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伊勢根付職人 梶浦明日香の『手のひらの幸せ』

情けなさの中に眠る才能

日々の仕事は、そんなに日々の成長や前進を感じられないもの。その場で足踏みをしているような、モヤモヤぐるぐる停滞しているような苦しい時こそ、実は後から思い返すと成長していた大切な時間だったりします。

職人になりたての頃、私はなかなか刃物を上手く扱えず、人一倍基礎的な練習が長かったんです。モヤモヤと、このままでは根付職人として仕事していくのは無理かなぁとも思ったし、才能ないなぁって情けなさでいっぱいになったりもした。
上手く出来ないし、上手く出来ないと楽しくないし、心が前に向けない。周りには天才のようなすごい人がたくさんいて、SNSを通じて知る道具への探究心も、どう頑張っても敵わないって思わされる圧倒的な無力感。

うーん、楽しくないぞ。。。

その頃、師匠の工房は8月の暑い時期は冷房がないため閉鎖する季節だったこともあり、8月の1ヶ月以上全く根付から離れました。
特に意識して離れたわけではなく、なんとなくやらなくなったというか、無理しなかったというか。
いわゆる、ただの怠惰です。

でも、これが良かった。
無理ならしょうがないなと割り切れたことで、自然とまた根付彫りたいなが戻ってきて、9月にはいつのまにか根付を彫っていて、楽しいと思えていた。
もちろん、休んだから技が上達したわけではないし、出来ないままではあるのですが、それでもどこか、‘やっぱり根付好きだな’があって、一生成長する仕事なんだから、のんびりでいいか。私のペースでいいか。
なかなか成長できない分、長生きしてより長く仕事したらいいか。という気持ちになれました。

この仕事は、短期の誰かとの勝負じゃないんです。
一生続く、自分との対話なんです。

無理しない。我慢しすぎない。

その、苦しい時期を過ぎるとまた、頑張りたい成長したくなる時が来る。
その時まで、心の中の‘やっぱり好きだな’の火を、どんな逆風でも水をかけられても消さずに燃やし続けられるか。

それだけ。
その火が消えなければ、きっとそれは続けていってもいいっていう証だと思うから。





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