。
雲の上の会話ってこういう事にも言うんだなって思い書きました。