鉾田巌さん冤罪事件は、日本でのホロコーストだと思っている。犯罪者ではないにもかかわらず40年も自由を奪われたのみならず、ずっと死刑の恐怖にさらされていたことは想像を絶する。現代の日本ではこうした冤罪でこのようになったが、そもそも死刑制度とは、こうしたホロコーストのような、民族峻滅であったり、ちょっとばかり国の支配者の機嫌を損ねただけで人々を恐怖のどん底に貶めるための装置だと考えるから死刑反対なのであり、まっとうな民主国家は皆死刑制度を廃止している(死刑制度が犯罪抑止になるとか言う意見は、私にはそれこそフェイクである)。私は、死刑制度が単なる司法制度の誤ちによるものではなく、ふとしたきっかけで私たちもいつ彼のような境遇に陥るか、と想像しながら鑑賞する。盛岡は映画館は多いけど、ミニシアターはないので、なかなか観たいドキュメンタリー映画がない中、盛岡でドキュメンタリー映画鑑賞は初めてかも。
上映時間159分、2時間半超えの大作。コアな映画なのですぐに上映期間が終わりかねない、スケジュールを見つけたらすぐに観に行かないといけない映画。
考えてみれば当然だ、袴田巌さんの事件は、子どもの頃からずっとニュースで見てきている事件なのだ。子どもの頃はよく分からなかったし、ぶっちゃけ、2014年に再審開始が決定するまで、事件の全体像も正直よく分からないでいた。しかしその後、ネットの死刑反対の人が集まるコミュニティなどで、重大な冤罪事件だと理解した。そして今年の夏、ようやく無罪が確定すると言う、実に長い話なのだ。公害問題とか戦争映画とか、実際はフィルムの尺より遥かに長い物語がある。映画はそのダイジェストに過ぎない。
冤罪事件としてかしこまって最初は観ていたが、最終的には人々に感動を与えてやまない、エンターテイメントとしても素晴らしい映画だった。何より、元々ボクサーだった巌さんがリングの外で無罪と言う勝利を勝ち得た「日本版ロッキー」であり、姉の秀子さんとの二人三脚の家族愛の物語でもあった。
細かいことは、もうここでは書ききれない。カナダにもほぼ同じ頃に冤罪で服役したボクサーがいて、彼は1993年に無事無罪を勝ち取ったのだが、当然彼は袴田さんを支援しており、まさに世界的なレベルで人権の勝利を描いたストーリー。
戦争(と自然災害と選挙での自民族中心主義的な流れ)ばかりが目についた2024年であったが、こうして袴田さんが無罪を勝ち取ったり、シリアがアサド政権から解放されたりと、悪いことばかりではなかったし、大切なのは袴田さんのように、打たれ続けても決して諦めない気持ちをこの映画からもらった。
浪速のドンファン事件も、実は冤罪だったことが明らかになり、被告が無罪になったのは記憶に新しい。冤罪を根絶することがまず第一だが、いつか必ず、国家が神でもないのに人に死の裁きを与える死刑になくなってもらいたい、と言う思いを後にして映画館を出た。
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