腐要素と思われる方もいるかもしれませんので、ご注意下さい。
また、時効とは思いますが、ネタバレがあります。プレイ希望の方は自己回避でお願いします。
大丈夫な方のみ下へスクロールして御覧下さい。拙いし、凄く短いです。すみません。
出来たら「二人の白皇」以降の二人も書きたいです。主従ですが。
<全ては御心のままに>
カミュが定期的に就寝時、血を吸いに来るようになってハクオロの体調は頻繁に悪くなった。度々貧血になり日中眩暈を起こす。
政の仕事をサボりたいが為の嘘かと最初は訝しげに思っていたベナウィも、ハクオロの顔色の悪さと只ならぬ雰囲気に考えを改めるしか無かった。
しかし、食事や栄養の管理はエルルゥが厳重に行っている。
好き嫌いの無いハクオロは、トウカに毒見と称して邪魔をされてはいるものの、食事は必要最低限に採っている。
政の仕事量が多い場合は、夜半まで掛かってしまう事もあるが、徹夜をさせたりはしていない。
詰まりハクオロが貧血になる要因に、心当たりが無いのだ。
ベナウィが理由を問うと困ったように、「分からない」とハクオロは小さく微苦笑するだけだった。
午前中から始めた政の仕事も昼食を採った後、一回も休憩を取っていない。
眉間にシワを寄せながら唸って仕事を進めていたハクオロも先程から大人しい。疲れているのだろう。
そろそろエルルゥがお茶を持って来る時間だった。
ベナウィはハクオロに一服をするように提案しようと木簡から顔を上げた。
しかし、その光景に目を見開く。机に突っ伏すかのように、今にも倒れそうなハクオロが荒い息をしていたのだ。
びっしょりと汗を掻いて心なしか小刻みに震えている。余程気分が悪いのだろう。目許が赤く涙目になっている。
ベナウィは今迄気付かなかった自分を嫌悪する。そしてすぐにハクオロに駆け寄った。
「聖上!しっかりなさって下さい!今、すぐにエルルゥ殿をお呼び致します。聴こえますか?」
「ベナ…ウィ…。気持ち…悪…ぃ…」
ハクオロはそう言うとベナウィの胸にゆっくりと倒れ込んで来た。
ベナウィは冷たい汗を掻いているハクオロを抱き抱えると、傍に控えていたトウカにエルルゥを呼びに行かせる。
一瞬迷ったが、やはりハクオロの部屋へ連れて行く事にする。
ハクオロの部屋は禁裏にある。近くにはエルルゥの部屋もあるので書斎よりは何かと便利だと判断したのだ。
気持ちが悪いと言うハクオロを背負う訳にもいかず、ベナウィはハクオロを大切に胸の前で抱き上げる。
所謂お姫様抱っこの格好になる。流石に恥ずかしいのかハクオロは脚をバタつかせた。
「ベ…ベナウィ…。は…恥ずかし…い…から、降ろして…くれ…!」
「無礼かとは思いましたが、お部屋までの辛抱です。何卒お許し下さい」
書斎からハクオロの部屋までは少しある。兵達の前を通る可能性もあるのだ。恥ずかしい事、この上無い。
しかし此処で我侭を言ってベナウィを困らせても自分には何の得も無いとハクオロは咄嗟に判断する。
どうせすぐに気を失ってしまうだろう。其程にハクオロの体調は最悪だったのだ。
「済まな…い…。任せ…る…」
顔を胸に押し付け襟元をきゅっと力なく握って来る仕草は、我主とは言え可憐な姫君にも勝るとも劣らずとベナウィはつい思ってしまう。
抱き上げると余りもの軽さに衝撃を受ける。肩に預けてくる細い首も、その手に掴む胸や脚も、同性とは思えない程に華奢で、この儚げな人に自分達がどれだけの重責を背負わせていたのかと身が割かれる気がした。
ハクオロの顔色は悪くなる一方でベナウィは慌ててハクオロの部屋へ向かった。
「貧血に良く効くお薬は飲んで貰ったので大丈夫です。じゃぁ血や肉を作る食事も作って持って来ますね」
それまで看ててやって欲しいとエルルゥに頼まれ、ベナウィは頷くしかなかった。
入れ替わり立ち代わりでハクオロを見舞いに遣って来る者達が後を絶たない。
目を醒まさないハクオロを起こさない為に、ベナウィが中に、トウカが外で見張り、見舞い客を追っ払っていた。
既にアルルゥや家族同然であるオボロにユズハ、ウルトリィやカミュ達の見舞いは済んでいる。
後は一般兵や皇居で働く者達だった。ハクオロは国民皆に愛されている珍しい皇なのだ。
ハクオロが倒れた知らせは皇居内を駆け巡り、一刻の間に皆が知る事になったのだ。
先程より大分顔色が良くなったハクオロにベナウィは目を伏せた。恐らくハクオロは自分が貧血になる理由を知っている。
しかし、それは言えない理由なのだ。
ハクオロが言えない理由となると、この皇居に住まう誰かが原因と考えるのが自然だ。ベナウィは大きく溜息を吐いた。
幾ら推測してもハクオロが言う気が無いのならば、解決出来ないだろう。
ハクオロは度々貧血で倒れ、政の仕事は溜まる一方。ベナウィは眉間にシワを寄せた。
その視線の先、ハクオロは小さな寝息を立てている。
「それでも只、私はあなた様をお護りするだけです」
ベナウィはハクオロの様に小さく微苦笑した。
この世界の者が知る事の無い農作物の作り方を知って居り、鉱石の加工の仕方、色街の掌握、斬新な兵法を用いた戦、誰もが成し得なかった事を意図も簡単に行う、他国に一目置かれる皇。しかし、皆は知らないのだ。
人を倒す刀を加工する事に因って戦が熾烈になり、人が寄り多く傷付く事になると苦しそうに話していた皇。
時には冷酷とも言える兵法で戦には勝ったが、暫く夜な夜な魘されていた皇。
他国から色街に売られてくる娘達に心痛め、必死に身請けなど救済しようとする皇。
皆が知らない処で、誰よりも傷付き、誰よりも苦しんでいたのは、この主なのだ。
ベナウィは枕元にあった布でハクオロの額の汗を拭ってやる。この細い首も華奢な手足も、優し過ぎる性格も全てが愛おしい。
「聖上…」
そっと呟いてみると、それに応えるかのようにハクオロが目を醒ました。
ぼんやりとベナウィを見上げ、それが誰か分かると嬉しそうにそっと微笑む。
その微笑を見ただけでベナウィはふわりと幸せになる。
ハクオロは人を惹き付けて止まないと誰かが言っていた。将にその通りだった。
出逢った時からずっと自分はこの皇に焦がれている。自分だけで無く出逢った者は全て、この皇を愛してしまうのだ。
老若男女問わず全てだ。
「心配…掛けたな。済まない…」
「いえ…。万全になる迄、何も考えずにゆっくりお休み下さい」
暫く呆けていたハクオロは小さく頷くとまた目を閉じる。やがてまた小さな寝息は聞こえ始まるとベナウィは安堵の吐息を漏らす。
貧血の件はいずれ分かる事もあるかもしれない。またハクオロから理由を切り出してくれるかもしれない。
ベナウィは諦めに似た溜息を小さく吐いたのだった。
<了>