森達也氏は、わたしと同じ、死刑制度反対論者だが、安易に自説を補強するような取材はしていない。むしろ、被害者遺族に取材を重ねたりと、自説をぐらつかせるような論拠も併記し、誠実に考察を進めていく。
死刑は国家による殺人であり許されるものではないという最大の原則に加えて、執行する刑務官のストレス、えん罪の可能性も考えると、どうしても死刑は容認できない。被害者遺族の報復感情への配慮という死刑容認の根拠は残るが、当然のことながら、死刑を執行しても被害者が生き返るわけでもない。近代刑法は、個別的な感情を超越したところで、罪を償うことの意味を問い続けてきたのではなかったか。死刑容認は、そうした理念追求の思考停止にほかならない。
森達也氏は、このように明確な死刑制度反対の論陣をはっているわけではない。しかし、やはり、死刑容認派の者が本書を読めば、自らの判断を再考する可能性が大いにある。イエスかノーか、揺れ動きながらも、かえってそれが明確な主張以上の説得力をもつことがあること、本書はそのことを明確に示している。
目次
第1章 迷宮への入り口
第2章 隠される理由
第3章 軋むシステム
第4章 元死刑囚が訴えること
第5章 最期に触れる
第6章 償えない罪
罪とは何か。罰とは何か。そして、命とは何だろうか?議論はいつも「賛成か」「反対か」の二項対立ばかり。知っているようで、ほとんどの人は知らない制度、それが「死刑」だ。多くの当事者の声を聞き、論理だけではなく、情緒の問題にまで踏み込んだ、類書なきルポルタージュ。文庫版では、光市母子殺害事件の犯人、確定死刑囚となった元少年との面会も描かれる。そこに浮かび上がるこの制度の本質とは?
最新の画像もっと見る
最近の「本」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事