車でのこと。
信号が赤に変わり、前車が停車。私は待ち2台目に。
右から、歩道から車道を斜めに横切り横断歩道に入ろうと自転車が車道に下りて転倒。
すぐにハザードランプを出して救援に降りた。
車道に伏せるおばあさんに声をかけ、ざっとバイタルチェックをしつつ様子を見て、立てそうなので支えながら立ってもらい、支えながら歩道で再度チェック。大丈夫のようだが混乱してる。
自転車も邪魔なので、他の人に歩道まで戻してもらいつつ、おばあさんが落ち着くまで声を掛ける。
そこに、洒落たサラリーマン風の40代くらい男性が立ち止まったので、自転車を引き上げるよう手伝いを頼んだ。
立ち止まった割にすんなりとは動かないなと思ったが、おばあさんに声を掛ける私に声を掛けたいようだ。
おばあさん優先にしながら耳を傾けていると、接触とかですか?警察呼ばなくて大丈夫な感じですか?どんな状況でした?
とか、状況確認をしたがっていた。
私としては、そんなことよりまずおばあさんと交通なので、一人ゴケでおばあさん大丈夫そうですよ、とかてきとー答えていた。
サラリーマン風は、ろくに手伝わないのに私に声を掛ける。その雰囲気は自信と正義に溢れているのに、手伝わない。
うるさく感じたので、ある程度無視しておばあさんを歩道に立たせ、混乱が落ち着くまで声を掛け、一呼吸して大丈夫ですとのことだったので、自転車には乗らずに押してゆくよう見送り、一連を終えた。
サラリーマン風の挙動はなんだったのか、車に戻ってしばらく走ってから思いついた。
彼は、私が犯人で警察も呼ばずに逃げようとしていると思ったのでは。だから自信と正義ヅラで、救援よりも犯人追い込みに回ったのでは。
確かに私はこんな風体だからある程度仕方がないとは思うし、状況や私の応対を観察する力があれば私が単に救援していいることはわかったはずだが、あいにくその知性と観察力はなかったようだ。
現に、ほか何人かは通りすがりつつすすすと手伝ってくれた。
サラリーマン風は、社会人でちゃんとしてます私って顔してたが、目の前のアクシデントには手を貸さぬまま、正義の味方になりたかったようだ。
自分のほうが社会性がある良識人みたいな上から目線な雰囲気が鼻についてうるさく感じたのでしょう私。
社会性がある良識人なら、まずは人を助け、状況確認はその後だと知らないのだろうか。
そんなこと考えて悔しくなったが、俺、あんなやつじゃなくてほんとうに良かった。ほんっとうのほんとうに良かった。
おばあさん無事だったから見送って終えたが、時間はかかった。授業には遅れ気味になるが、受講するあの学生たちは私の対応に理解どころか満足してくれると自負があったので、安全運転で学校に向かった。
まずは救援。
同時に二重事故や二次災害の防止。
状況が安定したら状況確認や検分や見分。
それすらわからないやつが正義かざそうとする。社会人でもなければ良識人には程遠い。
俺が怪しいなら、何もしなくてもいいからせめて邪魔しないように、他の車とか立ち止まってる人々に状況聞いてればよかろう。
ほんとうに、あんな人でなくて良かった。
そのことを確かめさせてくれたってことだけがあいつの良いところ。
でも切なかったな。
おばあさんに迎えの人があったほうが安全なので、ケータイある?家に電話してあげようか?自分で電話できる?変わるから電話しようよ、とかいろいろに聞いたら、おばあさんはどれも断っていた。
何度目かの声かけのあと、おばあさんは、家に電話してもどうせ誰も居ませんから、と言った。
どうせ、って言ったんだ。
自転車だから近場の買い物か、時間的には午後からのなにかサークルか、近場のお出かけでもお化粧もして綺麗にしていた。
経済的に困っている風にはなく、地域もそれなりに人気エリア、自転車もキレイな電動アシスト、お化粧もばっちり。
しかし声掛けに、どうせ、って答えた。
勝手に垣間見た切なさにやられそうになったが、あいつへの悔しさがせり出して切なさは悔しさの陰に。慰められた。
なるほど、嫌なヤツも役に立つんだな。
お前のようなヤツでも少しは役に立つことを励みに、ニセ正義と良識人ぶってなんとか生きてゆくといい。
思ったんだけど、ああいう人が自粛警察になったりコンプラマスター気取りで人にアレコレ言うんだろうな。
いや、まじ、ちょう、めっちゃふつうに、あんなやつじゃなくてほんとうに幸せだ。
あいつには取引先はあっても、私のようにステキな仲間なんて居ない。
ま、同じ類いのマウンターたちとオサレバーでシケた酒の値札見てからやっぱ違うなとか言うがせいぜいだろうな。
あなに?
勝手に想像しすぎ?
あのさあ、見た目でわかるんだよ。しかも今回は声かけてくれたからかなり的確にわかる。
そんなことわからないのにキャンプやれると思う?
あの時気付いてればなにかやってやったのに、それができなくて悔しんだよな。
次に会ったらシワのないあのシャツにケチャップかけてやろうかな。
ふふ
楽しみ増えてさらに幸せ。
でも
切なかった。