土木屋政策法務自習室(案)

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「旧川の帰属」に関して考察してみた。

2017年12月18日 20時58分13秒 | 河川法

都道府県が行う河川改修工事に伴って、それまでの河川(旧川)が不要となって市町村に移管する場合があります。
しかし、旧川移管は、市町村の負担が増えることから難色を示す場合が多く、なかなかすんなりとは行きません。
このような場合の旧川の帰属を考察してみました。

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旧川の帰属に関する考察

【概要】
洪水によって災害が発生する河川においては、その災害の発生の防止することを目的(河川法第1条)として河川改修工事が行われる。この河川改修工事の手法としては、①既存の河川の断面を拡大する手法(主として川幅の拡張。以下「拡幅」という)及び②既存の河川とは別に新しい河川を付け替える手法(以下「バイパス」という)とに大別することができる。
拡幅の場合であれば、既存の河川区域である1号地(河川法第6条第1項1号。以下、「河6①一」と表記。他の条文も同様)及び2号地(同二)に、拡幅した区域が1号地及び2号地として面的に連続することとなる。このため、一体とした河川区域が形成されることとなり、河川管理者は従前と同様の行政管理及び事実管理※1を行うことについて、なんら問題は生じないものと考える。
一方、バイパスの場合には、バイパス区間に1号地及び2号地が移転し、従前の河川区域は「河川の流水が継続して存する」1号地としての性格を失うこととなる。また既存の河川管理施設は、「洪水による災害発生の防止」(河1)を目的とした施設には当たらないこととなるため、その敷地は2号地としての性格を失うこととなる。つまり、バイパスの場合における従前の河川区域である、いわゆる「旧川」は、河川法の区域としての根拠を失うこととなるため、河川管理者以外の者によって管理される客体(土地及び施設)として扱われることとなる。
従来から旧川の取り扱いは、廃川手続き(河91①及び河令49)によって行政財産から普通財産へ変更するとともに、①同一地方自治体内における所管替え(以下「所管替え」という)、及び②他の自治体(市町村)への移管(以下「移管」という)、の2つの手法のいずれかによってなされてきた。
このうち、①所管替えの場合は、所管替え後の担当課による草刈り等の事実管理が、予算あるいは人的な制約によって従前の河川管理者による管理に大きく劣る水準となる。そのため、地元からの苦情等があった場合には、担当課による対応がほとんど期待できないことから、従前の河川管理者が対応せざるを得ない場合もあるように思われる。つまり、所管替えの場合、担当課は行政管理を担うことはできたとしても、事実管理についてはできない状態となるため、廃川敷地は実質的に放置される状態となる。
このため、住民生活全般を包括的に担い、機動的に対応できる市町村の行政活動に期待して、旧川を市町村に移管することを検討し、市町村との間で移管交渉を行う場合も多い。しかし、この旧川移管交渉においては、河川管理者側の移管の意向に対し、市町村側が新たな土地を管理し負担が増えることを理由として引受けに難色を示すことが多く、移管ができない場合や交渉が河川事業の完成間際までもつれ込む場合がある。
このような交渉となる原因としては、これまでの交渉が市町村側の任意の意思にのみに頼った交渉をしてきたことによることが大きいと思われる。つまり、これまでの河川管理者側の移管の意図は単に「不要物件の引き渡し」に過ぎず、市町村が旧川を引き受ける法律上の義務規定が存在しないとすれば、市町村においては積極的であれ消極的であれ旧川を引受ける動機を見出すことはできない。
しかし、旧川が従前には河川法上、一定の目的をもった行政財産であったことを考えると、単に河川管理者と市町村との任意の合意あるいは市町村の引受けの意思等によって「主観的」にその帰属が決定されるのではなく、住民生活を基点にして旧川が将来備えなければならない機能に着目して、その機能を担う管理者の妥当性を「客観的」に評価することによって、旧川の帰属が決定されることが必要であると考える。
以下には、これらを踏まえ旧川の帰属について考察を行い、原則的な考えを提示したい。
【考察】
従前の河川区域が、1号地としての性格を失い旧川となる場合、その区域は河川法上の行政財産から除外されることとなる。この場合、それまで河川を流末として流されていた隣接地からの地表水、宅内排水及びその他排水(以下「排水等」という)がその行き先を失うこととなる。このため、旧川に排水等を受け入れ、適切に排水できる機能及び施設、すなわち排水路を設ける必要がある。
この排水路を設置する際には、自然の公物としての河川の成り立ちやその河川の位置及び高さを前提として隣接地の排水路等が設置されてきたことを考えると、従前の河川が排水等を受け入れ流下していた形態と同様の形態により排水路を設置することが最も経済的で合理的な選択となる。
旧川に排水路を設置する場合、従前の河川と同様に隣接地の不特定の者の排水等を受けることとなるため、排水路は河川に代わる水路としての公的な性格を帯びる。つまり、この排水路は、民法において自家用等の排水の流末として規定する「公の水流」※2であって、公の管理に属するものとして扱われることとなる。
このことから、旧川に設置される水路は、河川法以外の規定により管理される水路、すなわち「法定外水路」として、市町村管理として扱われるものとなる。
【結論】
旧川の帰属は、旧川における水路の設置の必要を基準として、水路設置を要する場合には市町村への移管、不要な場合は所管替えとして扱うことを原則としたい。
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※1 「河川管理は、事実管理と行政管理に二分される。前者は、堤防の新改築、河川工事の実施、水門等河川管理施設の操作などをいい、後者は、土地の掘さくや工作物の設置の許可などの行政作用をいう。」 古崎慶長 「国家賠償法の理論」 有斐閣
※2 民法第220条(排水のための低地の通水)
高地の所有者は、その高地が浸水した場合にこれを乾かすため、又は自家用若しくは農工業用の余水を排出するため、公の水流又は下水道に至るまで、低地に水を通過させることができる。この場合においては、低地のために損害が最も少ない場所及び方法を選ばなければならない。


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