雑記帳

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言語学 近代言語学の成立

2024年10月16日 | 言語学
近代言語学の成立は、19世紀から20世紀にかけての一連の研究や思想に基づいています。従来の言語学は、主に文法や語源に注目しており、規範的な言語理解が重視されていましたが、近代言語学では、言語そのものを科学的に理解しようとする姿勢が強まりました。

1. 歴史的背景

19世紀には、インド・ヨーロッパ語族の比較言語学が発展しました。ウィリアム・ジョーンズがサンスクリットとヨーロッパ諸言語の類似性に注目したことが、後の比較言語学の基礎となりました。また、ヤーコブ・グリムやフランツ・ボップのような学者たちが、言語の進化や体系的な変化を探求し、音韻法則や語形変化の規則を見出しました。

2. フェルディナン・ド・ソシュールの貢献

スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュール(Ferdinand de Saussure, 1857–1913)は、現代言語学の基礎を築いた人物として非常に重要です。彼の著作『一般言語学講義』(Cours de linguistique générale)は、言語を静態的なシステム(ランガージュ)として捉え、個別の発話(パロール)と区別し、言語を符号の体系として理解するという革新的な視点を提示しました。このソシュールの「シニフィエ(意味されるもの)」と「シニフィアン(意味するもの)」の概念は、後に記号学や構造主義に影響を与えました。

3. アメリカ構造主義

20世紀前半、アメリカではレナード・ブルームフィールド(Leonard Bloomfield)が主導する「構造主義言語学」が盛んになりました。ブルームフィールドは、言語の観察可能なデータに基づく客観的な分析を重視し、意味よりも音声や文法の形式に焦点を当てました。このアプローチは、後の生成文法の登場まで続きます。

4. 生成文法とチョムスキー革命

1950年代に入ると、ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky)が生成文法を提唱し、言語学に革命をもたらしました。チョムスキーは、すべての人間が生得的に備えている「普遍文法」を前提とし、言語の規則は人間の認知能力に基づいていると主張しました。この考え方は、言語学を心理学や認知科学と結びつけ、さらには言語の創発的な側面に注目させました。

5. その他の言語学派の影響

言語学はその後も多様な展開を見せ、社会言語学、談話分析、意味論、語用論など、言語の異なる側面に焦点を当てた研究が進められてきました。また、言語学は計算言語学や人工知能の分野とも結びつき、新しい可能性を広げています。

このように、近代言語学の成立には多くの思想や学派が寄与しており、それらが組み合わさることで、言語の多様な側面を科学的に解明するための枠組みが構築されてきました。


言語学における構造主義

言語学における構造主義の基礎を築いたのは、スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュールです。彼は、言語を単なる単語の集合ではなく、関係的なシステムとして捉えました。彼の代表的なアイデアには以下のようなものがあります:

シニフィアンとシニフィエ:
ソシュールは言語記号(シーニュ)を、「シニフィアン(signifiant、意味するもの)」と「シニフィエ(signifié、意味されるもの)」に分けました。
たとえば、単語「木」という音や文字の形式(シニフィアン)と、それが表す概念やイメージ(シニフィエ)は密接に関連していますが、自然的な結びつきではなく社会的な約束事によって成り立っているとされます。

ランガージュ、ラング、パロール:
ソシュールは、言語を「ランガージュ」(言語行動全体)、「ラング」(特定の言語システム、社会的な規則や構造)、「パロール」(個々の具体的な発話)に分けました。彼は特に「ラング」という言語システムに焦点を当て、これを構造的に分析することで、言語の全体像を理解しようとしました。




歴史学 近代歴史学の成立と発展

2024年10月16日 | 歴史学
近代歴史学の成立と発展は、17世紀から19世紀にかけてのヨーロッパにおける知識革命の一環として起こりました。これは、歴史を科学的に研究し、過去を批判的に理解しようとする学問の誕生を意味します。以下、その主な段階を見ていきます。

1. 啓蒙時代の影響 (17世紀末〜18世紀)

啓蒙思想が広まる中で、歴史は単なる物語や神話ではなく、合理的に解釈できるものとして扱われるようになりました。この時代、哲学者や歴史家たちは理性と客観性を重視し、歴史的な出来事を論理的に説明する試みを始めました。例えば、フランスのヴォルテールやイギリスのエドワード・ギボンは、歴史を批判的に分析する先駆者です。

2. 近代歴史学の成立 (19世紀初頭)

19世紀に入り、ドイツを中心に歴史を科学として扱う試みが本格化しました。歴史学者のレオポルド・フォン・ランケは、「事実をそのままに描く」という方針を掲げ、厳密な資料批判に基づいた歴史研究を提唱しました。これにより、歴史は客観的で正確な情報に基づいて構築されるべき学問としての地位を確立します。彼の方法論は「実証主義」として知られ、現在の歴史学の基礎となりました。

3. 実証主義の発展と挑戦

実証主義は、歴史学が自然科学のように精密に進められるべきであるという考えに基づきました。しかし、19世紀末から20世紀にかけて、歴史は単なる出来事の記録ではなく、その背後にある社会的、経済的、文化的要因も重要であると考えられるようになりました。これにより、マルクス主義やアナール学派などの新しい視点が登場し、歴史学はより多様な方法論を採用するようになりました。

4. 20世紀の多様化とグローバル化

20世紀に入ると、歴史学の対象や方法論はさらに多様化し、経済史や社会史、文化史、ジェンダー史、環境史など、従来の政治史や戦争史を超えた新しい分野が登場しました。また、植民地支配や帝国主義の批判的な分析が進む中で、非ヨーロッパ圏の歴史も注目されるようになり、歴史学はグローバルな視点を取り入れるようになりました。


近代歴史学は、17世紀の啓蒙思想から始まり、19世紀にレオポルド・フォン・ランケの実証主義によって確立され、20世紀には多様な理論やアプローチが登場することで発展してきました。今日の歴史学は、過去の出来事を理解するために、多角的な視点やグローバルな視野を取り入れる成熟した学問となっています。



生物学 博物学と生命論

2024年10月16日 | 生物学
博物学と生命論は、生物学の歴史における重要な概念であり、自然界の理解に大きく貢献してきました。これらは、生命現象の観察や理論的な枠組みを提供し、現代の生物学へとつながる基盤を築いています。

1. 博物学とは

博物学(ナチュラリズム)は、自然界における生物や現象を観察し、記述する学問分野です。18世紀から19世紀にかけて、特に動植物の分類や生態系に対する理解を深める役割を果たしました。

博物学の特徴

観察重視: 博物学は、実験よりも観察に重点を置きます。特に、野外でのフィールドワークを通じて自然の現象を詳細に記録することが中心となります。

分類と記述: 博物学者は、生物を分類し、形態や行動を記述することにより、生命の多様性を理解しようとしました。カール・リンネは、二名法という生物分類の基礎を確立し、動植物の体系的な分類が進みました。

多様性の認識: 博物学は、地球上の生物が非常に多様であることを示し、異なる地域で見られる生物の特徴を比較することで、生物の適応や進化の初期の考え方にも影響を与えました。


博物学の役割と衰退

博物学は、19世紀半ばにダーウィンの進化論やメンデルの遺伝学が発展するまで、自然界の理解において重要な役割を果たしましたが、次第に実験生物学や分子生物学など、より実証的で理論に基づいたアプローチが主流となる中で衰退しました。それでも、フィールドワークに基づく博物学的な研究は、今日の生態学や環境科学においても重要な基盤となっています。

2. 生命論とは

生命論(Vitalism)は、生命を無機的な物質とは異なる特別な「生命力」によって説明しようとする哲学的および科学的な理論です。生命現象は、単に物理的・化学的な法則では説明できないとする立場から始まります。

生命論の歴史的背景
生命論の概念は、古代から続く哲学的な伝統に由来します。例えば、アリストテレスは、全ての生物は「エンテレキア」(内在的目的)を持ち、それが生命活動を支配すると考えました。これは生命が何らかの「目的」や「力」によって動かされるという考えに基づいています。

 近代に入ると、生命論は19世紀の生物学において、生命現象が単なる物理化学的過程では説明できないとする立場を取る科学者たちによって支持されました。特にドイツの生理学者ヨハン・フリードリヒ・ブローディンは、生命力の存在を提唱し、生命活動を支配する特別な力を想定しました。

生命論への批判
19世紀後半から20世紀にかけて、生命論は物理学や化学の発展とともに、次第に批判されるようになりました。ルイ・パスツールによる微生物学の発展や、フリードリヒ・ヴォーラーが有機物(尿素)を無機物から合成したことは、生命を物理化学的に説明できるという考え方を強めました。

 さらに、20世紀に入ると、DNAの構造解明や分子生物学の進展によって、生命現象が物理化学的な法則で説明可能であることが証明され、生命論はほぼ科学界から退けられました。

生命論の影響
生命論は最終的には物理主義に取って代わられましたが、生命についての考察を深め、特に生物学の初期発展において重要な役割を果たしました。生命が持つ複雑さや、物質だけでは説明できないように見える現象に対する興味を喚起し、科学的探求を促すきっかけを提供しました。

まとめ

博物学は、自然界の生物の多様性と構造を観察・記述することを通じて、生物学の基礎を築きました。一方、生命論は、生命の本質に関する哲学的議論を巻き起こし、物理学や化学では解明できない独自の生命力を仮定しました。現代の生物学では、これらのアプローチは物理化学的な説明に取って代わられましたが、いずれも生物学の歴史において重要な役割を果たし、現在も自然観察や生物の複雑性に関する理解を深める上で影響を残しています。