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愛着障害と複雑性PTSD──生きづらさと心の傷をのりこえる

岡田尊司,2024,愛着障害と複雑性PTSD──生きづらさと心の傷をのりこえる,SBクリエイティブ.(1.14.25)

親との不安定な愛着を抱えた人は、未解決な心の傷である『愛着トラウマ』に苦しんでいる人が少なくない。深刻な虐待だけでなく、心理的な支配を長期にわたって受けつづけ、主体性を侵害されることで、「複雑性PTSD」を生じてしまうのだ。本書では、愛着障害のなかでも、愛着トラウマとそのもっとも深刻な状態である複雑性PTSDについて解説するとともに、克服の極意と最新アプローチをわかりやすく紹介する。

 愛着障がいと複雑性PTSD。

 主に親による不適切な関わりが愛着障がいにつながり、障がい当事者は、安全基地が欠落していることから、さらなる虐待や暴力の被害を受けやすくなり、愛着障がいに加えて複雑性PTSDを負ってしまう。

 逆に言えば、愛着が不安定な状態とは、養育者が安全基地としてうまく機能していない状態であり、さまざまな危険から守られにくいということでもある。外敵に不用意に近づいていったり、いちばん信用してはいけない存在を信用してしまったりすることで、トラウマ的な出来事に遭遇したり被害を受けたりしやすい。つまり、トラウマの危険が増し、トラウマを受けたときに、その回復を助けてくれる機能も弱い。
 このことは、複雑性PTSDと愛着障害(不安定な愛着)の関係を、改めて教えてくれる。つまり、不安定な愛着を抱えた人は、トラウマ的な出来事に遭遇しやすいだけでなく、遭遇したときに、トラウマ化を防ぐ機能が弱く、PTSDにもなりやすいのだ。
 複雑性PTSDに苦しむ人に、不安定な愛着を抱えた人が多いのは、不安定な愛着のものが、虐待などのトラウマ的な出来事と直接結びついているだけでなく、不安定な愛着が、トラウマからの回復を妨げることによって、その後に受けるさまざまな影響を倍加してしまうからだと言える。
(p.180)

 愛着障がいと複雑性PTSDの当事者は、他者と程よい心理的距離を取ることができない。
 当事者は、特定の他者に対し、全面的依存と過剰な憎悪、攻撃、この両極にはしる。

 トラウマによる傷が深い場合には、他者と離断したままの状態が続くことで、だれともつながっていないと感じ、他者と親密で信頼し合える関係をもつことができない。人生を他者と共有することに困難を生じることもある。他人の小さなミスや欠点にも過敏に反応してしまい、許すことができない。思っていたのと違うと、激しい違和感や怒りを感じ、イライラしてしまう。
 人を心から信じられず、どうせいつか裏切られるという不安が強い一方で、「理想の親」や「理想のパートナー」を求めて、過度に期待して安易に接近し、裏切られるということを繰り返すことも多い。ほどよい距離感でつき合うことが難しく、依存と攻撃のパターンになりやすい。傷ついて、自分の殻に閉じこもり、人とのかかわりを避けてしまうこともある。
(pp.138-139)

 愛着障害や複雑性PTSDがあると、それらにともないやすい否定的な認知や対人不信のため、「自分も他者も当てにならない不完全な存在であり、どうせろくなことは起こらない」という悲観的な予測をもってしまう。頼っている存在に対してさえ
「期待外れだ」「裏切られた」と感じてしまう。少しでも意に反することがあると、貶したり責めたりしてしまうといった依存と攻撃のパターンに陥りやすい。
 そうした自分の傾向をまずは客観的な事実として理解することが、自分や自分とかかわる相手とのあいだで起きている事態を、正確に把握することにつながる。
 不適切な養育や不安定な愛着で、繰り返し与えられたダメージによって、安定した愛着のしくみが獲得されなかっただけでなく、その状況になんとか適応しようとするなかで身につけてしまった考え方や生き方が、自分も周囲も貶め、不幸にしているということ。自分はダメで劣った無価値な人間で、消えたほうがいいと、自分に言いつづけることは、同じことを自分に繰り返し言った親や周囲の人間に、いまも自分自身が支配されているのだということ。
(pp.322-323)

 空腹のときにオッパイを与えてくれたり、おむつを替えてくれたり、眠いときに抱っこをして子守唄を歌ってくれたりといったほどよい世話を、ほどよいタイミングで受けるなかで、いつも世話をしてくれる存在との愛着が形成される。それによって、たとえ一時的にオッパイや世話が遅れたとしても、それを受け入れられるようになれば、その存在に対する信頼自体は安定したままである。こうして、期待外れな部分も受け入れた、揺るぎない関係を築いていくことができる。
 ところが、与えられる世話があまりにも不安定だったり気まぐれだったりすると、信頼関係も不安定なものになり、裏切られたことへの怒りや放っておかれることへの過敏さを身につけてしまう
 その結果、全体的な信頼関係ではなく、満たされるか満たされないか、そのつどそのつどの不安定な関係しかもてなくなる。相手に対する評価や感情は、そのとき次第で、両極端に変動することになる。これが不安定な愛着に二分法的思考がともないやすい理由だと考えられる。
 二分法的思考が色濃く残っていると、長年の努力によって築いてきた関係であろうと、一瞬で水の泡になってしまう危険をはらんでいる。それが他人に向かえば、些細な行き違いで、関係を切るということになるだろうし、自分に向かえば、破局的思考や全否定に走ってしまい、自殺企図に向かわせてしまうことになる。
(pp.325-326)

 回復の可能性が閉ざされているわけではない。

 トラウマの改善に有効なアプローチに共通する基本要素としては、①トラウマに関連した認知に働きかけるアプローチ、②トラウマ体験への暴露(再体験)による脱感作(過敏状態の解除)、③トラウマ体験の再解釈、再統合的アプローチ、④トラウマ由来の回避に働きかけるアプローチ、⑤眼球運動など身体に働きかけて処理を促進するアプローチ、におおむね集約することができるだろう。
(p.190)

 本書は、新書にしては珍しい400ページ近い力作であり、愛着障がいと複雑性PTSDについて、現時点で判明している知見を、網羅的に把握できる一冊だ、

目次
第1部 愛着トラウマと複雑性PTSD
生きづらさの正体
トラウマとPTSD
愛着トラウマと複雑性PTSD
複雑性PTSDの症状と診断
脳・心・体でなにが起きているのか
第2部 愛着トラウマを克服する
回復のための理論と方法
回復のステップ
自分の人生を生きる


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