ガブリエル・ガルシア=マルケス(鼓直訳),2025,族長の秋,新潮社.(3.4.25)
無人の聖域に土足で踏みこんだわれわれの目に映ったのは、ハゲタカに喰い荒らされた大統領の死体だった。国に何百年も君臨したが、誰も彼の顔すら見たことがなかった。生娘のようになめらかな手とヘルニアの巨大な睾丸を持ち、腹心の将軍を野菜詰めにしてオーブンで焼き、二千人の子供を船に載せてダイナマイトで爆殺したという独裁者――。権力の実相をグロテスクなまでに描いた異形の怪作。
奇妙奇天烈な独裁者、「大統領」の物語が、改行なしに、話者を変えながら、延々と続く。
「大統領」が、ラテンアメリカの国々に実在した独裁者たちをモデルにしているのは明らかだが、「権力」を嗤うガルシア=マルケスの諧謔が全編にわたって冴え渡っている。