「お待たせいたしました」
「ロバート、かまわないわ。続けて」
「・・・“魂”は星のように煌めきながら
身体の中でゆっくり回転し続けている。
その魂の表面を覆っているのが"心"で、
いちばん外側を取り巻いているのが”気持ち”。
気持ちは表層部分にあるから
その気になればいつだって
ぴょこんと外に顔を出せますよと。
人間の身体の中の見えない器官、
つまり"精神"のことを
ぼくはそんなふうに思ってる。
地球の構造を想像すると解りやすいかも」
「つまりロバートの考えでは
魂がコア核、心がマントル、
そして気持ちがモグラってことかしら?」
「アッハッハッ!モグラときたか。
すっごくジュリアらしい例え方だね。
素顔で太陽の下に現れるのは眩しいから
サングラスをかけますよって?」
「ロバート、冴えてるじゃない。
相変わらずノリノリの切り返しね。
確かに大人は気持ちをそのまま外に出すのは
抵抗を感じるかも知れないわね」
「ジュリアもサングラスをかけるタイプ?」
「そういうわけでもないけど
思ったことがそのまま顔に出たら
相手を傷つけるかもって思う時や
本心を知られるのは恥ずかしいって時は
やっぱりサングラスは必須よね。
ロバートの考えでは魂って丸い形なの?」
「うん。だけど最初から丸いわけじゃない。
生まれたての時はジャガイモみたいに
歪(いびつ)な形をしているんだ。
ジャガイモの形をした魂が回転すると、
周りを取り巻く"心"は洗濯機の水みたいに
激しく波打つことになる。
心が波打つと気持ちはその影響で
外側に表れやすくなってしまう。
だけど魂はいつまでも
ジャガイモのままじゃない。
回転しているうちに心と擦れあって
河原の石みたいにだんだん丸くなってゆくんだ」
「ロバートの魂はいまどんな感じ?」
「順調に丸くなる方向に向かっていたけど、
ぼくの前にジュリアが現れてからは・・・」
「ジャガイモ君に逆戻り?」
「・・・うん」
「私って人の心を乱す悪い女ね」
「・・・うん」
「うん?フツーそこで、うんって言う?」
「ぼくの丸くなりかけた魂は
元のジャガイモに逆戻りしたわけじゃなく
どうやら新ジャガになったみたいなんだ」
「新ジャガ(笑)?それっていいこと?」
「もちろん!新ジャガは幸せのカタチ。
新ジャガの回転は心を乱すというより
心をときめかす作用があるみたい」
「それなら私の魂もいまは新ジャガ君よ。
ロバートといっしょね」
「チュッ!」
「ぼくは悪い男?」
「相当のワルよ。あっ、新ジャガ君が
高速で回り始めたわ」
「チュチュチュチュチュ・・・」
「ねぇロバート、新ジャガ君も
心と擦れあっているうちに
いつか丸くなってしまうものなの?」
「たぶんそうなっていくと思う」
「ダメ〜!ぜったいにダメ〜!
新ジャガ君は永遠のカタチよ。
男らしく回転し続けるって約束して」
「わっ、わっ、わかったよ。
・・・で、そろそろ食べ始めていいかな?
カルボナーラ」
「まあ!このお店のパスタって
フォーク1本で全部持ち上がるのね」
「そっ、そうじゃないよ。
話に夢中になりすぎて冷めちゃったんだよ。
作ってくれた人にもパスタにも
悪いことしちゃったな」
「まだどうにか食べられそうよ。
ねぇロバートのフォークも貸して。
ほらほら解(ほぐ)れてきたわ」
「・・・ジュリア、フォークって・・・」
「ん?フォークって?」
「生まれたての魂みたいだね」
「ということはパスタは・・・心、
だとすると気持ちはなにかしら?」
「えーと、あっ、ひょっとして味?
だってさぁ・・・」
話に熱が入るのもいいけれど
白熱すればするほど目の前のパスタは
冷めていきますね。
想像力は状況に合わせて使いましょうよ、私。
※写真は冷えすぎて固まってしまった生卵。
パスタがもうすぐ茹で上がるというのに!