公園の隅に生垣があり
その生垣にはアサガオの蔓が
たくさん複雑に絡まりついている。
もう花は終わってしまっていて
そろそろ実をつけはじめる頃だ。
少し前から喉が渇いていたので
その生垣の左隣にある水道で
水を飲もうと近づいていくと
30代くらいの女性が
生垣の向こうから現れた。
手には布製のポーチを持っている。
「あなたも採りに来たの?」
その女性がぼくに話しかけてきた。
ぼくは質問の意味がわからず
「えっ、なにをですか?」と聞き返す。
女性はそれには答えず
少しだけぼくに向かって微笑んだあと
生垣の方に向き直ってなにかを
指先で摘んではポーチに入れ始めた。
「なにをしているんですか?」とぼく。
「黒くなってしまってはダメなの。
まだ緑色のうちにこうしてね」
どうやら女性はアサガオのタネを
採っているようなのだ。
「来年用にタネを採っているんですか?」
「あなたも知ってて採りに来たんでしょ?」
・・・まるで会話が成り立っていない。
「知っててって、なにを?」
「本当に知らないの?」
「はい」
「なら教えてあげるわ。
採取したアサガオのタネをすり潰して
エバラ焼肉のタレ黄金の味と
合わせたソースを作って
豚バラ肉と一緒にいただくのよ」
「それ、美味しいんですか?」
「美味しい?まさか!いえ、失礼。
そうね、あなたの言う通り
美味しいことが私の身体に起こるの」
「美味しいことって?」
「わ・か・が・え・り、よ」
「若返り?あなた、もしかして
イっちゃってる人?」
「まあ!なんて失礼なことを」
そう言ったきり女性は怒った顔で
再びタネの採取を始めてしまった。
ぼくは慌てて頭を下げた。
「軽率な言動でした。謝ります。
失礼なことを言ってごめんなさい」
女性は手を止めてしばらく考えた後
「本当に知らないのなら
そう思われても仕方ないかもね。
でも本当のことよ。若返るの。このタネで。
私の歳を当ててみて?」
「んー、29歳」
「ほらね、それがなによりの証拠よ」
「失礼ですがおいくつなんですか?」
「55よ。どう?びっくりした?」
信じられない!ひょっとしてぼくは
からかわれているんじゃないだろうか。
「あなた、いま疑ったでしょ。いいわ。
証拠を見せてあげる」
女性はジーンズの尻ポケットから
財布を取り出し運転免許証をぼくに見せた。
「ぅわ、ゴールドなんですね」
「えっ、そこ?違うでしょ。
写真と生年月日のほうを見なさいよ」
「1968年3月22日生まれ・・・
え〜っ、この写真があなたなんですか?」
「やっと信じたみたいね」
「アサガオのタネにそんな効力が
あるなんて、ぼく、初めて知りました。
そ、そ、それ、男性にも効果あります?」
「さぁ、それはわからないわ。
でもやってみる価値はあるんじゃないかしら」
「ぼく、チャレンジしてみたいです!
タネ、ぼくの分も残しておいて欲しいです」
「全部は採らないわよ。安心して」
女性は魔性の笑みを浮かべながら
緑色のタネを選んでポーチに入れ始めた。
まるで熟練の人が茶畑で
良質の葉っぱだけを選んで摘むみたいに
慣れた手つきだなぁとぼくは感心して
長いこと女性の手元を見ていた。
今朝方そんな変な夢を見たのです。
あまりにもリアルな夢だったので
起きてからしばらくの間、
アサガオのタネの力を信じていました。
まだ、もしかしたらって思っています。
果たしてぼくは若返りたいのだろうか。
だけど実年齢と見た目があまりにも
かけ離れているとすごくヘンだし、
面倒臭いことも出てきそうだ。
夢に出てきた29歳ふうの女性は
不思議オーラが出ていて美しかった。
あれはあれでありだなと思う。