本作には、前著、『銃・病原菌・鉄』、『文明崩壊』にみられたような、やたらスケールが大きく、ドラマティックな歴史叙述の展開はない。どちらかといえば、地味な、「伝統的社会」についての、自らのフィールドワークと文化人類学の知見を駆使した考察が中心となっている。
ダイアモンドは、「伝統的社会」から「近現代社会」に至るスペクトラムを、「小規模血縁集団」、「部族社会」、「首長制社会」、「国家」の順に措定する。人類の歴史でもっとも長いのは、「小規模血縁集団」の時代であるが、その「小規模血縁集団」と、「部族社会」における、闘争と報復、子育て、高齢者の処遇、宗教、言語、非感染性疾患等のありよう等について、近現代社会のそれと対比させながら、考察されている。
ダイアモンドは、「伝統的社会」を礼賛しているわけではないし、残酷で不幸な歴史的遺物として否定的に捉えているわけでもない。そのバランス感覚がうまく生かされた内容になっていると思うが、内容が地味なだけに、上下巻合わせて800ページ近い大著を読破するのは容易ではないだろう。
上巻
現代の工業化社会=西洋社会と伝統的社会の違いを浮き彫りにし、そこから判明する叡知をどのようにわれわれの人生や生活に取り入れ、さらに社会全体に影響を与える政策に反映させるかについて解説。世界的大ベストセラー『銃・病原菌・鉄』の著者、ピュリツァー賞受賞者が人類の未来を予見する。
目次
空港にて
第1部 空間を分割し、舞台を設定する
友人、敵、見知らぬ他人、そして商人
第2部 平和と戦争
子どもの死に対する賠償
小さな戦争についての短い話
多くの戦争についての長い話
第3部 子どもと高齢者
子育て
高齢者への対応―敬うか、遺棄するか、殺すか?
下巻
本書下巻では、危険に対する警戒心、人間社会と宗教の関係性と重要度の変化、消えつつある言語の多様性と、社会における多言語の使用、非感染性疾患と西洋的な生活様式といった人間社会の諸問題を取り上げる。伝統的社会に強く惹かれ、研究者としての人生の大半をニューギニアなどの伝統的社会に捧げてきたジャレド・ダイアモンドが、現代西洋社会に住む私たちが学ぶべき人類の叡知を紹介する。
目次
第4部 危険とそれに対する反応
有益な妄想
ライオンその他の危険
第5部 宗教、言語、健康
デンキウナギが教える宗教の発展
多くの言語を話す
塩、砂糖、脂肪、怠惰
エピローグ 別の空港にて
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