不意に、この世界はゲームなのかもしれないと思った。
男はさっきから同じことしか言わない。もう話すことないかな、と思って何度も同じゲームキャラクターに突撃するあの感じ。あれがきっとバグりでもしたんだろう。
残念ながら問題は、バグが起きようが何しようが再起動もリセットもできないということだ。プレイヤーは、バグと遭遇しないように慎重にクエストをこなしていかなければならない。
プレイヤーは自分自身なのだろうか。
それとも、自分を動かしている他人の指があるのだろうか。
そんなことを考えていると、世界が白黒に変わった。
日替わりのBGMを選択して、家を出る。
寒い、と感じても実際ただの言語情報で、ゲームに支障が出るものじゃない。感情論はもっとも不要なものだ。そもそも、他人の感情ははじめから設定として組み込まれている。もちろん、自分が感じるものも制作者の意図で設定されている。
制作者は誰だ?
そんなことを思ったが、止めた。
本来なら考える必要もないことだ。多くのゲームキャラクターは自分が作られた存在だと認識していない。
あたかも、れっきとした人間であるかのように同じ言葉を何度も呟く。
ゲームにしては何もかもが抽象的すぎるのが一番の問題点かもしれない。一度中断をしてカスタマーに文句のコメントのひとつでも入れたいところだが、それもできない。きっと、クリアしてからじゃないとこちらの意見は聞いてくれない。はっきり言ってクソゲーだ。
せめてステータス画面くらい表示してほしい。
ゲームクリアの条件は。
それはただ一択、【死】でしかない。
ただ、【死】にはいくつもの種類がある。自死、事故死、自然死、その他諸々。死に方でグッドエンドかバッドエンドか、トゥルーエンドかが決まる。ゲームである以上、バッドエンドは避けたいというのがゲーマーの意地だ。ゲーマーは自分自身ではなく、自分を操るプレイヤーのことを指す。だから自死は選択ができない。
世界の真理に気づいたところで何かが変わるかと言われても、事実何も変わらないだろう。だって、この思考も制作者の意図するところだからだ。