メンデルスゾーンのカプリッチオといえば、「ロンドカプリチオーソ」Op.14が有名だが、カプリッチオと称される他の作品も魅力的なものが多い。メンデルスゾーンのピアノ曲は、早いテンポで駆け抜ける、短調でドラマチックな曲が多い。この「カプリッチオ」Op.5はまさにそんな感じの、3/8拍子、嬰へ短調の6分程度の小品で、私はとても好きだ。15歳の若さで作曲された曲だが、彼の作風は見事に現れている。2つの主題が交互に繰り返されるシンプルな構成で、曲の構成上の奥深さはないが、逆にそれがこの曲の魅力のようにも思える。第2主題はフリスの演奏では、1分47秒頃から、右手のやや不愛想な旋律を左手の16部音符の音階が装飾する形となっている。楽譜を見ながら曲を追ってゆくと16分音符の動きは分かるが、単に楽曲を聴いているだけだと、16分音符の音階を詳細に理解しながら聞くのは難しいだろう。しかし、この16部音符の音階の動きこそがこの小品の肝で、不愛想な旋律に表情や起伏を与えて、メンデルスゾーンらしいドラマチックな雰囲気を生み出している。フリスの演奏では分かりにくいが、この曲の一番の聴かせ処は、実は3分31秒頃からffで始まるmarcatoなのではないかと私は思う。曲は第2主題が変容されながら盛り上がってゆき、トップスピードのままエンディングを迎える。曲を聴き終えると、400メートル走を全力で走り終わった感じだ。
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