先日の衝撃的な出会いから、冷めやらぬ私は相変わらずナリタブライアンのレースに夢中になっている。
彼の人生は本当に栄光と挫折と言う言葉が相応しかった。3歳当時、彼に勝てる馬は皆無と思えるほど、彼の強さは群を抜いていた。実況が言っていた。まさに横綱相撲だと。栄光の1年が終わり、彼は足の怪我をしてしまう。春のレースは出場出来ず半年間の休養を経て、秋の大レースに出場した。しかし、周囲からは、体調不良、調教不足と言われていた。お尻の筋肉は落ち、到底全盛期だった彼の走りを出来る状況でないことは明らかだったらしい。人間であれば、この状況でレースに出場するかは自分の意思で決定できる。練習不足で衰えた筋力で戦えば、怪我が悪化し、最悪な事態になれば選手生命が危ぶまれる。
だからトップアスリートは選手生命持続のため、決して無理な選択はしないだろう。でも馬は自分で決めることはできない。足が痛かろうが、レースに出されたら、精一杯走り抜くしかないのだ。
やはりそのレースで彼は、本来の走りを発揮出来るはずもなく、彼のキャリア史上、最低の屈辱を味わう12位という惨敗に終わったのである。何度も言うが、彼は三冠馬の最強のサラブレッドである。
デビューの年に勝てなかったレースはいくつか経験はしているようだが、6位という順位は今までが最低でしかも1度きりでだった。それが天皇賞という大舞台、しかも1番人気で挑んだレースで、彼は12位という不本意な結果を突きつけれたのである。実況は言っていた。
頭のいい馬だから、足が痛くなる恐怖から本気で走れないのだと。
そのような状態でなぜ彼は走らなければいけないのだろうか。
彼はただ走ればいい馬ではない!
走って勝たなければならない使命を持った馬なのだ!1番人気だから、ファンのために欠場せず走らなければいけないのではない!1番人気だから、ファンの期待に応え優勝しなければいけない馬なのだ!ライバルを寄せ付けず、圧倒的な強さで勝っていた彼が、11頭ものライバルの背中を見ながら走り続けた心境はいかばかりか。当時のレースをリアルタイムで見ていないが、それでもひたむきに一生懸命に走る彼の姿に本当に心を打たれた。
12位という競走馬で初めての挫折を味わった彼、その後のレースもやはり状態は全盛期のものには程遠い。彼の全盛期のあの直線の瞬発力は凄まじいものだった。勝てなくても、ファンは再起を信じ、彼は多くのレースで常に1.2番人気だったようだ。でも順位は上がるがやはり勝てない。
2番人気になったレースで、1番人気の馬とマッチレースの末ハナの差で制したレースが彼の最後の勝ち星であった。
でも私が1番感動したのは、彼の最後になるレースである。実は私は学生時代は陸上部に所属していた。私は中距離ランナーだった。誰もが走る適性というものがある。
短距離が得意な人、中距離向き人など人によってさまざまだが、やはりそれにあったレースの練習をしているし、ペース配分はとても大事である。普段中距離や長距離を走ってる選手が短距離の大会に出ることなど不可能だと思う。短距離を専門としている選手に叶うわけがないのだ。
しかしナリタブライアンのラストレースは、普段中長距離を得意としている彼がなんと1200mという短距離のレースだったのだ。ナリタブライアンのレースは序盤から中盤まではいつも後方にいて抑え気味に走り、第3コーナー辺りから徐々に前に上がり、第4コーナーあたりで一気にまくし立て、ラストの直線でとてつもないトップギアでスパートをかけて他の馬を引き離すという、長距離そのものの走りのスタイルであった。
短距離を専門としてる馬のペースで走ることは容易ではなかったはずだ。
でもファンは彼を信じ、2番人気でスタートした。やはり彼は前半からの出遅れか、ラストでスパートをかけるものの間に合うはずもなく、4位に終わった。でも私は、その4位は表彰に値すると思う。
短距離を走る馬ばかりに混ざって4位というのは、やはり彼の力が本物であったことの証だろう。足の状態が良くない中、自分の得意としないレースに出て、1位と大差ない4位であったのだから。
でも結局はこれを最後に彼は、二度と走ることができない致命傷となる怪我を発症し、競走馬としての馬生を終えた。
自分の苦手な距離であったにも関わらず、彼は本当に一生懸命勝利に向けて走っていた。その姿に栄光を駆け抜けてきた、彼のプライドと意地を嫌という程見せつけられた。せめて最後のレースは、その後に控えていた彼の得意な距離でのレースにしてあげて欲しかった。
クラシック三冠馬になった時にいつもつけて貰ったタスキの重み、それをつけて歩いた栄光のビクトリーロード。
もう一度その歓声の中で酔いしれたかったに違いない。
でも私は彼を知って見たどのレースも、彼は真の王者であり、最強の三冠馬だったと思っている。
史上5頭目の三冠馬!最後こそ彼本来の強さを取り戻すことは出来なかったが、ナリタブライアンというサラブレッドが、平成を代表する最強の名馬であることに疑問の余地はないだろう。
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