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聴刻堂日乗

「ある男」(平野啓一郎)

小説「ある男」(平野啓一郎)。
先日観た映画「ある男」の原作
として読んでみた。

映画はかなり忠実に原作に則って
作られていた。だが、両者の印象
は大きく異なるものだった。

この話は、他人と戸籍を交換して
自分の過去を上書きしてしまう、
という行為がモチーフだ。

物語の主人公の弁護士木戸は、
事件を調査するうちにその行為に
魅かれるようになる。

小説では、木戸は最後にそれを
否定するのだが、映画では真逆の
結末が提示される。

映画は原作にないシーンは殆ど
無い。その順番を入れ替えること
で見事に逆の印象を与えるのだ。

映画の方がドラマチックではある。
しかし、嘘っぽくて腑に落ちない。
だから小説を読んでみたのだが、
やはり両者は違っていた。

小説の方が良かったかと言えば、
どっちもどっちだ。小説の主人公
もあれこれ考えるばかりで、何も
世界は変わらない。

小説で感動した箇所がある。
木戸の書いた調査報告書を、男の
の妻と息子が読んで、会話を交す
場面だ。

中学生の息子は、過去を上書きし
た父親の、本当の過去もしっかり
受け止めて生きていこうとする。

木戸の調査が自覚的に、この息子
のために行われる物語だったなら、
結末とも相まって、子供の幸せを
大切に思う素敵な人物像になった
だろうになぁ。

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