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『ふぞろいの林檎たち』~台風19号 

2019年12月02日 22時18分13秒 | Weblog
9月あたりにYouTubeで何かの動画を見たら関連動画で『ふぞろいの林檎たち』のアップされた動画が出てきた。
『ふぞろいの林檎たち』は80年代後半から90年代に再放送などで結構見ていて馴染みがあるドラマである。特に大学の時に行ったスキーツアーの帰りのバスの車内テレビでずっとビデオが流されていたのを憶えている。新潟から群馬の一般道の長大な渋滞の中で何話分かを見た。関越道があるのに何で一般道だったのかは不明。
劇中でかかるサザンオールスターズの曲の印象が強い。「いとしのエリー」が主題歌で、劇中では「栞のテーマ」など他のサザンの曲もよくかかる。
YouTubeにアップされている動画を見てみたが、話が部分的にしかわからなかった。馴染んでいて知っている気でいたが断片的にしか見たことがないのであった。
それでTsutayaでパート1とパート2のDVDを全話借りて来て通しで見てみることにした。パート3、4はソフト化されてない。
1983年に放映された『ふぞろいの林檎たち』パート1はなかなか面白い。脚本の山田太一は当時の学歴社会を背景として実存的な問題に取り組んでいたようだ。
1985年に放映されたパート2は、つまらなくはないのだが、パート1では濃厚にあった実存的な問題意識が抜け落ちているせいか、出来事を欠いていて些末な日常が続く。バブル前夜の雰囲気が漂っている。
パート1とパート2が放映された頃は中曽根政権だった。


パート1を見ていたら見覚えがある駒沢公園あたりや環八の等々力付近の歩道橋などが出て来ることに気づいた。ロケ地が出ているサイトがあった:
https://rokechi.net/fuzoroi/
・仲手川たちがよく使っていたブイトーニというカフェは駒沢公園の駒沢通りをはさんだ向かいの今ではマンションになっているところ
・陽子と晴江が岩田に電話する店は第三京浜の出口のところ
・岩田が陽子とのデートにために車で出かける時に西寺を乗せて走るのは自由が丘~田園調布の東横線沿いの道
・仲手川たちが行っていた国際工業大学のロケ地は武蔵工業大(現在は東京都市大)の玉堤キャンパス
など。
36年も経っているわりに街の風景はそれほど変わっていないのだが、ドラマ中で走っている車には隔世の感がある。当時の車は貧相過ぎる。
あとドラマ中に出てくる喫茶店などの店も随分貧相に見える。今ではスタバのような寛げるカフェが沢山あるのに、当時はタバコの煙が充満した狭いテーブルしかない喫茶店ばかりである。当時はありとあらゆる場所で大部分の大人が当たり前に喫煙していた。
これらだけでも今の日本のほうが生活がずっと豊かだと思わせる。実際、暮らしの質はこの36年の間に飛躍的に上昇した。携帯やスマフォがない時代に人と連絡をとるのに手間がかかったのも思い出した。
玉堤あたりを車で通った時に車を停めて丸子川沿いを歩いたら西寺と綾子が立ち話をするシーンを撮影した中の橋があった。
そこから都市大の玉堤キャンパスに入るとドラマ中で国際工業大の教室として出てきた建物などもあった。やはり当時とそれほど変わらない風景のような気がした。
玉堤キャンパスに隣接する食堂でランチした。
その後10月12日に台風19号が首都圏を直撃したのであった。二子玉川から田園調布付近の様子をオンラインでチェックしていたら台風に伴う大雨で玉堤~二子玉川付近の各所で冠水が発生して多摩堤通りが通行止めになった。玉堤キャンパスの一部も水没した。カフェがあるキャンパスの中心的な建物の地下にある図書館が完全に水没してしまった。
それでランチした食堂も水没したかと思ったが、台風が来た翌週に行ってみたらふつうに営業していた。
ランチした後に玉堤キャンパスの前の丸子川沿いの道を歩いたらキャンパス内でカーペットやソファーなど水に浸かった物たちを日干しにする作業をしているのが見えた。

『ふぞろいの林檎たち』はタイトルが比喩している通り特徴がある人物たちが登場して学歴社会というテーマに沿った配置がなされている。それぞれコンプレックスや問題を抱えて生きている。
四流大学の国際工業大に通う仲手川(中井貴一)、岩田(時任三郎)、西寺(柳沢慎吾)の3人が早稲田や上智のサークルの勧誘を真似してワンゲルサークルを作ったら津田塾大生のふりをした看護学生の陽子(手塚理美)と晴江(石原真理子)、それと東洋女子大の太めの新入生の綾子(中島唱子)が入会する。
仲手川が六本木で紛れ込んだ医学部合同サークル主催のパーティーにいた夏恵(高橋ひとみ)は東京外大生、彼女が同棲しているのが東大卒の本田(国広富之)。
仲手川は高尾山でのワンゲルの帰りに入った新宿の風俗店で夏恵と再会する。
本田と夏恵の関係と、それへの仲手川たちの絡みが実存的な問題を提起している。本田は価値の恣意性を掲げるニヒリズム的な思想の持ち主。本田からすると愛情や恋愛といったものは面倒くさいことであり、夏恵との関係もお互いに都合がいいから利用し合っているに過ぎない。夏恵は本田に感化されて風俗店でバイトしているが、不安定な精神状態になって手首を切ったりする。そうした出来事に直面して仲手川や晴江たちも実存的な問題に曝されて行く。この本田と夏恵の関係がこのドラマの一つの極である。
仲手川家、西寺家、岩田家それぞれに家庭内の軋轢や問題がある。仲手川家の家業は酒屋、西寺家は中華料理屋、岩田の父は高校の校長である。
仲手川家では仲手川の母(佐々木すみ江)の兄嫁いびりがきつい。兄嫁(根岸季衣)は心臓が弱く子供を産めないため仲手川の母にとっては役に立たない疎ましい存在である。兄嫁を追い出すために仲手川の母が連れてきたお手伝いさん(千野弘美)もいい人そうでいてきつい。兄(小林薫)が微妙な位置で強い態度を取れないまま兄嫁が耐えかねて家出してしまう。兄は探しに家を出て放浪する。仲手川の兄-兄嫁の関係が本田と夏恵の関係と対極になっている。
岩田家では岩田は出来が悪いと見なされて軽視されている。岩田が一流商社のビルで警備員の深夜バイトをしていたが、ある晩商社の部長が窓から飛び降りそうなところを機転を利かせて救った。部長は岩田のことを買って商社に推して新卒採用の内定まで持って行く。岩田の親たちは一流商社への内定を知って岩田のことを見直したが、あとで社内政治の情勢の変化で内定取り消しになってしまい、再び見離された。
西寺家では西寺は中学時代は登校拒否で大学生になっても親(母:吉行和子)はまだ手を焼いている。西寺は甘やかされて育ったらしく不似合いな高級ステレオなどを持っている。西寺はしばしば大学のキャンパスで後輩の佐竹(水上功治)のグループにいじめられる。
本田は夏恵には商社で一年働いたあと引き抜かれて政府機密に関わる仕事をしていると言っている。夏恵が手首を切ったあと本田が出て行ってしまう。仲手川が本田を探す過程で実は家庭教師を掛け持ちして生計を立てていることがわかる。本田は仲手川に徐々に心を開いて行き、夏恵との関係も変わって行く。本田は教育熱心な母が引いた路線の上で生きてきたという。
男の登場人物周辺は手厚く描かれているのだが、それに比べると女の登場人物の背景の描写は薄い。
陽子と晴江は女子大生に比べて看護学校生の世間的な扱いが低いことに不満を持っている。陽子と晴江は寮のルームメイト。陽子は真面目、晴江は好奇心旺盛。陽子は岩田に晴江は仲手川に気がある。
綾子は肥満と容姿にコンプレックスを抱いている。仲手川に惹かれてワンゲルサークルに入ったが西寺と親しくなる。金持ちのふりをして西寺にプレゼントや小遣いをあげている。

パート1の9話の最後で仲手川家の酒屋に唐突にヘルメットをかぶった左翼のセクトが現れる。10話(最終回)で仲手川たちがセクトの秘密集会にビールを運ぶ。83年当時はそんなセクトがまだ存在していた。日本にそうしたセクトが根強く存在していることと学歴社会には強い結びつきがあるのでセクトが登場したのには案外意味があるように思われる。
最終回で兄嫁が仲手川家に帰って来て仲手川兄-兄嫁の関係が本田-夏恵の初期の関係が体現していたニヒリズムを克服した。
パート1はこうしてきれいに終わった。

続編のパート2は対立構図を欠いているせいかただの恋愛ドラマ+会社の日常に終始しているように思われる。佐竹の会社に西寺と岩田が営業に行くあたりはパート1からのひねりがある。 13話あってパート1より長いのだが、話に収拾がつかずにつじつまだけ合わせて尻切れとんぼなまま終わった。


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