あぽまに@らんだむ

日記とか感想とか二次創作とか。

春風の思い出キッチン(SQ4)

2020年05月04日 | 世界樹の迷宮4関連

 

 

これは2014年3月12日に掲載して一端ボツにしたSSですが、

これはこれでプリムの一面かなと思い直し再掲します。

プリムローズは敬語のシャスに似た性格の娘だと設定したのですが、

このSSでは、我が儘娘っぽい性格をしています。パラレルだと思って下さい。

尚、ベルガモットの9年間は、一種のファンタジーですよね。過労死します。

読んで下さる方は、下へスクロールしてご覧下さい。

↓↓↓↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<春風と想い出キッチン>


「ベルのお弁当がないと行きたくないです!」
唯一のルーンマスターであるプリムローズがレベル上げの為、探索に出掛ける事になった。
パーティメンバーは他ギルドの助っ人が多く、人見知りであるプリムローズには精神的負担が大きかったのだろう。
景気付けという訳ではないが、何かテンションが上がる切っ掛けが必要なのだろう。
探索に出掛ける前日の夜、ベルガモットの部屋を訪れた少女は、開口一番そんな我儘を言い出したのだ。
言われた相手、親代わりのメディック、ベルことベルガモットは自室の扉の前で鼻息荒く立ち尽くす
愛娘に数回瞬きをした後、大きく溜息を吐いた。
この少女は一度言い出したら絶対に引かない事を良く分かっているからだ。

「俺の作った男の料理より、宿屋の女将さんが作ったお弁当の方が余程美味しいと思うぞ」

現在、ヴァランシェルドのギルドメンバーはほぼ全員、このタルシスの街の美人女将で有名なセフリムの宿に長期滞在している。
美人な女将さんの作る料理は独特な場合もあるが、殆どが家庭の味で美味しく、
冒険者達の大きな胃袋を満足させている。
プリムローズも幼くして亡くした母親の味を想像させるのか、
女将の作る料理は大好きな筈なのだが、果たして。

「いいえ!ベルのお弁当がいいんです!お願いです!」

拝むように目の前で手を合わされてベルガモットは肩を竦め再度大きく溜息を吐いた。
プリムローズは見た目は華奢でか弱い少女だが、冒険者の両親を持つ生粋のサラブレットである。
兎に角頑固なのだ。
良く言えば粘り強く諦めない。
しかし、こういう場合絶対に引かない。
説得するだけ無駄なのだ。
一方的に叶える事が難しい願いがないだけマシなのだろう。
明日は他ギルドメンバーからメディックが助っ人に入るので、
ヴァランシェルドで唯一のメディックで休みの無かったベルガモットは久々の休みだった。
ゆっくり寝坊し、薬の調合や薬剤を調達しに行こうと思っていたのだが、それは午後からでも出来る。
義理だが可愛い愛娘の頼みである。
叶えてやってもいいだろう。
それに幼い頃はいつも作ってやっていたのである。

「ん~食材の在庫によっては簡単なものになっちゃうかもしれないけど、それでもいいかい?」
「勿論!楽しみにしてます!おやすみなさい!」

剥れて尖っていた唇はすっかり弧を描き、満面の笑みになるとプリムローズは嬉しそうに自室へ戻って行った。
ベルガモットは整理していた薬品の入った容器を一通り片付けると、
鞄の奥から黒いシンプルなエプロンを引っ張り出した。
使い込まれた黒いエプロンは色褪せて所々擦り切れている。
しかし、幼かったプリムローズに寂しい想いはさせまいと必死に手作りの料理で育て上げた証でもある。
形のいい眉を困ったように下げながらベルガモットは宿の女将に台所を貸して貰えないかと相談に行く事にした。


翌朝。プリムローズはいつもより早起きした。
第5迷宮、煌天破ノ都に出立する集合時間にはまだだいぶある。
遠足の当日に早起きしてしまう幼子のように素早く身嗜みを整え、
探索に必要なアイテムを確認すると階段を駆け下りて行く。
半分も降り切らない内に、台所から香ばしい香りが漂って来た。
セフリムの宿の朝食の時間は決まってはいない。
冒険者からの依頼があれば簡単な弁当も作って貰える。
しかし女将の仕込みの時間にしては早過ぎる時間なので、女将ではないだろう。
そう、この匂いは幼い頃、毎朝嗅いでいた匂い。
義父のベルガモットの料理の匂いなのだ。

「ベル!本当に作ってくれたんですね!この匂いは……サンドイッチ!」

大きな籐の籠の中、焼き立てのパンに挟まれた何種類ものサンドイッチが余熱を冷ます為、
水を弾く厚紙に包まれ置かれていた。
ベルガモットの得意料理、サンドイッチ。プリムローズは瞳を輝かせた。
ふわふわの卵とトマト。照り焼きチキンとしゃきしゃきのレタス。
ポテトサラダ。メンチカツと千切りキャベツ、苺と生クリームまである。
一体何時に起きたのだろう。
それ程に凝ったものばかりだった。
いや、幼い頃からベルガモットは一生懸命手料理を作ってくれた。
朝はルーンマスター養成学校へ通うプリムローズに合わせて早起きし、朝ご飯を作り、共に朝食を摂る。
少女を学校へ送り出すと洗濯など家事をこなし眠る。
午後には起き出してメディックになる為の医療の勉強を独学で学び、
夕飯の用意をするとプリムローズを出迎え、共に夕食を摂り、
少女が眠ると冒険者として稼ぐ為、迷宮に潜り、明け方に戻って来るのだ。
そんな過酷な生活をベルガモットは愚痴一つ零すことなく、
プリムローズがルーンマスター養成学校を卒業するまでの9年間遣り遂げた。
そんなベルガモットの得意料理がサンドイッチだった。
最初は目玉焼きやハムとキュウリなど挟めそうな物を取り敢えず挟んだだけの物だった。
しかし、文句一つ言わず全部平らげるプリムローズに、ベルガモットは女冒険者に少しずつ料理を教えて貰い、
精進を重ね、遂にはパンまで焼ける程になった。

「ベルの……サンドイッチだぁ……」

プリムローズは自分の我儘に誠意を持って応じてくれたベルガモットに涙ぐむ。
保温が出来る魔法が掛かったマジックアイテムのポットにハーブティーを淹れながらベルガモットが微笑んだ。
皆が心惹かれる優しい微笑みにプリムローズは素直に謝った。

「ベル、無理させて御免なさい。折角のお休みだったのに…」

素直な愛娘にベルガモットは小さく首を振った。

「いいんだ。俺も久々にプリムの為に腕を振えて嬉しかったし。これで存分に闘えるだろう?」
「ええ!私がレベルを一杯上げたら、ベルもまた休めるわ」

集合時間はもう間近だ。
再度プリムローズはベルガモットに礼を言うと重そうな籐の籠を軽々と腕に絡めた。
集合場所に着けばソードマンやインペリアルなど筋力の高い男性冒険者が持ってくれるだろう。
それを見越した重さだった。その彼に礼を出来るくらいの量は入っている。
宿のドアを開け、蝶のように軽やかに走り去る娘を見送りながらベルガモットは大きく溜息を吐いた。
心地よい疲労感だった。
余った食材を余ったパンで挟み、切り落としたパンの耳は揚げて砂糖を塗してある。
仕込みに来た女将に台所を借りた礼を言うと、ベルガモットは皿に料理を乗せ自室に戻ると二度寝する事にした。
今はあの頃のように家事や勉強をする必要は無い。
久々の休みを満喫する事にして、ベルガモットは愛娘の活躍を祈りながら目を閉じた。
春はもう間近だ。


<了>


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しっかし、私、タイトルに「春風」入れるの大好きですよね。
春風いいですよね。花粉の嵐ですけど。

 


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