セリとナズナ2 ~My Dramatic Life~ 

駆け出しデザイナーにして壮大な妄想家・セリの綴る脳内爛漫日記。

【短編小説】Ambition 4

2012-12-14 | Weblog2
 Ambition 【4】


 その翌日のことだった。
 放課後美術室を訪れた私の目に入ってきたのは、植物が枯れたかのようにへろへろと地べたに横たわった『願いの虹』の姿だった。「願い」の部分は、昨日乗せたときのままの美しい姿で、中心にただぽつんと立っていた。

 私は急いでカンコを呼びに走った。再び作品を前にした私たちは、高さを失った帯状のものとお互いとを、交互に何度も見つめた。頭の中が重くて白い粘土に侵食されたようだ。何一つ言葉が見つからず、口からは小さなため息しか出てこない。
 
 カンコが、「ふぁあ」と大きな欠伸をした。どのくらいの時間が過ぎたのだろう。
薄暗くなった教室の時計を見ると、針は五時二十三分を指していた。

「なんか、これじゃあ道みたい」

 ぽつりとカンコが呟いた。確かに、土台に這いつくばった虹は、左から右へ少し傾いた道のように見えた。
「私たちにウエディングケーキは、まだ、少し重かったのかも」
 そう言うと、カンコはサッと私に顔を向けた。
「もう、何言ってんのよ。虹には乗らなかったけど、道にはドーンと乗ってるじゃない。道から外れてないんだから問題なし。これからよ、これから」

 美術展まであと三日。作品名は『願いの虹』から『Ambition』へ。
願いはまだかけない。野望として、自分の手で掴むことができる限りは――。



〈文字数 3,633文字〉











どうもありがとうございました。

お疲れさまです。


最初から最後まで読んだ人、果たして何人おるんかな?

これが、大学のときのゼミの課題です。




さて、

ゼミの課題の「共通テーマ」ですが・・・お分かりになったでしょうか?




「道の上のウエディングケーキ」




が、お題でした。じゃじゃじゃーん。


さすが小説家の先生。

一筋縄ではいかないお題でございました。



当時、この課題に対しての同期の作品には「大人の恋愛」を描いたものが多かったです。

気だるげな表現も多々みられました。

みんな、自分に酔って小説を書いてましたねw(かくゆう私も、ですがw)



いきなりウエディングケーキを出してから物語を広げる人。

ハードボイルド小説として仕上げた人。

コーヒーの香りと共に物語を進行させた人。


色々ありました。



そんな中、ウエディングケーキとは無縁に感じられる「高校」「青春」をテーマにしたのは私だけだったと思います。


みなが本物のケーキを物語に出す中、「粘土」で制作。

コーヒーなどの香りを描く中、キムチ味のカップ麺登場。(ゼミ中から「キムチ臭い!!」と大不評)

しかも、結果論的に「道の上のウエディングケーキ」に見えちゃった・・・というオチも、私だけでした。



「ストレートで安易な表現の小説は書いてやるもんか」と試行錯誤した結果です。

しかし、「じゃあ私がリアルに書けるのはなんぞ?」と悩んだ末、特別な時期の「17歳」を切り取ってみることにしたのでした。


もちろん私は高校時代、美術部でした。

美術室、準備室、グラウンドの描写など、私の高校を思い浮かべながら描きました。






いやはや、

懐かしくて、なんだかトッチ狂ったことをしたような気もします。

が、気にしなーいw



また、小説を書きたくなりました。

思い立ったら書いてみます。

【短編小説】Ambition 3

2012-12-14 | Weblog2
 Ambition 【3】


 『願いの虹』の「願い」の部分はカンコの担当だった。ちまちまと指を動かしている彼女によると、「願い」の部分は私たち二人のアイデアを上手く組み合わせたものになっているという。夏休みにデザイン画を考えているときには、どうしても何を「願い」に置くかが決まらず、結局お互いに好きなものをリストアップしカンコが後々まとめるということになった。
 出来上がってきたものを見る限り、それは三段のウエディングケーキであるらしかった。カンコの願いは「愛」で、私のからは「甘いもの」がチョイスされたようだ。なるほど、上手く表現されている。丁寧に丸められた、愛らしいバラの花を身に纏ったケーキは、あと数日で出来上がるだろうと思われた。

 作品の締め切りまであと四日と迫った日、柔らかなアーチを描いた虹がついに完成を迎えた。虹の七色は、直径3センチ程の棒状の粘土を七つ、一列に並べてくつけ帯状にすることで表現した。そのぽこぽこと丸みを帯びた赤褐色の表面は、水を付けた手のひらで何度も撫で、ツヤツヤとした滑らかな質感に仕上がっている。
 カンコが丹念に作り上げたウエディングケーキは、二人でゆっくりとてっぺんに乗せた。あとは土台を華やかに飾るのみである。カンコも私も、乾いた粘土が張り付いてボロボロになった手を打ち合わせて、あたかも作品が完成したかのように騒ぎあった。

「ねえ、運動部の午後練って五時からだよね?」
 散々喜び合った後、ぐったりした体を机に預けたまま私は言った。
「多分そうじゃない?」
 カンコは頬杖をついて『願いの虹』を見つめている。唇が微かににやついていた。
「明日の放課後、これ、見せてもいいかな?」
「虹だって分かるかねえ、あいつに」と、カンコはいたずらっぽく笑った。

 気がつけば、美術室には私たち二人だけしか残っていない。窓を閉めようとして外を見ると、ライトアップされた校庭ではまだサッカー部の練習が続いていた。
一人一人目で追っては見るものの、視力があまり良くないのと辺りが暗いせいで23番を見つけることは出来なかった。そんなことをしているうち帰り支度を済ませてしまったカンコに急かされ、早々に美術室を後にした。



【4】へつづく

【短編小説】Ambition 2

2012-12-14 | Weblog2
 Ambition 【2】


 県の美術展まで、残すところ一ヵ月半となった。他の部員たちが作業する傍らで、まだ決めてもいない題材に私たちは頭を悩ませていた。と言っても、焦りを感じているのは私一人のようで、カンコはのん気に昨日見たDVDの話をしている。
「それでね、虹のてっぺんにこう、自分の願いを置くの」
好きなものの話をするとき、カンコの手はあっちに向いたりこっちに仰がれたりと忙しく動く。

「要は、自分の目から見て、虹の上に乗っているように見える位置に物を据えるのよ。映画ではさ、恋人とクリスマスに買ったスノードームに願いを掛けて虹に置くの。そのスノードームはね、結婚して新婚旅行で行きたいねって二人で話していたパリの風景が入ったもので、ラストでは主人公の男が一晩だけ、パリの街を亡くなった恋人と歩くところで終わってるの」
「ふうん、ロマンチックだね。でもさ、それって映画の中だけのジンクスだよね?」
「そりゃそうでしょ、実際に叶うわけないって。だからこそ憧れるんじゃん。今回のテーマとしても申し分ないでしょ、決まりだね」

「…何の話?」
 私の返事が気に触ったみたいで、みるみるうちにカンコの目が細くなる。
「もう、だから、美術展に出す共同制作のテーマ。粘土で『願いの虹』を作るのよ。いいと思わない?」
「粘土…ですか」
「やだ、気に入らない?じゃあ言い方を変える。「共同立体造形作品」で、どう?粘土で大きな虹を作ってさ、てっぺんに私たちの願いを置くの。高校最後の作品としてもいい線いってると思うんだよね」

 カンコの目にはもう、『願いの虹』の完成した姿が見えているのだろう。
この日めでたく私たちの作品は、粘土を使用しての立体造形ということに決まった。私としては、別に粘土が嫌なわけではなかったし、むしろカンコと一緒に作品を作っていくのが楽しそうだったので不都合な点は無かった。

 題材が決まれば作業は早いもので、赤土の粘土の取り寄せ、作品の土台の準備、『願いの虹』のデザイン、実際に形を作っていく作業までとんとん拍子に進んでいった。私もカンコも数年来触れることの無かった粘土に、最初は悪戦苦闘だった。
 ビニールに密閉された粘土は冷たくて重くて、その上想像以上に固い。全体重をかけて練りほぐし、空気を含ませ、手のひらの温度を移して柔らかくしていく作業に骨が折れた。そのうちに、少しずつコツを得てきて、力の入れ加減や、粘土が固まり始める時間を計算して作業できるようになった。

 何とか作品の全体像が見え始めた頃には、最後の夏休みが終わり慌ただしく二学期に突入していた。授業が終わってから作品制作にかけられる時間は多くても三時間弱。美術展までの残りの日数も指で数えられるほどになり、日に日に涼しくなっていく外の空気とは逆に、放課後の美術室は熱気で満たされていった。
 作品のメインとなる直径50センチの虹は、内側から粘土を支えるための針金は入れずに制作している。これは私たちが、粘土の中に不純物(この場合、針金のことになる)を混ぜることに、どうしても抵抗を感じたためであった。

「虹って、ふわふわしてて薄くって、今にも消えちゃいそうなものなんだよ。針金を入れるなんて邪道、絶対に嫌」
というカンコの理論に私も納得したので、先生はせっかく自宅から持ってきてくれた太い針金を、薄暗い準備室のどこかに閉まってしまった。
 今になって思えば、こんなにも純粘土製にこだわったのは「不純物の一切入ってない虹の完成」に、私たちは自分たちの願いの成就をジンクスとしてかけていたのかもしれなかった。



【3】へつづく

【短編小説】Ambition 1

2012-12-14 | Weblog2
 Ambition 【1】


 秒針は残り半周をきった。そろそろと、私は割り箸を両指で挟む。

「もう、全然進まないし」
先生の椅子がぐいっと軋む。物の扱いが雑なカンコのことだ。この揺り椅子も、私たちが卒業するまでにはお陀仏かもしれない。
「それ、壊したら先生泣くよ。いただきます」
溢れ出る湯気にのって、キムチの香りが美術準備室中に行き渡った。椅子を粗末に揺らしながら、カンコはちらちらとカップ麺に視線を送る。

 カンコの目がより一層細くなったのを見て、私は準備室専用の大きくて古い扇風機を、カップ麺と、自分の座っていた席と、その横にある窓とを一直線に結ぶ角度に傾けた。
重ったるいキムチ風味の空気は、徐々に外に向かって抜けていく。真夏の太陽に焼かれた校庭には野球部員とサッカー部員が数人、ちらほらと見えるだけだ。
お昼休憩に入ったので部員の多くはきっと日陰に避難しているのだろう。

 ふと、聞き覚えのある声が耳に入った。伸びきった麺を口に運びながら、私はその呼びかけに聞こえないふりをする。
「うわ、何。めちゃめちゃ匂うんですけど」
サッカー部のユニホームを着た、真っ黒な男子が窓に駆け寄ってきた。鼻の穴を膨らませたその顔は、テレビで最近売れてきたお笑い芸人に少し似ている。
「でしょ。もう酷いよねぇ」
と、カンコはわざとらしく苦い表情を作る。
「スーパーカップキムチ味。食べたい?」
そう聞くと、長谷川は汗でテカテカしている手を横に振った。
「や、いらねえ。あっついのによく食えるね」
相変わらず、眉をくいっと吊り上げてよく笑う。

 適当な話を適当にして、長谷川はアイスの買い出しに行ってしまった。
背番号23番は校門を出てあぜ道を元気に走っていく。その姿はどんどん小さくなりついには見えなくなった。
カンコに聞こえないくらいの息を吐いて、私はぬるくなった残りの麺に視線を戻した。



【2】へつづく

小説

2012-12-14 | Weblog2
すっかり日記を書いてませんでした。


最近色々あって、迷走している私です。

「迷走している」は、専門の恩師に言われた言葉ですが。



一昨日あたりから、久々に小説を読んでいます。

朝井リョウの「桐島、部活やめるってよ」です。


この小説を選んだのは、元カレと映画を観に行ったのがキッカケ。

ですが、読んでいるとどんどん過去の自分がフラッシュバックしてくるので、ちょっと驚いています。



高校生の「青春」を切り取ったような内容です。


空気感がすごいです。

自分も高校生に戻りました。


あ、感覚が、ね。


17歳っていいよね。

私にとって、17歳は特別な時期です。年齢です。






自分の高校時代を思い出したと同時に、自分が大学生だったときも思い出しました。


なぜか?

大学時、私は日本文学科で小説を勉強していました。


しかも、現代小説。

しかもしかも、小説家の先生のゼミで。


表現の巧みさや、言葉の絡ませ方などに注目している自分をみて、改めて大学時はこんなんだったよなーと思い出したのであります。





やれ、高校時代だの。

やれ、大学時代だの。


なんともね、ノスタルジックですよ。ええ。

小説を読んでいると、自分の周りの空気が変わってしまって、

仕事に、
現実に、
大人に、

戻るのに、時間がかかる始末です。





そうそう。

思い出したことがあるんです。


大学時、ゼミで小説を書いたことがありました。

後にも先にも、完結した小説を書いたのはこれだけだったと思います。



テーマは、みんな共通のお題。

小説家の先生が定めました。

ゼミでやる気の無かった私(みんな一度はプレゼンをしたのに、私だけはなんだかんだで逃げまくってやってない程にやる気が無かった)でも、この課題にはわくわくして取り組みました。


私は、規制させることと強制されることがキライで、それだけでやる気がなくなります。

この「創作」の課題と「卒業論文」だけは、自由に出来ました。



そして嬉しいことに、自由にやった課題は、毎回いい評価を先生からいただいていました。


「卒業論文」は、最高のS評価でした(ゼミで2人に与えられる評価)。

「創作」も先生から直々に名前を呼ばれ、どこがよかったか、どこの表現を読み解くかなど、分析の対象として取り上げられました。


普段、ぼけーとして意見などしない劣等生組の私が取り上げられるので、みんなの顔が「???」になっていたのを覚えています。









前置きが長くなりましたが、

そんな自他共に認める「劣等生」な私が、最初に評価され注目されたのがこの「小説創作」でした。


でもって、この「小説」は私の高校生活をモデルに書いた短編なのです。

今回、高校生の青春小説を読んで、自分が書いた小説までもが思い出されたのです。






で、

誰も求めちゃおらんでしょうが、自己満で、この課題として書いた短編小説をアップしてみようと思います。

改行など少々手を入れますが、原文のまま、つたないまま、載せます。

多分、4回に区切って。



高校生って、

17歳って、


純粋に生きていたなぁ。

そのときの空気、思考回路、行動、言葉・・・なんかを、丁寧に描写したのが、先生に評価されたみたいです。






五感を刺激できたら、嬉しいな。


興味ある方、是非、次の更新よりお読みください。


でもって、課題の「共通テーマ」は何なのか、当ててみてください。