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本と音楽とねこと

NPOと公共サービス

レスター M.サラモン(江上哲監訳),2007,NPOと公共サービス──政府と民間のパートナーシップ,ミネルヴァ書房.(1.5.2021)

 あまり良い翻訳ではない(英文読解力に加えて日本語表現力が稚拙)が、レスター・サラモンのアソシエーション論の主要論点を把握できる好著。
 サラモンは、レーガン政権期以降の、アメリカ合衆国連邦予算における社会(福祉)支出の低下が、非営利セクター、とくに生活困窮者支援の活動水準を低下させたことを、各種データから論証する。
 富裕層の減税と緊縮財政により、非営利団体は、連邦政府からの補助金が切り詰められた分、サービス利用料による収益に頼らざるをえなくなった。パーソナルサービスの対象が、貧困層から中間層に転換したのもそのためである。
 合衆国連邦政府は、「第三者による政府」(third-party government)なのであって、メディケア、メディケイドにより支出される費用も含めて、潤沢な資金が、連邦政府から州政府に流れ、州政府はそれを事業者に配分する。社会支出の抑制は、サービス利用料を主たる収益源とする営利セクターの医療・福祉分野への進出を助長したが、長きにわたって州政府とのパートナーシップを維持してきた非営利セクターは、営利につながりにくい事業分野においては、依然として大きな役割を担っている。
 こうした合衆国における社会支出の削減と、営利、非営利セクターの動向は、わが国の医療保険、介護保険、そして障がい者総合支援等の動向と比較する意味で、たいへん興味深い。
 本書の白眉は、世界規模での「アソシエーション革命」を論じた最終章だ。ロナルド・イングルハートのいう「静かなる革命」とサラモンのいう「アソシエーション革命」とは、各々、人々の価値意識と集団参加のあり方の大きな変動を現すものであるとの仮説のもと、さらなる議論の深化が必要だ。

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